採用停止も…アイドリングストップの功罪

言い出しっぺが採用停止!! 必要か? 邪魔か?? アイドリングストップの功と罪

2020年2月に登場以降、圧倒的な人気で販売台数ランキングでは2年連続トップとなった、トヨタ「ヤリス」。

スタイリッシュなコンパクトカーであるヤリスの魅力はなんといっても、36.0km/L(ハイブリッド車、ガソリン車は20.2km/L)という驚異的な燃費性能です。

経済的で環境性能に優れるヤリスですが、ガソリン車には、アイドリングストップ機構が搭載されていません。

環境のためにと採用が広まったアイドリングストップが、ヤリスになぜ搭載されなかったのか。

ヤリスがアイドリングストップ搭載をやめた理由を考察します。

ヤリスの先祖、初代ヴィッツが火付けしたアイドリングストップ

アイドリングストップ機構とは、信号待ちなどクルマが停止した際に、エンジンを停止させる機構のこと。

エンジンを停止させることで、無駄な燃料消費を抑え、その分燃費が改善される低燃費技術です。

ドライバーがブレーキペダルから足を離すなど発進の意思を示せば、自動的にエンジンが再始動し、違和感なく発進できるように制御されており、現在は多くのガソリン車で採用されています。

アイドリングストップの発想そのものは古くからありましたが、国内で初めて採用したのは、1971年に登場したトヨタの4代目クラウン。

その後、初代ヴィッツが採用したことがきっかけで、広く採用されることになりました。

この初代ヴィッツが発売開始となった1999年頃は、世界中で地球温暖化問題がクローズアップされ、CO2削減(燃費低減)要求の声が高まったころ。

アイドリングストップは、比較的簡易なシステムで燃費改善が図れることから、一気に普及が進みました。

年間5千円程度の節約が可能

アイドリングストップによる燃費低減効果は、車種や走行パターンによって異なりますが、一般的な走行を代表するWLTCモード運転で見れば、アイドリングストップの燃費低減効果は多くの車種で5%程度です。

この差が燃料費にどれだけのメリットがあるのか、試算してみましょう。

ヤリスのWLTC市街地モードの燃費値15.7km/Lのとき、アイドリングストップ効果を5%、ガソリン価格160円/L、年間走行距離10,000kmと想定すると、年間の燃料費は以下のようになります。

・アイドリングストップ非搭載の年間燃料費:(10,000 /15.7)×160 → 101,910円/年
・アイドリングストップ搭載の年間燃料費:(10,000 /15.7/1.05)×160 → 97,058円/年

以上のように、ヤリスがアイドリングストップを採用すれば、年間で4,852円の燃料代が節約できることになります。

ただ、このアイドリングストップを採用していることでかかってくるコストもあります。

以降で、アイドリングストップ搭載車のトータルコストや耐久性信頼性について言及します。

トータルコストでは不利に

ユーザーにとっての経済性は、燃料費だけでなく、イニシャルコスト(車両価格)とランニングコスト(維持費)を含めたトータルコストが重要。

アイドリングストップ搭載車の燃料費、車両価格、維持費を加味したトータルコストについて、試算してみましょう。

・イニシャルコスト(車両価格)
頻繁に始動、停止を繰り返すアイドリングストップ搭載車では、通常の10倍近い耐久性と応答性に優れたスターターや高性能のバッテリーが必要です。

これらは高価なので、アイドリングストップ搭載車は、一般的に車両価格が5万円ほど高くなります。

このイニシャルコスト差を、先述した年間5,000円の燃料費メリットで解消しようとすると、10年以上かかることになります。

ただ、この試算はあくまで、WLTC市街地モードのような走り方で年間10,000kmを走行する条件での結果です。

タクシーや商用的な用途で走行距離が延びれば、トータルコストを数年で逆転させることも可能ではあります。

・ランニングコスト(バッテリー維持費)
高性能バッテリーを使っていても、アイドリングストップ搭載車は始動頻度が高いために、バッテリーの寿命は短くなります。

主要バッテリメーカーの保証期間は、一般に3年または10万kmですが、アイドリングストップ用バッテリーは1.5年または3万kmなので、バッテリー交換を倍の頻度で行わなければいけません。

しかも、一般的なバッテリーは安いものなら7,000円程度ですが、アイドリングストップ用バッテリーは倍の15,000円以上になります。

交換時期が半分、コストは倍となると、例えば6年の使用期間だとバッテリーの維持費は、標準バッテリーの交換2回に対してアイドリングストップ用バッテリーの交換は3回必要なので、標準バッテリーよりも31,000円(=15,000×3-7,000×2)も高くつきます。

という具合に、アイドリングストップ搭載有無での6年間のトータルコスト差は、燃料費:-30,000円、イニシャルコスト(車両価格差):+50,000円、バッテリー維持費(交換費用):+31,000円の合計で、アイドリングストップ搭載車の方が51,000円ほど高くなる試算となります。

クルマの経済性を最優先するなら、アイドリングストップ搭載車は良い選択とはいえないのです。

トヨタは今後も採用しない方針

経済性の観点からは決して効果的とは言えないアイドリングストップですが、エンジンを停止する分のCO2が減少することは確かです。

ただ一方で、バッテリーを通常の倍ほど使用することについて、バッテリーの製造、廃却時のCO2や環境資源の有効活用など、環境負荷の観点からネガティブな意見があることも事実です。

トヨタは、ヤリス以外にも、RAV4やカローラなどにもアイドリングストップを搭載しておらず、今後も採用しない方向で進めているようです。

トヨタによると、ヤリスやRAV4、カローラはTNGAエンジンを採用しており、アイドルストップ機構がなくても、十分競争力があるとしていますが、実はアイドリングストップ搭載車であっても、ユーザーが機能を停止させているケースが多いということも、採用をやめた理由のひとつとして考えられます。

エンジン停止・再始動の繰り返しをうっとうしいと感じたり、空調を維持するためにエンジンストップを使いたくないというユーザーは意外と多いようです。

アイドリングストップ機構は、エンジンの停止頻度を高めて燃費を向上させる一方で、それがバッテリーの劣化を促進して維持費が上がってしまうというジレンマに陥っています。

トヨタがアイドリングストップを採用しないのは、総合的に見てユーザー負担や環境負荷が少ないと判断したためであり、「言い出しっぺ」であるトヨタが採用を見送ることで、今後他メーカーが追従するのか注目です。

ネットの声

「アイドリングストップ搭載車が発売された時から『不要な装備』と認識された方は多かったように思います。特に車の構造に詳しい方には・・・記事にもある通り、バッテリーは通常より大容量の物を搭載しなければならず、発進する度にセルを回すことから、セルも強化したタイプを搭載しなければなりません。そして、それらのコストUPをガソリン代換算で上回るには、通常の使い方をしている人では絶対に無理と言われていました。正直、真夏にアイドリングストップは苦痛以外の何物でもありませんし、せめてメーカーに『良心』が残っているのなら、アイドリングスットップはメーカーオプションにして欲しかったです。ぶっちゃけ、今の日本に合った動力はHV(PHV)の一択では?EVに踊らされている感がありますが、全車EV化の促進は日本の交通事情に間違いなく合っていません。少なくとも2030年は早過ぎると思います!」

「ヴィッツのはるか前、スターレットに付いていたアイドリングストップはライト点灯中や右ウインカー作動中にエンジンが止まらなかった記憶がある。昔はバッテリー保護が考えられていたのに、エコカー減税が全てを狂わしてしまった。なお、アイドリングストップが廃止される背景には試験モード変更もあるが、エンジンの高圧縮比が実現してアイドリング時のガソリン消費が激減したのもある。2バルブの頃はNAでも圧縮比9以下だったのが、いまや12や13が当たり前になっている。初代シティだったか、レギュラーで圧縮比10を実現したのは当時衝撃的だった。」

「現在の車には不必要な機能が多数搭載され、その代償として価格や重量増のデメリットがあります。
アイドリングストップなど代表的ですがその他にもオートハイビームやオートディマーなどドライバーである以上必須の動作まで自動化するなど言語道断です。
特にライトは必要に応じ点灯や一瞬の非点灯で相手に対しメッセージを送るなど、交通ルールとは別に相手とのアイコンタクトの要素も含まれますが、それらの装備によりそれもスポイルされます。
私は昨年最新の軽を購入しましたがあまりの鬱陶しさに辟易して2か月で売却してしまいました。(32年落ちの太古車を販売店から連れ戻し大金掛けてレストア中)
異見もあるでしょうが車は人が操るものです、ドアミラーを畳んだまま走る馬鹿や夜間にライトもつけないなどの無頓着な輩に付ける薬はなく、即刻免許はく奪で良いのです。」



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