長生きできる時代だけど…死は必ず訪れる

「食事の量が減れば寿命が延びる」はホント?長生きを実現する意外な方法とは

人は若々しい見た目に羨望を抱き、長生きを喜びますが、果たしてそれは正しいことなのでしょうか。 

なぜ不老長寿が賛美されるのか、逆になぜ老いや死を恐れるのか……その根本的な理由を聞かれたら、たいていの人は返答に困ってしまうでしょう。

死ななければいけない2つの理由

生き物が死ななければいけないのは、主に2つの理由が考えられます。

その一つは、すぐに思いつくことですが、食料や生活空間などの不足です。

天敵が少ない、つまり「食われない」環境で生きている生物でも、逆に数が殖えすぎて「食えなくなる」ことはあるでしょう。

この場合、絶滅するくらいの勢いで個体数の減少が起こり、その後、周期的に増えたり減ったりを繰り返すか、あるいは少子化が進み、個体数としては少ない状態で安定し、やがてバランスが取れていきます。

生き物が死ななければいけないもう一つの理由は、「多様性」のためです。

こちらのほうが、生物学的には大きな理由です。

具体的には遺伝情報(ゲノム)を変化させ、多様な「試作品」を作る戦略です。

変わりゆく環境下で生きられる個体や種が必ずいて、それらのおかげで「生命の連続性」が途絶えることなく繋がってきたのです。

そのたくさんの「試作品を作る」ためにもっとも重要となるのは、材料の確保と多様性を生み出す仕組みです。

材料の確保については手っ取り早いのは、古いタイプを壊してその材料を再利用することです。

つまり、「ターンオーバー」です。ここにも「死」の理由があります。

多様性を実現するために必要なことは?

多様性を生み出す仕組みとして有性生殖が誕生しました。

これで親とは違う多様な子孫をたくさん残せばいいのです。

しかし、例えばヒトのような、子供を産みっぱなしにできない生き物の親は、そう単純ではありません。

自分たちよりも(多様性に富んでいるという意味で)優秀な子孫が独り立ちできるようになるまでは、しっかり世話をする必要があります。

つまり子育ては、遺伝的多様性と同程度に重要ということになります。

子供たちに教えないといけないのは、せっかく有性生殖で作った遺伝的な多様性を損なわない教育です。

ヒトの場合には、多様性を「個性」と言い換えてもいいと思います。

親や社会は、既存の枠に囚われないようにできるだけ多様な選択肢を与えること、つまりは単一的な尺度で評価をしないことです。

加えて、この個性を伸ばすためには親以外の大人の存在が、非常に重要になってきます。

自分の子供がいなくても、自分の子供でなくても社会の一員として教育に積極的に関わることは、親にはできない個性の実現に必須です。

他人と違うこと、違う考えを持つことをまず認めてあげないといけません。

残念なことに日本の教育は、戦後の画一化したものに比べて良くはなっていますが、まだそこまで若者の個性に寛容ではありません。

若者が自由な発想で将来のビジョンを描ける社会が、本当の意味で強い社会になります。

長生きしたければ食べる量を減らすべし

死ぬこと自体はプログラムされていて逆らえませんが、年長者が少しでも元気に長生きして、次世代、次々世代の多様性の実現を見届け、そのための社会基盤を作る雑用を多少なりとも引き受けることは、社会全体にとってプラスとなります。

ですので、長生き願望は決して利己的ではなく、当然の感情です。

またヒトの場合、長生き願望は死に対する恐怖という側面もありますが、その恐怖の根源には、しっかりと次世代を育てなければならない、という生物学的な理由があります。

最低でも、子供がある程度大きくなるまでは頑張って生きないといけないのです。

多くの生物では、栄養の摂取量が少し減ると寿命が延びます。

これは「食餌制限効果」または「カロリー制限効果」と呼ばれています。

食餌を減らすと寿命が延びる理由の一つとして、代謝の低下が考えられています。

生物は呼吸によって栄養を燃やして、エネルギーを得ています。

エネルギーは、細胞の活動や、哺乳動物の場合には体温を維持するのにも使われます。

当然、栄養が多ければそれだけ燃やす量も多くなります(「代謝が活発になる」と言います)が、副産物も多く出ます。

その一つが活性酸素という物質で、DNAやタンパク質を酸化、つまり錆びさせて、それらの働きを低下させます。

この活性酸素の量が食餌制限によって減少し、寿命延長に貢献していると考えられています。

灯台下暗しなアンチエイジング方法

カロリー制限に類似した効果が期待される薬としてメトホルミンがあります。

メトホルミンは糖尿病の治療薬として1940年代から使われている薬で、肝臓での糖新生を抑制し、血糖値を下げる作用があります。

この薬の投与を受けていた糖尿病の患者さんは長生きということが報告されました。

モデル生物などを使って確認したところ、マウスなどでも延命効果が確認されました。

糖尿病の患者さんに長いこと投与されていたので、ヒトでの効果のほうが先にわかった珍しい例です。

予期せぬプラスの副作用があったわけです。

古くからある薬なので、すでに特許も消滅しており値段も安いです。

ただ、アンチエイジング薬として糖尿病ではない健康な人が利用するには、まだ安全性と効果の確認が必要です。

現在調べられているところです。

次に紹介するのは、ラパマイシンという薬です。

臓器移植後の拒絶反応の軽減に用いられる免疫抑制剤で、がんの治療薬としても使われています。

栄養などを感知して細胞を増殖させる「TOR(トア)経路」というシグナル伝達経路があるのですが、ラパマイシンはその伝達に関わるタンパク質を阻害する働きがあります。

その働きによって代謝が低下するため、カロリー制限と似たような効果を引き起こすわけです。

ラパマイシンを餌に混ぜると、酵母、線虫、ハエで寿命の延長効果が見られます。

マウスを用いた実験がアメリカなどのグループによって行われ、シニアのマウス(ヒトで60歳相当)の餌にラパマイシンを混ぜて与えたところ、オスで9%、メスで14%の寿命延長効果が見られました。

ただ、ラパマイシンは免疫抑制効果があるため、健康なヒトには副作用が現れる可能性があります。

死の恐怖から逃れる方法はあるのか

地球全体で見れば、全ての生物は、ターンオーバーし、生と死が繰り返されて進化し続けています。

生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。

「死」をこのように生物学的に定義し、肯定的に捉えることはできますが、ヒトは感情の生き物です。

死は悲しいし、できればその恐怖から逃れたいと思うのは当然です。

健康寿命が延びて理想的な「ピンピンコロリの人生」が送れたとしても、やはり自分という存在を失う恐怖は、変わりありません。

ではこの恐怖を、私たちはどう捉えたらいいのでしょうか。

答えは簡単で、この恐怖から逃れる方法はありません。

この恐怖は、ヒトが「共感力」を身につけ、集団を大切にし、他者との?がりにより生き残ってきた証なのです。

ヒトにとって「共感力」は、何よりも重要です。これは「同情する」ということだけではありません。

ヒトは、喜びを分かち合うこと、自分の感覚を肯定してもらうことで幸福感を得ます。

美味しい料理を二人で食べて「美味しいね」と言うだけで、さらに美味しく感じられるのがヒトなのです。

そしてこの共感力はヒトとヒトの「絆」となり、社会全体をまとめる骨格となります。

生物はなぜ死ぬのか 小林武彦(著) 講談社 (2021/4/14)

すべての生き物は「死ぬため」に生まれてくる。
――「死」は恐れるべきものではない。

【死生観が一変する〈現代人のための生物学入門〉!】

なぜ、私たちは“死ななければならない”のでしょうか。

年を重ねるにつれて体力は少しずつ衰え、肉体や心が徐々に変化していきます。

やむを得ないことだとわかっていても、老化は死へ一歩ずつ近づいているサインであり、私たちにとって「死」は、絶対的な恐るべきものとして存在しています。

しかし、生物学の視点から見ると、すべての生き物、つまり私たち人間が死ぬことにも「重要な意味」があるのです。

その意味とはいったい何なのか――
「死」に意味があるならば、老化に抗うことは自然の摂理に反する冒涜となるのでしょうか。

そして、人類が生み出した"死なないAI"と“死ぬべき人類”は、これからどのように付き合っていくべきなのでしょうか。

遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」の意味とは?

主な内容
・私たちは、次の世代のために“死ななければならない”
・恐竜が絶滅してくれたおかげで、哺乳類の時代が訪れた
・宇宙人から見た「地球の素晴らしさ」とは
・地球上で最も進化した生物は昆虫である
・遺伝物質DNAとRNAの絶妙な関係
・「死」も、進化が作った仕組みである
・ヒトだけが死を恐れる理由
・"若返る"ベニクラゲの不思議
・超長寿のハダカデバネズミは、なぜがんにならないか
・ヒトの老化スピードが遅くなっている理由とは?
・「若返り薬」の実現性
・少なめの食事で長生きできる理由
・老化細胞は“毒”をばらまく
・テロメアの長さと老化は関係ない?
・生物学的に見ると、子供が親よりも「優秀」なワケ
・ヒトが生きる目的は、子孫を残すことだけではない
・“死なないAI”を生み出してしまったヒトの未来
・有限の命を持つからこそ、「生きる価値」を共有できる
――生命の死には、重要な意味がある。

第1章 そもそも生物はなぜ誕生したのか
第2章 そもそも生物はなぜ絶滅するのか
第3章 そもそも生物はどのように死ぬのか
第4章 そもそもヒトはどのように死ぬのか
第5章 そもそも生物はなぜ死ぬのか

ネットの声

「生きとし生けるもの全てが最後に迎える死。ごく当たり前の事実ではあるが、なぜ我々は死ななければならないのだろうか?この点について考えた人は大勢いると思うが、答えが出せた人は果たしてどれほどいるのであろうか。本書の主眼は、この問題について生物学的視点・観点から答えを見出していく事である。全5章の構成の中で、生物のそもそもの誕生のきっかけから始まって、どのように生物及び人類が死ぬか、あるいは絶滅するか、果ては人類とAIとの共存共生の未来まで、なるべく生物学の素人にも分かり易いように、平易な文章で綴られている。生があるから死がある、つまり生死は不即不離の関係にある。死は決して無駄ではなく、新たな変化の始まりなのである。つまりは死を恐れない事が、より良き人生を送る上で欠かせない心構えだと言えよう。死生観を変えるには十分の一冊。」

「新聞の広告につられて買いました。平易な文章で読みやすいのですが、もっと哲学的な内容だと思っていたのですが、想像以上に「理科」でしたw。ビッグバンに始まりゲノムの内容になると時々気絶しそうになりましたが、命が引き継がれていく理由などとても勉強になりました。小林先生ありがとうございました。」

「「我々は、自分たちよりも進化・多様化した次世代のために、死ななければならない」という結論は極めてロジカルであり、目から鱗である。それによって、この世界から自分がいなくなることへの恐怖が即座に薄れるわけではないが、死の意味、延いては生の意味を大局的に考えるきっかけになる一冊と思う。」

 

おすすめの記事