ホンダF1撤退…いつのまにか四輪事業が四輪事業になっていた
NORTHAMPTON, ENGLAND - JULY 30: Honda branding is seen on the Red Bull Racing RB16 during previews ahead of the F1 Grand Prix of Great Britain at Silverstone on July 30, 2020 in Northampton, England. (Photo by Mark Thompson/Getty Images) // Getty Images / Red Bull Content Pool // SI202007300352 // Usage for editorial use only //

F1撤退だけじゃない 縮小がウワサされるホンダの四輪事業に未来はあるか?

F1撤退の報とともに、にわかに注目を集めているホンダ四輪事業の苦境。

技術開発や製品ラインナップの縮小がウワサされているのですが、収益性を回復させながらもホンダが手放すべきではない価値と財産とは?

ホンダ四輪事業がお荷物に

お荷物と化しているホンダの四輪事業ホンダの四輪事業が苦境に立たされています。

2020年度の第1四半期(4-6月)、ホンダは1136億円の赤字を計上しました。

新型コロナウイルスの影響で計画どおりにクルマが売れなかったのはやむを得ないことですが、

同じ時期に二輪事業が112億円の黒字だったのに、四輪事業が1958億円もの営業損失を生み出したのですから、責任の所在は明らかといっていいでしょう。

ファンにとっては涙が出るほど悲しいことに、四輪事業はいつの間にかホンダのお荷物となっていたのです。

ですから、F1参戦を2021年限りでやめるのも致し方のない判断かもしれません。

「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指して「先進パワーユニット・エネルギー研究所」を設立したのも事実なのですが、

そもそも本業で儲(もう)かっていないのですから、直接的な利益を一円も生み出さないF1に年間数百億円も投じるのはいかにも非合理的です。

経営陣がそう判断したとしても不思議ではありません。

それでも、これで本当にいいのでしょうか。

そうやって経営の合理化を図っていく先に、ホンダの本当の繁栄はあるのでしょうか。

ホンダはもともと“驚き”を生み出すのが得意な会社ですた。

まだ四輪車の生産が軌道に乗ってもいないのにF1参戦なんていう無謀な挑戦を始めたり、

そもそも初の量産四輪車がDOHCエンジンをミドシップしたトラックだったりと、やることなすことハチャメチャばかりだったのです。

しかし、その一方で「S500/S600/S800」なんていう宝石のようなスポーツカーを生み出したり、

世界中の自動車メーカーがそろって「不可能」と断言していた排ガス規制のマスキー法をCVCCエンジン搭載の初代「シビック」でクリア。

数々の魔法を生み出してきたことも事実です。

オシャレなデザインと優れた実用性で軽自動車の概念をすっかりと変えた「N360」、通称“Nコロ”は日本のモータリゼーションを語るうえで欠かすことのできない一台。

当時、多くの家庭に「クルマを持つ喜び」を提供したことでも知られています。

それもこれも、ホンダが「技術にこだわり抜いてきた」からこそ実現できたこと。

なにしろ社名が本田技研工業株式会社なのです。

“技術研究”をその名に掲げている自動車メーカーなんて、世界中探してもおそらくホンダくらいでしょう。

妥協なき技術開発こそホンダの伝統

ホンダファンはいつも独創的な技術を愛してきました。

S500/S600/S800、N360、シビックなどは、すべてその好例といっていいでしょう。

いやいや、「アコード」だって「プレリュード」だって「NSX」だって、ライバルメーカーを圧倒する優れた技術が息づいていればこそ、あれほどの成功を収めることができたのです。

ホンダもそのことがわかっていたから、技術開発には惜しみなく予算を投じてきました。

初代NSXでは総アルミモノコックボディーをゼロから開発しただけでなく、それ専用の工場まで建設してしまったのです。

「S2000」だって専用プラットフォームに専用ギアボックスと、かなりぜいたくな成り立ちを持っていました。

スポーツカーばかりではありません。

「N-BOX」は2代目がデビューする際にプラットフォームを刷新。

軽自動車のプラットフォームを一代限りで「使い捨て」にするなんて、聞いたことがないのです。

でも、そうやって技術に惜しみなく投資する姿勢が、現在の苦境をもたらしたといえなくもありません。

ましてや、現代は電動化や環境対応、自動運転、コネクティビティー、安全性の向上といった技術的課題に、これまでとはケタ違いの予算を投じなければいけない必要に迫られているのです。

つまり技術は金食い虫。

しかも、ホンダの独自性を維持するなら、「やって当然」の技術開発に加えて「ホンダならでは」の技術開発にも取り組まなければいけません。

研究予算はいくらあっても足りなかったことでしょう。

ホンダが一年間に生産する四輪車はおよそ485万台。

これは年間1000万台を超すトヨタ、フォルクスワーゲングループ、ルノー・日産・三菱連合などの半分にも満たない数字です。

しかも独自性を尊ぶホンダは、FCVなどでGMと提携しているのを例外として、アライアンスというものを好ま社風です。

販売台数は決して多くないのに研究開発予算ばかりかかるのですから、収益性が脆弱なのはやむを得なかったといえるでしょう。

そのようなわけで、ホンダは経営の合理化に取り組んでいるのです。

ウワサによれば、その名を聞けばあっと驚くようなモデルのいくつかが今後、販売終了になるもようです。

実は「ホンダe」を皮切りとして複数の電気自動車(EV)を開発する計画も検討されていたのですが、こちらも立ち消えになったようです。

単なるコンパクトカーでもEVでもなく、「人が過ごす時間を豊かにする」ことを主眼に置いたホンダeは、自動車の価値観を根底から覆す可能性を秘めていると期待した人も多かったことでしょう。

この話を聞いて心底、落胆した「ホンダは大チャンスを取り逃した」そう考えた人も少なくなかったのです。

何が浪費で何がビジネスチャンスか…

企業価値を高めるためにもなにが浪費でなにが本当のビジネスチャンスへの投資か、判断するのは難しい。

だからこそ、自動車メーカーにはエンジニア出身の社長が多いのでしょう。

財務畑ではなく技術畑を歩んできた一介の社員が、これほど大規模な企業の代表に就任する例は自動車メーカーを除けばほとんどないのです。

裏を返せば、自動車メーカーの社長はそれほど専門性の高い職務といっていいでしょう。

だから、近視眼的な「儲かった、儲からなかった」だけで経営方針を決めるようでは成功はおぼつかないのです。

コストカッターの名で知られたカルロス・ゴーン氏が、日産の経営健全化には貢献できても自動車メーカーとしての企業価値向上にあまり貢献できなかったのは、ここに理由があったはず。

ましてやホンダは技術が売り物の会社。

別の見方をすれば、技術に投資することで企業の価値を高めてきた自動車メーカーなのです。

そこに手をつけずに利益を増やすのは簡単ではありませんが、時には無謀とも思える挑戦にも果敢に立ち向かう姿勢がなければ、ホンダはホンダでなくなってしまいます。

私は、ホンダの「収益性を向上」させる経営方針が、ややもすればモデルラインナップの縮小や新規技術開発の凍結といった「単純な縮小路線」になりかねないことを深く懸念しているのです。

プラットフォームやパワープラントの統廃合による開発の合理化は避けて通れないかもしれません。

収益性が低いスポーツモデルの数が減ってしまうのは残念だけれど、背に腹は代えられないのです。

けれども、これぞという領域には大胆に投資してもらいたいもの。

そうでなければ、早晩ホンダは「その他、自動車メーカーのひとつ」に成り下がることでしょう。

ホンダの経営陣には、ぜひとも絶妙なセンスを発揮してほしいのです。

そうやって、本当の意味でホンダらしい成功を手に入れない限り、ホンダF1を心から応援してきた私たちの思いは報われません。

おすすめの記事