若者の「公務員離れ」が進んでいます。

これは国家公務員における「キャリア官僚離れ」と、地方自治体における「地方公務員離れ」という2つの現象に分けてとらえることができます。

キャリア官僚はエリート

キャリア官僚の登竜門である国家公務員の総合職試験(学卒)では、2016年度では1507人の合格者のうち742人が辞退または無応答者として採用プロセスの途中で離脱しています(出所:公務員白書)。

そして入省後の若手官僚でも退職者が急増しているのです。

経済産業省ではこの1年間で入省20年以内の若手官僚が23人も退職したそうです。

これまでは1年間で15人辞めたのが最大で、これほどの大量退職があるのは珍しいことだといいます。

もともとキャリア官僚という就職先は、若くして国政の中枢を担い国家の未来を描くことができる仕事だということで、文系東大生の多くが目指す就職先でした。

有力キャリア官僚のほとんどは東大法学部出身であるため、文系受験生は法学部への進学を前提とした東大文科I類を文系の最高峰として目指していたのです。

ところが2019年の東大受験でこの長年の法則が破れ、経済学部への進学を前提とした東大文科II類の偏差値が文科I類を逆転するという現象が起きました。

これはキャリア官僚人気の凋落を示すわかりやすい兆候です。

骨のある官僚が左遷される現状

この現象は2020年度に限っていえば、新型コロナウイルスの感染拡大により、いったん頭打ちになるでしょう。

不況になると公務員を辞める人が減るからです。

しかし「コロナショック」が収まればこの傾向は確実に再燃するでしょう。

なぜ公務員離れが加速しているのでしょうか。

それは「安定して給料が高い」という公務員メリットを、後述するデメリットが上回ったからでしょう。

今回の記事ではそのデメリット、つまり若者が公務員離れを起こした3つの理由を説明します。

1つめの理由は「イエスマン化」です。

2014年に内閣人事局が設置されて、キャリア官僚の頂点にあたる300人ほどの高級官僚の人事権を官邸が握ることになりました。

それを境に5年間で官僚の弱体化が目を覆うほどの酷さで広がりました。

骨のある官僚が左遷されて、政治家にとって使いやすい官僚が重用された結果です。

キャリア官僚になる最大のモチベーションは国政の中枢を担うための責任と権限があることでした。

それが、政治家の思いつきや利権に振り回されるようになったのです。

上がイエスマンなら下もその意を汲んで動かなければなりません。

優秀な官僚にとっては、突然の休校指示が引き起こす育休支援策の検討、外出自粛拡大にともなう経済支援のための和牛券検討など、上から降りてくる不可解な仕事は屈辱以外の何物でもありません。


そうした年齢の近い先輩たちの様子を見れば、東大法学部の学生が国家公務員の総合職を見限る理由もわかるというものです。

働き方改革を無視したサービス残業が当たり前

2つめの理由は、「残業の多さ」です。

特にキャリア官僚はサービス残業が常態化していると指摘されています。

かつてはキャリアを上り詰めるたびに、絶大な権限が与えられました。それが残業の多さを補ってあまりある報酬となっていました。

しかし、そのキャリアレースが実力ではなく「イエス」といえる能力で測られるようになってしまったのです。

このため、まだこの世界にどっぷりとつかっていない若手実力派は、今が離脱タイミングと考えて霞が関を離れるようになりました。

これまで公務員は「仕事がヒマで17時には帰宅できる」と民間企業から陰口をいわれていましたが、実態としては残業時間が増加しています。

2015年度に総務省がまとめた調査では、地方公務員の残業時間が158.4時間となり、民間事業所の残業時間154時間を上回る結果になりました(出所:地方公務員の時間外勤務に関する実態調査)。

国家公務員の場合はさらにひどく、残業時間は全体平均で235時間、そのうち本府省では366時間と霞が関の残業量が突出しています。

民間では36協定を超える違法であり、過労死ラインの目安とされる720時間を超えて勤務する国家公務員が全体の8%もいます。

でも、それが社会問題になる気配すらない。いまや公務員のほうが激務なのです(出所:公務員白書)。

さらに公務員の中では教員もサービス残業の多さで不人気になっている典型職種です。

教員に限らず公務員の場合、その給料の全体額は予算で上限が決まっています。

そのため、実態としてはタイムカードを設置せずに「正確な勤務時間が把握できない」という理由で残業代を払わない手口が横行しているのです。

公務員の大規模リストラも起こり得る

3つめの理由は「公務員の安定神話の崩壊」です。

公務員はクビにならない、国や自治体は決して破綻しない、というのは今や事実ではありません。

実際には政府や自治体側のコストを理由に公務員がクビになる流れが完成しつつあります。

そのきっかけは民営化です。

最初の導入は、中曽根内閣が手がけた3公社の民営化、つまり公共事業体と呼ばれていた3つの事業をそれぞれNTT、JR、JTの民間会社に変えたことでした。

次に大きな転機となったのが小泉内閣で行われた郵政民営化です。

郵政は国鉄とはちがい、あくまで公務員がその職務を担ってきましたが、民営化されたことで公務員は社員へと地位が変わったのです。

そして今、その日本郵政では郵便局員1万人のリストラが話題になっています。

そもそも日本郵政の本業である「ものを運ぶ」という業種は日本全体でいえば成長産業ですし、人の採用も難しいジャンルです。

それにもかかわらず1万人をリストラしなければならないのは経営の無能に他なりません。

本来業務にフォーカスせずに金融商品を売らせ、はては「記念切手を売り切るまでは帰ってくるな」というパワハラ指令を局員に出すような企業力自体を問題にするべきでしょう。

しかし民営化されたので、経営が危機的になれば整理解雇も認められます。

因果関係としては経営の無能が原因だとしても、結果としてのリストラは認められるのです。

そうして1万人がリストラされれば、公務員として雇用された人の大規模リストラとしては、これが最初の事例となるわけです。

「公務員は安泰」という時代の終焉

さらに公務員には水道、清掃、交通といった「現業」と呼ばれる業務がたくさんあります。

こうした業務は主に地方自治体が担ってきましたが、コスト負担が重いことからたびたび民営化が取り沙汰されています。

「公務員は安泰」という時代は終わりかけているといっていいでしょう。

このような3つの理由を通じて、「仕事が少なくて」「給料がそこそこ出て」「地位が安定している」という地方公務員のメリットも、「権限が強く」「国を背負って仕事をする責任が与えられる」というキャリア官僚のメリットも失われつつあります。

それが若者の公務員離れを生んでいるのです。

皮肉な話ですが、若者の公務員離れは肥大化した政府や自治体のスリム化には役立つかもしれません。

しかしそれは同時に、国民に提供されるサービスの弱体化にもつながります。

責任感ある若者が「それでも公務員として社会に尽くしたい」と思える程度の魅力は残さなければ日本社会は成り立ちません。

これ以上の公務員の地位の悪化は日本にとってマイナスです。公務員離れは私のような民間人にとっても対岸の火事ではなく、私たちの未来を決める重要な問題なのです。

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