バイクで旅に出る「ツーリング」よりも「旅」のほうがなんとなくかっこいい。同じようなものだが心構えが違ってくるのだ。

贅沢な旅

現代においてバイクで旅に出るほど贅沢なものはない。ここでいう贅沢というのは浪費のことではないもちろん、旅の期間が長ければ長くなるほど、費用もかさむが、ツーリングではお金よりも貴重なものをたっぷりと使う。

それは時間だ。バイク乗りは飛行機や新幹線なら1時間から3時間程度の距離を、その倍以上の時間をかけて旅をする。現代社会において、時間を都合することが何よりも難しい

だから、自由に使える時間こそがもっとも贅沢な代物なのだ。多くの人々は、時間がないから新幹線や飛行機を利用する。バイク乗りは人々が惜しむ時間を悠然と使う。


これが贅沢でなくて何が贅沢と言えるだろう。この贅沢を手に入れるために、バイク乗りは有形無形の努力と苦労を重ねるのだ。

そして、その努力と苦労をいとわない。それは、報われることを承知しているからだ。週末に可能な一泊二日の旅ならともかく、4日以上の旅となると、覚悟と才覚がないと実現できない。

覚悟とは上司や同僚、家族からの辛辣な目に耐える覚悟だ。才覚とはそれらを丸くまとめる度量といっていい

確かな満足感

とかくバイクに乗っていると、現実逃避だの何だのと見られがちだ。しかし、覚悟と才覚の持ち主であるバイク乗りには、これが当てはまらないのは言うまでもない。

ツーリングのためのやりくりに手腕を発揮する覚悟と才覚の持ち主は、大出世することはないにしても、どの世界でもうまくやっていけるのは間違いない(もちろん大出世してもいっこうにかまわない)。

苦労して得た4日なり、1週間なりの時間をかけてバイク乗りは旅をする。その結果、こんなことが起きる。

旅から帰ってきたバイク乗りの目に、周りが以前とは違って見えるのだ。当然、旅の期間が長ければ長いほど、この感覚は強まる。ちょっと浦島太郎のような気分になる。眼前に未知の世界が広がって見える。そして、そこにはある種、恍惚とした快感があるのだ。

バイクには精神の新陳代謝を促す作用があると思う。それが、この浦島太郎現象の要因だ。この快感を一度でも知ってしまうと、バイクでの旅が病みつきになってしまう

旅から帰ってきて1週間もしないうちに次の計画を練り始めていることだろう。

ゆるやかな旅程

ようやく手に入れた4日間なり、1週間なりの自由時間をどう使おうか。地図を広げて、あれこれ計画を練る時間がまた楽しい。

これもバイク旅の一部だ。バイクは乗っている間の快感もさることながら、バイクを降りてもまた別の快感を与えてくれる。

気をつけたいのは、あれもこれもと欲張って綿密なスケジュールを立てると、自分の計画に縛られ、本来は自由なはずの旅を不自由なものになることだ。


あまり、堅苦しいスケジュールを立てない方が旅は楽しい。気に入ったところには長くとどまりたいものだし、時には食事も忘れて、ぼーっとしていたいこともある。

がちがちにスケジュールを決めてしまうと、そういった行き当たりばったりの機転が利かない。初めのうちは、出発1ヵ月前には宿の手配をして、コピーした地図にマーカーでルートを塗り、実際にそれをなぞるような旅の仕方をしていた。

ツーリングマップルはバイク乗りにとっては必須のアイテムだった。これはこれで楽しいのだが、ツーリングを重ねるうちにもう少し大雑把なやり方になった。

宿を予約せず、だいたいの方向だけ決めて出発するときおり、地図を開き、風の向くまま気の向くままに(あるいは天気次第で)さまよい、午後の2時から3時頃を目処にその世の宿を決める。

これなら、雨を避けて当初の目的地とは別のところへ回るといったことも可能だし、途中で気に入った場所に長くとどまりたくなっても対応できる。この方法でツーリングができるようになったのは、携帯電話やスマホのおかげだ。

特にスマホになるとマップアプリでツーリングマップルも必要ないくらい重宝した。旅館や民宿は夕食の支度の関係で、午後2時くらいまでには予約を入れないと受け付けてくれないことが多い。

ビジネスホテルは夕方でも大丈夫だ。宿の電話番号をリストアップしておかなければいけないのが手間だが、行き先が観光地なら観光案内所が宿を斡旋してくれる。

北海道のライダーハウス

北海道には予約の必要のないライダーハウスといった宿がたくさんある。予約がいらないどころか、料金もいらないところが多いのだ。

宿といっても、プレハブやそれに類する簡易宿泊施設だ。ある夏、北海道へ渡るフェリーで出会ったバイク乗りは、ジーンズにぺらぺらのウィンドブレーカー姿だった。

持ち物は財布と歯ブラシとレインウェアだけだ。ライダーハウスがあるから、そういった旅もできる。

そのバイク乗りは、初めての北海道だというのに、明日はどこへ向かうのか、何日滞在するのか、そういったことを一切決めていなかった。

2日後に富良野で再会したときは、ぺらぺらのウィンドブレーカーから新しいフライトジャケットを着ていた。寒かったので新しく調達したそうだ。北海道を甘く見ていたと、彼は真面目な顔をして言った。

日常、計画通りに仕事することが強く求められている現代人だ。旅の間くらいは少しくらいなまけても許される。必要なものは現地調達でもいっこうにかまわない

スマホはどうしてる?

ツーリング中に携帯やスマホの電源を切っているという猛者もいる。勇気のいることだ。それでも、日常を離れ、バイクとの対話を楽しみながら旅をしているときに、携帯やスマホほど似合わないものはない。

携帯やスマホによって楽しいツーリングが中断することを忌み嫌うバイク乗りは少なくないのだ。ぼんやりと景色を眺めたり、食事をしたりしている間もツーリングなのだから。

そう思う人なら、旅の間の携帯やスマホはこちらからの発信専用と割り切ってもいいだろう。電源を切るのも勇気がいるが、見えない鎖を断ち切るには少しくらいの勇気があってもいい。

もっとも、現在はSNS全盛で行く先々でスマホ片手に写真を撮りながら歩き回っているバイク乗りも少なくない。もちろんそれはそれでいいし、楽しければなんでもいいのだ。

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