『奇蹟の人/ホセ・アリゴー』素手で病巣を掴み出す“心霊手術”とは!?

素手で病巣を掴み出す“心霊手術”とは! 世界が驚いた実話『奇蹟の人/ホセ・アリゴー』 200万人を治療した男の半生

いきなり“心霊手術”と言われたら、ほとんどの人は巧妙なトリック、もしくは過激な信仰などを疑うでしょう。

世代によっては70年代のテレビ番組『万国びっくりショー』で取り上げられていたことや、漫画「ブラック・ジャック」に登場した超能力医師ハリ・アドラを思い出す人もいるかもしれません。

そんな“なんか怪しい”治療を無償で行い、かつ多くの人々を実際に癒やして信頼を得ていたという、ウソみたいな実在の人物を描いた映画が『奇蹟の人/ホセ・アリゴー』です。

心霊手術/治療って何?

心霊手術/心霊治療とは医療器具を使わず、小さなナイフやペンの先、もしくは素手(!)によって外科手術を行い、素早く病巣を取り除いてしまう施術のこと。

なんのこと思われるかもしれませんが、本当にニュッと腹部に手を差し入れ、血まみれの肉片を取り出し、かつ患部に傷はほとんど残らない……というシロモノなのです。

かつて日本でも主にフィリピン発の心霊治療が話題を集め、70~80年代には様々な(真面目な)関連書籍が出版され、テレビでも「奇跡の瞬間!」的に盛んに放送されていました。

ネット以前の時代、ちょっと不気味ですが妙に仰々しく、かつ意外なほどサクッと終わる手術の映像や生々しい写真は、オカルト好きだけでなく多くの視聴者から人気を集めたのです。

日本を含む世界中に存在する“心霊系”治療師

実は日本国内でも90年代に“ニセ”心霊手術事件が発生しており、手品のような施術行為で荒稼ぎしていた中年女性が詐欺罪で逮捕されています。

そんなことが平成に!? と驚いてしまいますが、術者が有名になればなるほど治療をありがたがる患者が増え、素面でのトランス状態、あるいは強力なプラシーボ効果によって完治したと思いこむのは理解できます。

さらに近年でも心霊治療にまつわる事件は少なくなく、ブラジルでは70代の治療家が性的虐待容疑で逮捕されています。

また、アメリカ出身の“自称シャーマン”がノルウェー王女と婚約し大騒ぎになったりしています。

例えば“心霊主義”を“スピリチュアリティ”と言い換えれば、抵抗を感じる人はそれほど多くないでしょう。

『奇蹟の人/ホセ・アリゴー』は、そんな心霊手術師の代表格であるブラジル人、アリゴーの伝記的映画。彼が先述したような術者たちと大きく異なるのは、20年間で200万人以上を治療しながらも金銭をいっさい受け取らなかったことです。

神の手を持つ聖人か、霊に操られた傀儡か

まるで呪術ホラーのような不穏なオープニングから、さっそく(目の据わった)アリゴーが登場。

子宮癌だという床に伏した女性の体内から、大胆すぎる鷲掴みムーブで癌細胞を取り出してしまいます。

病巣をスポンと取る、つまり治療=病のタネみたいなものを取り除く、という描写はさすがに映画用のデフォルメと思われるのですが、とはいえ分かりやすさは満点です。

劇中では、ただの雑貨屋店主で医師免許を持たないアリゴーが“憑依系”の人物だったことが強調されています。

彼は第一次世界大戦で戦死したドイツ人の軍医アドルフ・フリッツが夢に出てきてから、その霊によって突き動かされていたということらしいのです。

物語序盤は自分でも施術したことを覚えていないほどで、妻にすがって「どうしよう殺しちゃったかも……」と泣きべそをかく有様。

また、アリゴーが敬虔なキリスト教徒だったことが度々示唆され、それがタイトルにもある“奇蹟”の拠りどころになっています。

その辺りは“そういうもの”として受け入れるしかないのですが、彼が患者に金銭を要求しなかったのは、(半ば強制的な)“使命”として施術していたことも大きいでしょう。

ただし、彼の心霊主義(預言者のように振る舞うこと)を否定し治療を咎める地元の司祭をはじめ、かなりの反発もあったようです。

本作では、そんな教会と医師会による弾圧も描かれています。

あくまで「自分は聖人ではない」と言うアリゴーが、使命に翻弄されながらも多くの人々を救い、やがて運命に導かれるように最期を迎えるまでを描く本作。

信じるも信じないも……みたいな話でありながら、現在も語り継がれる“奇蹟の人”の半生を知ることができる、スピリチュアルかつ家族愛も盛り込んだ濃厚ヒューマンドラマなのです。

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