スポ根アニメの金字塔…『巨人の星』の星飛雄馬の最終回は文字通り星になるはずだった!?

直前で変更された「幻の最終回」

『巨人の星』(原作:梶原一騎、作画:川崎のぼる)は、プロ野球の読売巨人軍に入団した「星飛雄馬」の活躍と苦悩を描いた作品で、野球マンガの決定版ともいえる作品です。

原作とは違うオリジナルストーリー

1968年にスタートしたアニメ『巨人の星』も、最高視聴率36.7%を記録する大ヒットとなり、日本中に「スポ根ブーム」を巻き起こしました。

「思いこんだら」で始まる主題歌「ゆけゆけ飛雄馬」は昭和生まれの人なら一度は耳にしたことがあるでしょう。

アニメ『巨人の星』は原作の連載途中でスタートしたこともあって全182話のうち1/3近くがオリジナルエピソードで構成されています。

原作者の梶原一騎先生も「原作とアニメは別物。自由に作ってくれ」というスタンスでした。

最終回「輝け!巨人の星」も原作と異なるオリジナルストーリーです。

飛雄馬は肉体的な負担の大きい魔球、大リーグボール3号を駆使して、中日ドラゴンズ相手に完全試合を達成しようとしていました。

ライバルの「花形満」、姉の「明子」らがスタンドで見守るなか、飛雄馬の最大の敵である父「一徹」から秘策を授けられた最後の打者「伴宙太」は大リーグボール3号を打ち砕きます。

しかし、疲労困ぱいだった伴は一塁にたどり着けずにタッチアウトとなり、飛雄馬は見事に完全試合を達成しました。

幻の最終回

ところが、最後の一球を投じた瞬間、飛雄馬の左腕は完全に崩壊してしまいます。

マウンドで倒れた飛雄馬に歩み寄った一徹は

「お前はこの命がけの戦いに勝ち抜き、完全にこのわしを乗り越えた」
「これでわしら親子の勝負はすべて終わった」

と声をかけ、万雷の拍手の中、飛雄馬をおぶってグラウンドを去っていきました。

最後は夕日に向かってまっすぐ前を向いて歩く飛雄馬の姿に「完」の文字が重なってエンディングとなります。

感動的なラストシーンですが、『巨人の星』にはボツになった「幻の最終回」がありました。

優勝をかけたドラゴンズ戦で、伴宙太相手に最後の魔球を投げて打ち取った飛雄馬がマウンド上で壮絶な「死」を迎え、夜空に輝く「星」になるというものです。

当時は高度経済成長期で、企業戦士たちが猛烈に働いていました。

『巨人の星』に夢中になっていたのは、子供だけでなく大人も大勢含まれています。

会社に身を捧げて過労で燃え尽きてしまった会社員たちと、野球に身を捧げてマウンドで燃え尽きてしまった飛雄馬をオーバーラップさせて生まれた発想でした。

脚本の練り直しが決定

スタッフ一同大いに盛り上がり、よみうりテレビの佐野寿七プロデューサーが梶原一騎先生の了承を取り付けスポンサーの会議も通過しました。

しかし、思わぬことが起こります。

脚本も完成した後、よみうりテレビ東京支社の営業部門の最高責任者だった中野達雄氏から反対の声が上がったのです。

「主人公の飛雄馬が死んでもうて、なんで『巨人の星』なんや!?」

会議では中野さんと佐野プロデューサーの大喧嘩に発展しましたが、中野さんは頑として譲らず、脚本の練り直しが決定しました。

それが完成した現在の最終回です。

最終回変更の顛末は、一部始終を目撃していた東京ムービーの文芸担当・山崎敬之さんの著書『テレビアニメ魂』(講談社)に詳しく記されています。

なお、アニメの最終回を制作中、原作も最終回を迎えました。

アニメと同じように完全試合を達成後、「エピローグ」が付け加えられています。

飛雄馬が自分以外の主要登場人物が出席した「左門豊作」と「京子」の結婚式を教会の外から見届け、ひとりでどこかへと去っていくという寂しいものでした。

ネットの声

「なるほど巨人の星では最終回ラストシーンが丘の小道を歩く飛雄馬で終わったが、そんな別シナリオがあったのか(漫画の原作では左門とお京さんの結婚式を陰ながら見守り夜の闇に消えていく飛雄馬のシーンで終わった)
でもその案は同じく梶原一騎先生原作の侍ジャイアンツのラストで採用されてますね(分身魔球を投げ続けた番場蛮が日本シリーズで熱投しマウンドで仁王立ちのまま死んでいたシーン)坂本龍馬の前のめりで死ぬという生き方を模したものだそうですが」

「少年マガジンの読書層と違い、アニメは子供の視聴者も多いからあの最終回で良かったと思います。飛雄馬が死ぬなんて子供達にとってはとんでもないし、原作通りの結末では完全試合も不確定だし切ないだけの終わり方です。
昭和40年男ですが、小学生当時は夕方の再放送が豪華でした。巨人の星、明日のジョー、ウルトラマンシリーズや仮面ライダーシリーズ、その他の特撮モノなど見たい番組ばかりでした。ルパン三世の一作目も再放送で初めて見ました。
家に帰りたいけど、まだ友達と外で遊んでいたいし… と葛藤の毎日でした。雨の日が嬉しかった気もします。」

「最期を死で終えるのは梶原氏の拘り美学だったのかもしれませんが、「巨人の星」はあれでよかった気がします。
けれど逆に言えば「あしたのジョー」にしても「侍ジャイアンツ」にしてもあれはあれが良かった。
そして秀逸であったのが、アニメ版の「タイガーマスク」だったでしょうか。
今の時代、こうした展開は受け入れられないのかもしれません。
しかし今見ても、真剣に生きることの崇高さを感じます。」

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