健康寿命と平均寿命の知られざる真実

恐ろしい…健康寿命「男性72歳、女性75歳」の知られざる真実

現代の高齢世代の実態や心理を時代背景から紐解くとともに、豊富な調査やインタビューから丁寧に分析。

その悩みの本質や、健康・お金・交流……、さらに“老後二千万円問題”や“キレる高齢者”などを幅広く考察していきます。

そこから見えてきた、人生100年時代の“本当に幸せな健康長寿”の創り方とは?

健康寿命が七〇歳代前半というまやかし

テレビや新聞などで、健康食品やサプリメントの広告がよく目につきます。

そこでよく提示されているのが「健康寿命」。広告では、こんなストーリーで商品を勧めてきます。

『日本人の“平均寿命”は今、男性が81歳、女性が87歳。一方、“健康寿命”は男性が72歳、女性が75歳です。

平均寿命と健康寿命に男性で約9年、女性で12年の差がありますね。

つまりこの期間、健康を損なったまま生きなければならないのです。

これは大変なことですよね。

だから、なんとかこの差を短くすることが重要。

そこでお勧めするのが、今日、ご紹介する~~~というこの健康食品です…。

このような理屈が何年もの間、まかり通っているのが不思議です。

ちょっと思い出していただきたいのですが、皆さんの周りに70歳代前半で要介護状態になり、自立生活ができなくなってしまった人はどれくらいおられるでしょうか。

「ほとんどいない」「一人も知らない」という人が圧倒的でしょう。

身の回りを見渡しても、70歳代前半の人はほとんど元気そうだし、働いている人もざらにいます。

データを見れば、内閣府の「2020年版高齢社会白書」において、75歳以上でも要介護認定を受けている人は約23%に過ぎません。

なのに、発表されている健康寿命は男性が約72歳、女性が約75歳。

不思議ではありませんか?

健康寿命が70歳代前半というのは、実感とも違うし、どう考えても計算が合いません。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

健康寿命は日常生活に制限のない期間

健康寿命は、「日常生活に制限のない期間の平均」で、年代別(年齢階級別)の「健康な人の割合」を基礎として算出されます。

では、「健康な人の割合」はどのようにして把握するかというと、厚生労働省が行う「国民生活基礎調査」において、若い人も含めて年齢に関係なく無作為抽出された人を対象に、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」と尋ね、「ない」と回答した人を健康とみなして計算したものです。

ですから、重い障害を持って生まれてきた子の健康寿命はゼロ歳とカウントされます。

調査時にたまたま、体調がよくなかった人、若い人でたまたまそのときケガや病気をしていた人で、「はい」と回答したら「不健康」に含まれてしまいます。

だから、健康寿命がかなり短くなってしまうわけです。

また、全世代に回答を求めている(若い世代の回答も含まれている)わけですから、高齢者が自分の健康な期間を知るために参照するにはそもそも相応しくないと言ってもいいでしょう。

健康寿命や平均寿命に対する考え方がおかしい

一般には、健康寿命を「要介護にならずに、自立生活が可能な期間」といった捉え方をしている人が多いと思いますが、このような捉え方とは無関係な数字なのです。

さらに言えば、「平均寿命」をこのような広告に用いるのはまったく適切ではありません。

平均寿命というのは、「ゼロ歳の子が平均的に何歳まで生きそうか」という数値であって、もう何十年も生きている人には何の関係もないからです。

自分の年齢だと平均的にあと何年生きるかは、毎年発表される「簡易生命表」から知ることができます。

たとえば、2020年時点で、65歳の男性の平均余命は19.8年ですから、平均的に85歳まで寿命があるということです。

女性では同じく24.6年なので、90歳近くになります。

悪気はないのでしょうが、あのような広告は、高齢者には何の関係もない「平均寿命」を用いていること、また、調査方法によってかなり短く出てしまう「健康寿命」をまるで「高齢者が自立を失う年齢の平均」であるかのように使っているという二点で、ひどいミスリードと言わざるを得ません。



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