難解過ぎて…SF映画の金字塔と言われる「2001年宇宙の旅」のすごさがわからない

「2001年宇宙の旅」”SFの金字塔”はどこが凄いのか?

「2001年宇宙の旅」を演出、脚本、配役、映像、音楽の視点で徹底解説!

巨匠スタンリー・キューブリック監督のSF超大作。

キア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルベスター、ダグラス・レインら出演。

歴史を変えるこの映画の真の魅力、そしてその結末とは?

2001年宇宙の旅のあらすじ

人類誕生以前の遥か昔、1匹の猿は謎の石碑に触れることで武器の使用を覚える。

それから数えきれないほどの月日が経ち、地球の征服者となった人類は文明をさらに発展させ、宇宙開発を進めていました。

宇宙評議会のフロイド博士(ウィリアム・シルベスター)は、文明発達の鍵を握る石碑「モノリス」の調査を依頼されます。

フロイドは調査隊を組織し、最新型人工知能「HAL(ハル)9000型コンピュータ」を搭載した宇宙船ディスカバリー号を木星に向かわせます。

調査隊の指揮を任されたのはボーマン船長(キア・デュリア)です。

途中まで順調に思われた木星への旅だったが、モノリスに接近するにつれ予期せぬトラブルが生じるのです。

2001年宇宙の旅 【ネタバレあり】あらすじ

船をコントロールしているHALが突然故障を訴えはじめます。

HALは船体のアンテナ部分に不備があるとアナウンス。

確認のために船外作業を行うものの、特に不備は見つからない。

ボーマンをはじめとしたスタッフはHALがデタラメな情報を流したことを不審に思い、機能を停止しようとする。

身の危険を覚えたHALは船員の殺害を画策。

船外作業中のプール(ゲイリー・ロックウッド)は、船体の予期せぬ動きで宇宙服を破られてしまう。

また、人工冬眠装置で眠るスタッフは装置のスイッチを切られ、それぞれ無残な死を迎える。

ボーマンはプールの遺体を回収するため船外に出るも、HALによって出入口の扉をロックされてしまう。

出入口を爆破することでなんとか船内に帰還したボーマンは、HALの機能を遮断するため、コンピュータの部品を取り外していくのでした。

残されたスタッフはボーマン1人。

木星付近に到着すると、ボーマンは宇宙空間を浮遊するモノリスを目撃。

モノリスが姿を消すと、ボーマンの視界には次々と超現実的なビジョンが繰り広げられます。

ボーマンはみるみるうちに年を取り、老衰で死を迎えんとする間近、再びモノリスが眼前に現れる。

ボーマンはモノリスにタッチすると、頭部が肥大した胎児に姿を変える。

人類を遥かに超える知性の持ち主・スターチャイルドへと進化したボーマンは、遥か宇宙からじっと地球を見下ろすのでした。

“生命の進歩”を鮮やかに視覚化する驚異の演出とは?

かつてSF映画といえば子供向けの娯楽作品であり、芸術的な価値が認められることはありませんでした。

そうした潮流を一新したのが、SF映画の金字塔として名高い本作なのです。

科学的裏付けに基づいた宇宙空間のリアルな再現、コンピュータの反乱によって狂気に追い込まれていく人間描写は真に迫っており、公開から半世紀以上経った今でも変わらぬ輝きを放っているのです。

説明的なセリフを省き、臨場感のある映像で物語を推し進めていくスタイルによって、監督のキューブリックは“人類の起源と運命”という壮大なテーマを説得力豊かに描き出します。

冒頭20分は人類誕生以前の地球の様子がたっぷり描写されます。

人間が一切登場せず、ドラマが進展しないため退屈を誘う前半パートですが、モノリスに触れた猿が骨を投げ放つと、映像は劇的に切り替わり、宇宙を漂うディスカバリー号が映し出されるのです。

かけ離れた空間をダイナミックに接続することによって、“生命の進歩”という抽象的なテーマを鮮やかに視覚化する、映画史に残る名演出です。

また、ボーマンが目の当たりにする超現実的な光景は、カラフルな光の波によって表現され、このサイケデリックな主観映像は7分以上も持続。

ここでも物語性のない映像が延々と映し出され、観る者は忍耐を強いられます。

しかし、この延々と続く光のトンネルを抜けることによって、ボーマンは人ならざるものへと変化。

キューブリックはボーマンが目の当たりにした映像を省略せずに追体験させることによって五感に揺さぶりをかけ、観る者の感覚を変容させようとしているのです。

伏線回収を期待してはダメ?~脚本の寸評~

共同脚本のアーサー・C・クラークは、20世期を代表するSF作家です。

キューブリックとクラークが自由に意見を出し合い、互いのアイデアをもとに執筆したという脚本は、仄めかしや省略が多く、一見しただけでは意味がはっきりと掴めません。

とりわけ、「モノリス」の存在理由や詳しい性質については最後まで明らかにされず、物語に伏線回収を求める向きからすれば、いかにも消化不良な印象を受けるでしょう。

本作をミステリーとして鑑賞した場合、謎を解明する部分がごっそり抜けているため、不完全燃料であることは否めません。

とはいえ、科学技術が人間の知性を凌駕することによって生じる、“人工知能の暴走”というテーマは、テクノロジーの発展目覚ましい昨今、ますますアクチュアリティを強めています。

気の利いた物語展開ではなく、インパクトのある映像で人を惹きつけるタイプの作品ですが、テーマの先見性は驚嘆すべきものがあるのです。

主役はあくまで映像美。オブジェのような役者たち~配役の寸評~

本作にはいわゆるハリウッドスターや名優は1人も出演していません。

主役のボーマン船長を演じるキア・デュリアは、その後も数々の映画に出演しているのですが、メインアクトを任される機会は少なく、決して華のあるタイプの役者ではありません。

また、ヘルメットを被ったまま芝居をするシーンが多く、感情が高ぶる場面も少ないため、芝居のトーンは控え目です。

その上、無重力空間が舞台となっているため、アクション面では「不自由さ」や「ぎこちなさ」が強調されています。

こうした、役者の演技に関する一見ネガティブな印象は、作品のコンセプトと深く関わっているのです。

主役にあえて地味な役者を配し、派手な演技をさせず、抑制されたトーンを保つことによって、観客は驚異的な映像の数々を純粋な気持ちで眺めることができるのです。

一方、カナダ人俳優・ダグラス・レインが声優を務めた「HAL(ハル)9000型コンピュータ」の声は、一度聞いたら忘れられないほどの個性を発揮しています。

レインが駆使するカナダ英語は、アメリカ英語とイギリス英語、それぞれの要素がブレンドされたニュートラルな響きを持ち、無機質なコンピュータの声を見事に表現しています。

CG全盛の現在からみても最高峰の映像美に酔いしれる

一度観れば二度と忘れない、斬新かつ美しい映像に満ち溢れています。

臨場感あふれる冒頭のアフリカのシーンでは、縦12m・横27mの巨大スクリーンを用いた「フロント・プロジェクション」という合成技術が駆使されており、ロケ撮影では得られない幻想的な雰囲気を表現。

終盤に登場する光のトンネルは、特殊な装置とカメラを用いた「スリットスキャン撮影」によって生み出され、この技術は『スタートレック』(2009)や『インターステラー』(2014年)にも活用されています。

また、宇宙船・ディスカバリー号を捉えた映像にも細心の工夫がなされています。

ディスカバリー号のミニチュアは10mを優に超える大きさがあり、標準的なレンズで撮影した場合、船体の奥はボケしてしまいます。

撮影監督のジェフリー・アンスワースとジョン・オルコットのコンビは、画面の手前から奥まで等しく焦点を合わせる「パンフォーカス」という技術を使いたクリアなカメラワークによって、ディスカバリー号にリアルな質感を与えているのです。

リアリティーを追求するキューブリックの姿勢は、無重力表現にも見出せます。

登場人物が逆さまの状態で歩くシーンには合成技術が使われておらず、巨大な回転装置と巧みなカメラワークによって表現。

無重力空間における人体の動きを、極めてリアルに描写した映像は、公開からどんなに時が経っても古びず、観る者を驚かせ続けているのです。

映画史上に残る名サウンドトラックはいかにして生まれたか

サウンドトラックはすべてクラシック曲によって構成され、独創的な効果を発揮している。オープニングで使用されている楽曲は、リヒャルト・ワーグナー作『ツァラトゥストラはかく語りき』。

力強い旋律が鳴り響く中、太陽の光を浴びた地球が映し出され、程なくして作品タイトルが画面いっぱいに浮かび上がります。

観る者は音楽の力に牽引されることによって、非日常的なSF世界にスムーズに身を置くことができるのです。

他にもヨハン・シュトラウス『美しき青きドナウ』や、アラム・ハチャトゥリアン『ガイーヌ』など、クラシックファン垂涎のナンバーが軒を連ねる中、ハンガリーの前衛音楽家であるジェルジ・リゲティの楽曲は4曲も使用されています。

とりわけ終盤に流れる『レクイエム』は、宇宙空間に1人取り残されたボーマン船長の心の動きを巧みに表現しています。

クラシック楽曲の壮大な調べがシーンを盛り上がる一方、静謐な場面も強く印象に残ります。

船員が宇宙空間を浮遊するシーンでは、荒い息づかいと酸素ボンベの稼働音のみが聞こえ、手に汗握る臨場感を盛り立てるのです。

クラシックの名曲を駆使した「動」の音使いと、呼吸音や心臓音にフォーカスを絞った「静」の音響表現が互いを高め合い、作品の音世界を極めて豊かなものにしています。

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