日本の至宝…奇跡のスポーツカーホンダS2000

知れば知るほど「惚れる」その中身! ホンダS2000は日本の自動車史に残る「奇跡」のスポーツカーだった。

新型車のリリース時、優れた内容とは裏腹に、それほど人気を集めなかったモデルを時おり目にすることがあります。

とくに、市場の小さなスポーツカーのカテゴリーでは、こうした傾向が強かったことを覚えています。

なかでも、強く印象に残るのがホンダS2000です。

ホンダの夢は「タイプR」ではなく「S2000」に託された

ホンダのスポーツカー路線は、1960年代に名車S600/S800が途絶えて以来、シビック、インテグラ、アコードといった量産乗用車系(ツーリングカー)に、お家芸となる高性能エンジン(VTECなど)や走行系メカニズムを組み合わせる「タイプR」を軸としたハイパフォーマンスモデルが担ってきました。

こうした意味で、ツーリングカー系の「タイプR」は、いかにもホンダらしさが凝縮された高性能モデルだったのですが、ホンダを象徴する究極の性能を示すモデルではありませんでした。

ホンダらしさを世に示すスポーツカーが必要なのではないか、との結論から、バブル期に企画されたモデルがNSXだったのです。

しかし、ホンダイズムのフラグシップとなるべき存在だったNSXは、エンジン横置きレイアウトのミッドシップ、ユーティリティを重視したトランクスペースの確保といった諸制約のため、必ずしも開発を担当したホンダのエンジニアが意図するスポーツカー像とは一致しない仕上がりだったことも否めません。

徹底的に運動性能、走行性能に振り込んだスポーツカーを作ることはできないものか、「これぞホンダ」とファンを狂喜乱舞させる性能に特化した車両を提供することはできないものか。

性能至上主義を身上としてきたホンダ自身が抱えた問題に、自ら答えるかたちで企画された車両が、1999年に商品化された「ホンダS2000」だったのです。

S2000は、2リッター直列4気筒エンジンをフロントに積むオープン2シーターのFRスポーツカーとして企画されました。

スポーツカーのパッケージングとしては、一連のブリティッシュ・スポーツカーに準じるもっともオーソドックス、古典的な形態の車両だったのです。

しかし、中身は別次元。

徹底的に走りの性能を追い込んだ設計が行われました。

特筆すべきS2000の特長は、大きく分けてボディ/シャシーのコンストラクションとエンジンのふたつに大別することができました。

両者は、並のスポーツカーと一線を画す、それこそ次元違いのレベルで作られていたのです。

まず、注目すべきは、ボディ/シャシーの構造にありました。

S2000は、オープン2シーターとして企画されましたが、オープンモデルの泣き所であるシャシー剛性の確保、というよりスポーツカーとして、必要十分以上のシャシー剛性を持つことがテーマとされたのです。

この思想に基づき考え出されたのが「ハイXボーンフレーム」と名付けられたモノコックボディ(プラットフォーム)構造でした。

数々の専用設計によって誕生した公道を走るレーシングカー

独立した専用シャシーを持つオープンカーの場合は、曲げモーメントの中立軸位置を比較的自由に設定できるのですが(たとえば鋼板バックボーンフレーム+FRPボディのロータス・エランのような場合)、クローズドボディをベースにオープンカーを企画した場合、あるいはオープン2シーター専用設計で臨むもののモノコックボディ構造を採用するため、曲げモーメントの中立軸位置が低くなってしまい(上げることができず)、結果としてボディ全体の剛性確保が難しくなってしまうのが、これまでの通例でした。

しかし、ホンダは、フロアセンターに背が高く大きなBOX断面を持つフロアトンネルを設定したのです。

バックボーンフレーンの中央構造物と同じ考え方ですが、ホンダはプレス鋼板と溶接によるモノコックボディ/シャシーのプラットフォームでこの構造、形状を採用したのです。

このセンタートンネルをボディ前後のサイドメンバー高まで引き上げ、これを水平につなぐX型の構造を考案。

モノコックボディの骨格自体が独立したシャシーとイコールの関係になり、立体的な形状で高剛性かつ軽量なシャシーの構成に成功しました。

そして、この高剛性シャシーの四隅にサスペンションが配置され、路面入力に対して支持剛性の高いダブルウイッシュボーン方式が4輪に採用されました。

もちろん、サスペンション形式は言うに及ばず、サスペンションのレイアウトスペース自体が十分に確保され、上下のアーム長や取り付け位置などジオメトリーに無理がなく、スポーツカーのサスペンションに求められる性能を狙いどおりに盛り込むことができたのです。

このあたりは、終始リヤサスペンションの問題に悩まされていたNSXより、次元の高い基本スペックを備えていたと言える事例です。

とは言うものの、S2000でまっ先に評価すべき点は、やはり高剛性なハイXボーンフレームの存在に尽きます。

しっかりと安定したシャシーがあることで、そこに取り付けられたサスペンションが初期の動きで作動し、旋回時に安定したハンドリング特性を生み出すことができたのです。

もう1点、S2000が他のスホーツカーと較べて圧倒的に突出している要素が、1997ccのF20C型VTECエンジンです。

創業以来、市販スポーツカーもF1も、エンジンパワーがすべてとエンジン性能至上主義を貫き通してきた、いかにもホンダらしいスペックで仕上げられたエンジンでした。

最高出力は250馬力。

ターボ過給ではなく2リッターの自然吸気エンジンでこのパワーなのだから恐れ入ります。

最高出力の250馬力は8300回転、最大トルクの22.2kg-mは7500回転で発生。

レッドゾーンは9000回転から始まるという、市販車としては、とんでもない高回転型のエンジンでした。

2リッター級のスポーツエンジンを、ワインディングなどでフル活用させて走る場面を思い浮かべてもらえば話は早いのですが、たとえば2速か3速かと迷うコーナーでも(旋回中にシフトアップが要求される場面と考えてもらってもよい)、S2000の場合は、迷うことなく下のギヤで引っ張りきることができます。

もう回転限界と思ってタコメーターを見ても、まだ1000回転以上余裕がある、という状況が作り出されているのです。

さすがに8000回転以上でパワーの伸びは感じられませんが、余裕を残して回っているのは大きな安心材料です。

一直線で吹き上がる回転上昇感、回せば回すほどパワーが出てくる出力特性。

回転ゾーンといい、パワーの伸びといい、もはや一般的なスポーツエンジンの領域にはなく、レーシングエンジンと対峙しているような感触を受ける仕上がりです。

S2000の総生産台数は2万台強だったと記憶しますが、車両の内容と較べたら、もっと人気になってもよかったのでは、と思えてしまいます。

しかし、あまりに先鋭化した高性能ぶりが、ユーザーに選択を躊躇させたと言えなくもありません。

明らかに乗り手の技量を選ぶクルマでしたし、流して走ることもできたのですがその楽しさは半減以下になるという、S2000を振り返ると公道を走るレーシングカーという印象が支配的だったのです。

いずれにしても、これほどの高性能車を手にできるチャンスがあった日本という国は、クルマ好きにとって恵まれたモータリゼーション環境にあったと断言してよいでしょう。

ネットの声

「極初期の2Lと最終2.2LのタイプSをどちらも短い期間でしたが乗ってました。
極初期モデルは記事中の通り私如きの腕ではとても全開走行できるものでは無く僅かなテールスライドの処理でも間違うと心臓が口から飛び出しそうでした。
それに比べて最終型は低速からトルク盛り盛りでハンドリングは超マイルドでしたな。
ホンダにしては珍しく?目に見える年次改良を繰り返しただけあって最終型は素晴らしい車でしたな。」

「公道では初期型とタイプSではほんと別の車くらい乗りやすさが違う。そしてサーキットでは、どちらも一般人の技量だと真価を発揮できないくらい懐が深い。元さんと同じペースで走れもしていないのに、この車は限界を超えると?なんて言うのは、車の限界でなく腕の限界なだけなことがほとんど。ドライバーの技量が露呈する車。」

「スパルタンなところがいい。友人がフロントに255タイヤ行こうとしてて、そんな太くしたらフェンダー干渉するわハンドル重いわで良い事ないよといったらタイムがどうの言い出して、サーキット草レーサーも多い車なのだろう。」

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