インナーツーリングのすすめ

登山口までバイクで出かけ、そこから山に登るという楽しみ方がある。登山を題材にした書籍は多く、昨今の登山ブームを反映している。登山を愛好するバイク乗りも少なくない。

バイクと登山のインナーツーリング

インナーツーリングというくらいだから、ツーリングの延長線上に何かがある

今回の場合はそれが登山ということだ。本格的な登山をベースとした書籍は多いが、ツーリングをメインに考えると、登山とまではいかなくともトレッキングあるいはもっと簡単にウォーキングとの組み合わせならバイク乗りでも敷居は高くはない。

空気のいいところまでバイクで行き、キャンプ場があったら早めにバイクの用意をする。野山を歩き回るのだ。

『気づけば風が吹いている』(菅生雅文著/ミリオン出版)は、バイク+αの旅の記録だ。

著者はアウトドアの達人であり、野山を歩くどころか、海も活動範囲に入っている。肩肘張ったところがなく、とっつきやすい本なのだけれども、相当にヘビーなこともやっている。

簡単には真似ができないし、素人が何の準備も(心の準備も)無く、手を出せば、しっぺ返しを食うだろう。なお、本自体も再生紙を使っている。

もっとも、それを謳ってはいけない。著者独特の美学が行間からも読み取れる。

山岳道路は気持ちがいい

バイクで走っていて気持ちがいいのは森林の間を縫うように行く山岳道路だ。

これをただ通り抜けてしまうのはもったいない。もっと、その場にとどまっていたい。そのように思う人の多くは、バイクを停めて森の中を歩くようになる。たいていは登山道だ。けもの道で迷子にならないようにしたい。


道は山の頂上まで続いているが、途中で引き返そう。登山者ではなく通りすがりのバイク乗りだからだ。それでいい。

バイク乗りにとってバイクを降りて歩くことには抵抗があるかもしれない。しかし、積極的にバイクに乗る行為と同様に、積極的にバイクに乗らない行為もバイクライフの重要な一面だ。

一泊二日の日程では余裕がなく、ずっとバイクに乗っている行程になることも少なくない。

それはそれで楽しいのだが、二泊三日の日程が取れるのなら、行程の20%程度をバイク以外の時間に充てるところから始めてみる。

仮に1日に7時間バイクに乗るとして3日で21時間だ。その20%は4.2時間、端数を切っておよそ4時間をウォーキングやトレッキングに割いてみる。

片道2時間歩くのはけっこうな運動になる。日程としては真ん中の日に充てるようにしたらいいだろう。

バイクを降りて歩くと違う世界が見えてくる

バイクを降りて歩くと違う世界が見えてくる…当然のことを言っているようだが真実だ。

森はいったん踏み込んでみると、バイク乗りに見せていた顔とは別の表情をしている。

バイクは人間の本能に眠っている野生を目覚めさせてくれる乗り物だ。

その状態で森を歩くと、目覚めた野生がこれまでにないするどい感覚で森の息吹を受け止める。

『森のバロック』(中沢真一著/せりか書房)という本がある。

これには、以下の一文がある。

「神社の森や自然の森に入って、そこにたたずむことのできた人の多くが、解き放たれた、自由の感情をおぼえることになるのだ。人間の世界でごちゃごちゃと混乱した感情と思考が森の中に踏み込んだとたん、そっと雲が晴れて行くように浄化されていくのがわかる。自然の森は、人為でできた社会と歴史を動かしている力の影響を受けない。日本人はそのような森を聖域として護ることによって、真性に出会える場所を手つかずの空域として、この世の中に残しておこうとしてきた。」

たとえば、ツーリングの人気スポットである日光も戸隠も、神社は森の中にある。

参道は杉並木で整えられているが、奥に踏み込んでみると、そこには原生状態に近いまま残されている。

こうなると、森とはいったい何なのか…森のことが知りたくなる。

「森を知ろう、森を楽しもう」(北村昌美著/小学館ライブラリー)や「森の生態学」(四手井綱英著/講談社ブルーバックス)からは自然科学的な基礎知識が得られる。

「再考 日本の森林文化」(市川健夫著/講談社現代新書)や「日本の美林」(井原俊一著/岩波新書)は歴史と文化人類学的な視野も含んだ森の本だ。

森ばかりでは飽きてくる?

山岳道路を含む田舎道を3日ばかり走り回り、森のキャンプ場で朝を迎えるという旅をすると、そのシンプルな生活に新鮮な驚きを覚える。


それはまた同時に、都会を離れ、雑音のない生活を楽しむことができる自分自身を発見する驚きでもあるのだ。

驚きの中で、テレビもカラオケもなくたって、何の不自由もないと旅のバイク乗りは思う。

しかし、4日めともなると街が恋しくなり、星の瞬きよりも街のイルミネーションが懐かしくなるのだ。

そして、バイク乗りは街に帰り、元の日常に戻る。

仕事をし、雑踏を歩き、酒を飲んでテレビを見て眠りにつく。

そんな生活のなかで、バイク乗りはいつかの驚きを心のうちで反駁し、森を恋しく思いかえす。

休暇を取るやりくりと、家族への言い訳を考えつつ、心はバイクの旅に浸っている。

人は森で街を思い、街で森を思う。森と街を結んでくれるのがバイクだ。

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