『母をたずねて三千里』の頃のアルゼンチンは世界の先進国だった!?

『母をたずねて三千里』出稼ぎ先がなぜアルゼンチン?

いまでは考えられない当時の話

「宮崎駿」「高畑勲」というビッグネームがスタッフとして名を連ねることでも知られるアニメ『母を訪ねて三千里』、そのHDリマスター版がCSファミリー劇場にて2025年6月1日より、毎週日曜6時に放送されます。

制作した日本アニメーション社の創業50周年を記念したものです。

2025年5月31日、株式会社ファミリー劇場がアナウンスしました。

「アルゼンチンへ出稼ぎ」がピンとこない?

本作のオリジナルは1976年にフジテレビにて放送された、「世界名作劇場」シリーズの2作目(日本アニメーションによる)にあたる作品です。

1974年に放送された『アルプスの少女ハイジ』のスタッフが再集結して制作された作品で、上述のように高畑勲氏が監督として、宮崎駿氏が場面設定として名を連ねています。

主人公である9歳の少年「マルコ・ロッシ」が、アルゼンチンへ出稼ぎに出たまま音信不通となっている母親をたずね、イタリアのジェノヴァから旅に出るという物語です。

全52話にわたり、マルコが旅を通して成長していく姿が描かれました。

ところで、イタリアといえば現在も昔も先進国のひとつです。

そしてジェノヴァといえばそのイタリアの主要都市のひとつで、こちらも歴史の古い大きな街になります。

マルコの母は、貧しい人たちに向けた病院を経営する夫を支えるため出稼ぎに出たわけですが、その出稼ぎ先がなぜ南米のアルゼンチンなのでしょうか。

「近くでは物語として成立しない」というメタな理由はさておき、わざわざ「アルゼンチン」と設定したのには理由があるはずです。

欧州では貧困層が増えていた時代

本作の世界設定はリアルな現実世界そのままと考えられるので、読み解く鍵は時代設定です。

物語の舞台は19世紀末、そして現実における当時のアルゼンチンは、農業や畜産業で大いに潤う世界有数の経済大国でした。

一方のイタリアはというと、19世紀初頭から末期にかけ、人口爆発と表現されるほどに人口が急増した時代です。

これはイタリアのみならずヨーロッパ全体に見られる傾向で、その背景には近代産業の発展と都市への人口集中があるとされます。

離農し都市で働く人が多く見られるようになると、やがて職にあぶれる貧困層も増えていきました。マルコの父の病院は、そうした貧困層向けだったのでしょう。

食料供給地として潤っていた

アルゼンチンが当時、農畜産業で大いに潤っていたのは、そうしたヨーロッパに向けた食料供給地だったから、というのも一因です。

大いに潤う、すなわち経済活動が活発になると、それだけ労働力も必要になり、それはヨーロッパなどからの移民受け入れというカタチで補っていくことになりました。

マルコの母がアルゼンチンへ出稼ぎに出た、という設定にはこうした時代背景があると見られ、不自然なものではないといえるでしょう。

なおアルゼンチンは、1930年ごろまでは大いに経済成長し、世界の先進国のひとつとして数えられたものの、その後は著しい経済的衰退をしていくことになります。

第二次世界大戦ののちは経済危機と債務不履行(デフォルト)を繰り返し、2025年現在、もはや経済大国だった面影はありません。

アニメ『母をたずねて三千里』が制作された1976年当時であればまだしも、現代において「アルゼンチンへ出稼ぎに」といわれても、歴史を知らなければまるでピンとこないのは、むしろ当たり前といえるでしょう。

ネットの声

「母をたずねて三千里というアニメは有名だから、一つの作品としてまとまったものでもあるのかと思っていたら、これはクオレという作品中の単なる一挿話にすぎないことを知って驚いたことがある。
よくそんな短編作品を、大河ドラマなみに1年ものアニメとして引き延ばせたものだと感心する。」

「日本がブラジルに行ったりするのを推奨していた頃のような感覚なんですかね
マルコといえば序盤でパスタを茹でオイルか塩だけを絡めて食宅に出すシーンが印象的で、当時スパゲティといえばミートソース1択の我が家では、何もかかっていない白い麺だけを食べている光景に驚きました。」

「20年ほど前のNewsweek誌の記事で、「世界には3種類の国がある。先進国と途上国とアルゼンチンだ。そして今そのアルゼンチンのグループに日本が入ろうとしている。」というものがあったのをよく覚えている。
3種類目の国のアルゼンチンの例えは有名で、それはよく引用される。
そこに当時バブル期から立ち直れない日本がそのまま衰退するのか復活するのかという内容の記事だった。
あれから20年余り。。
日本は本当にアルゼンチンと同じ道筋を歩んでいる。」

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