1年半近く休載が続いている人気漫画「HUNTER×HUNTER」。

その登場人物が鍛錬した方法になぞらえ、連載再開するまでただひらすら「感謝の正拳突き」を毎日千回行うという動画を配信している男性がいます。

YouTubeチャンネルが話題になったことで、数日前まで10人だった登録者数は3千人を突破。

特に語ることもなく、道着がすれる音だけが聞こえてくる20~30分の動画に、たくさんの応援が集まっています。

「連載再開まで一日一千回感謝の正拳突き」

「HUNTER×HUNTER」とは、貴重なアイテムを追いかけることに生涯をかける人たち=ハンターたちの、ドラマと戦いを描く冨樫義博氏の漫画。

1998年に週刊少年ジャンプで連載開始してから、アニメやゲームなどでもたくさんのファンを魅了してきました。

「感謝の正拳突き」とは、単行本25巻に登場する、ハンター協会を取り仕切る尊老・アイザック=ネテロ会長(ネテロ)が40代の頃に行った鍛錬手法。

ネテロが自分の限界を感じ、悩み抜いた先にたどりついたのは武道への「感謝」。

気を整え、拝み、祈り、構えて突く、という一連の動きを1日1万回行うというものでした。

これを数年繰り返した結果、ネテロの動きは格段に高速になり、ついには音を置き去りにするという驚異的な進化を遂げます。

その姿を見た者が「観音様が……!!」と涙するシーン。

印象深く心に刻まれている人も多いのではないでしょうか。

心をわしづかみにするような展開が怒濤のように続く作品ですが、たびたび休載となることも話題のひとつです。

現在も物語は目が離せない局面ですが、2018年11月から、1年半近く休載しています。

動画を配信している、樽江突撃さん(@TarueTotugeki)

樽江さんは、2020年1月16日から「感謝の正拳突き」のライブ配信を開始。これまで120本以上、毎日配信を積み重ねてきました。

実はもともとYouTubeに馴染みがなかったという樽江さん。

配信に踏み出したきっかけは、「4時間座ったまま、ただただカメラに向かってほほえみ続ける」という、シンプルかつハードすぎる動画で話題となったアメリカのYouTuber、ベンジャミン・ベネットさんを知ったことでした。

「企画がなくても、大きなリアクションがなくても、音楽がなくても、ただ一つのことを続ける動画に集まる人がいるって素敵だなって。誰に需要があるとかじゃなくて、それはそれでいいんじゃないかなって思ったんです」

それ以来YouTubeを観るようになり、音楽だけ流し続けるチャンネルや毎日の日記をつぶやくYouTuberなど、表現の幅広さを実感するようになったといいます。

「素人であっても自由にやっていい場所なんだ」と思えた今年の正月明け、「何十人かに観てもらえたらうれしいな、くらいの気持ちで始めました」。

ひたすら正拳突きの45分間です。

作品への「感謝」込めた正拳突き

でも、どうして「HUNTER×HUNTER」だったのでしょうか。

「『HUNTER×HUNTER』が大好きで何年も読んできました。『HUNTER×HUNTER』って休載が話題になることがあって、僕にも連載再開を望む気持ちはもちろんあります。でも、これまで楽しませてもらったことに対して感謝する方法はないだろうかと思っていました」

そこで重なったのが、作中にも登場する「一日一万回感謝の正拳突き」。

動画のファンの目にとまったら、連載再開を持つ間、気持ちを共有することもできるのではないかと考えたといいます。

作中では武道に対する感謝でしたが、樽江さんは正拳突きに「作品そのもの」への感謝を込めることにしたのです。

とはいえ、樽江さんは武道経験ゼロ。

2千円ほどで道着を購入し、正拳突きも見よう見まね。

「一日一万回」の配信を始めました。作中では18時間以上かかるという鍛錬ですが、「素人の正拳突きなので、全然大したものではなく……」といい、初回でも息切れするほどではなかったといいます。

しかし、「それでも3時間くらいかかりまして、平日はまず無理だし、休日も他のことをやる時間がなくなっちゃうなと……」。

慣れない祈りのポーズでぶつけてしまい指がパンパンになり、翌日は腕も筋肉痛。

さすがに生活に支障が出るので、早々に「一日一千回」に切り替えました。

たまに1万回に挑戦することもありますが、「素人のやることなので、大目に見てもらえるとありがたいです」

Twitterで注目「ドキドキで2時間しか眠れず」

頭の中で100回を数え、脇に置いてある紙に「正」の字を書いていくというシステム。

たまに飲み会などで日をまたぐこともあるそうですが、毎日続けることにはこだわりがあります。

「素人の正拳突きだし、言ってしまえば漫画のネタをパクッているだけ。だから毎日続けないと、コンテンツとして成り立たないんじゃないかと思っています」

正拳突きをしている間考えているのは、「HUNTER×HUNTER」への感謝の気持ち。

その上で、回数を重ねるごとに「何も考えずにできるようになってきた」と話します。

記者が「悟りみたいなものでしょうか」と尋ねると、

「悟れていたらいいんですけど、疲れているだけかもしれません」と申し訳なさそうに笑います。

ライブで配信しているのは、「どの動画も中身はずっと左手と右手を交互に突き出すだけなので、本当にやっているか疑われるかも……」という心配があるから。

つい数日前にチャンネルの登録者数が10人になったばかりで、ライブ配信もずっと視聴者は1人か0人が続いていたそうです。

それがツイッターで話題になったことで、登録者数は3千人に急増。

3桁ほどだった再生数も、いきなり22万回と大回転しています。

突然登録者数やツイッターのフォロワーが増えたことで、「感動ももちろんあったのですが、驚きと混乱が上回ってしまっています」。

「小心者で小さなところで生きてきたので、ドキドキしてその日は2時間くらいしか眠れませんでした。胃も痛くて、具合が悪くなるほどで、人気のYouTuberさんってこういうのを味わっているなんてすごいなと……」

樽江さんが仕事から帰宅してから始まるライブ配信には、応援コメントも殺到。

「がんばれ!」というエールや、作中の内容をもじって、

「音が1回分遅れているのか」
「祈りの時間増えてる」
「連載決まった動画最終回には胸の前でハートつくって欲しい」

などのコメントも。

「この人ほど感謝して読んでいる人いないだろ」と尊敬のまなざしも寄せられています。

「好きなシーンは?」に長考…作品への愛

「HUNTER×HUNTER」の魅力を聞いてみると、

「ストーリーも絵もキャラクターも全部魅力的で、漫画の専門的なことはわからないですけど、本当に楽しませてもらっています」。

休載が話題になる度に「それだけ多くの人をひきつけている。待っているのは自分だけじゃないんだ」と感じているといいます。

「あえて好きなシーンを選ぶなら?」と尋ねてみましたが、ずいぶんと困らせてしまいました。

「う~ん…(長考)…いっぱいあるのでなかなか選ぶのは難しいですね。例えば何編だったら、って言われても、たぶん絞れないと思います……。好きなキャラを聞かれても困るくらいなので……」

「難しい質問をしてごめんなさい」と謝る記者に対して「用意してこなかった僕が悪いんです」という腰の低さにも恐縮しました。

そんな樽江さんの言葉の端々から、作品への深い愛が伝わってきました。

改めて「見つけていただいた方や応援してくださる方には感謝しかない」という樽江さん。

「空手もやったことのない素人が応援されると思っていなかったので、あたたかいコメントをいただけるのは望外の喜びです」

「動画で作者の冨樫先生に感謝が届くかわかりませんが、僕にはファンアートを描く素敵な技量もないので、体一つでやらせていただきます」。

連載再開されるまで動画の配信を続ける予定だといいます。

「感謝の正拳突き」動画を120本以上続けてきた樽江さん。

最後にこんな話をしてくれました。

「感謝って良い感情だなって思うんです。伝える人も伝えられる人も、周りで見ている人も誰も損しない、素敵な感情だと思います」

ネットの反応

「これ動画は見てないけどTwitterで話題になってたのは見ました。この方はもちろん、面白いコメントしてる方もみんなハンターハンターが大好きなんだなと、温かくなりました。感謝の正拳突きなんて、リアルの友人たち誰に言っても通じないw」

「なかなか出来る事ではないと思いますので、ぜひ続けて欲しいですね!連載が始まる頃には念能力に目覚めているといいですね!」

「>>感謝って良い感情だなって思うんです。伝える人も伝えられる人も、周りで見ている人も誰も損しない、素敵な感情だと思います。この言葉に感銘を受けました。頑張ってもらいたい。ネテロが達した境地までたどり着けるかも。」

やがて音が後からついてくるような正拳突きになるのか…そのまえに「HUNTER×HUNTER」の連載再開を願うばかりです。


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