年金は60歳から繰り上げ受給したほうがいい?ハマりがちな落とし穴も

年金大改正で、「60歳から繰上げ受給」を考えている人がハマりがちな「落とし穴」

2022年4月に行われた年金改正は、多くの方の関心を集めメディアでも大きく取り上げられています。

しかし人生100年時代に個々人が公的年金をいかに活用するかは、メディアで語られるストーリーと異なることも多く、とても注意が必要です。

メディアの情報に正解はない

「年金は早くもらわなきゃ損」とファイナンシャルプランナーである著者にご相談を申込んだ松田さん(仮名 59歳 会社員男性)のお話をご紹介します。

松田さんがFP相談に申し込んだ理由は、4月から年金を繰上げした際の減額率が減り、受け取れる年金の損益分岐点が大幅に後ろ倒しになったので、これからは繰上げが圧倒的に有利だという週刊誌の記事を読まれたからだそう。

定年後の生活をどうするか考えていたところ、まさしく朗報だ!と飛びついたそうです。

とはいえ、独身の松田さん。

老後頼れる人もいないので、一度今後のことを相談した方が良いと思い著者の元に来たそうです。

メディアの報道は、そのまま個人のライフプランに当てはめることは難しいことも多いため、まずは相談の発端となった年金の繰上げについて、説明をしました。

公的年金の受け取りには、「支給開始年齢」と「受給開始年齢」という2種類の年齢があります。

前者は法律が定めた国が年金を支給し始める年齢で、これは65歳と決まっています。

一方後者は、年金加入者のオプションで、希望により受取開始時期を早めたり、遅らせたりすることができる年齢の幅を指します。

年金の受け取りを早めることを繰上げと言い、遅らすことを繰下げと言います。

今年3月までは60歳から70歳の10年間が受給開始年齢の選択幅でしたが、4月からは75歳までに拡大しました。

繰上げと繰下げの「決定的な違い」

繰上げ、繰下げは老齢年金の受け取り開始時期のオプションですが、決定的に違うことがあります。

繰上げは、申し込みをしたら取り消しができないが、繰下げはそもそも申込みが不要だという点です。

年金は受給したいという意思表示をして受け取ります。

該当年齢に達したら、国が勝手に自分の口座にお金を振り込んでくれるわけではなく、受け取りをするには所定の手続きが必要です。

従って、繰上げは「何歳から受け取り始めたいです」という申し出を国に対して行います。

そしてその後は取り消しがききません。

一方繰下げは、受け取りを希望しないわけですから、手続きは不要です。

繰下げは、受給するタイミングを待機しているだけなので、いつまで遅らすという予定や計画を国に予め意思表示する必要はないのです。

つまり、繰上げと繰下げでは、繰上げの方がよっぽど慎重に考えなければならないということです。

また繰上げは本来なら65歳から受け取る年金額を基準に、1ヵ月早める毎に一定の減額率で減らされ、その減額率は一生涯継続します。

例えば、65歳からの年金が100万円だとします。

1ヵ月の減額率は0.4%ですから、64歳から受け取ると4.8%減額するので95.2万円です。

63歳なら、9.6%減額なので90.4万円、62歳なら14.4%減の85.6万円、61歳なら19.2%減の80.8万円、60歳なら24%減の76万円です。

この1ヵ月あたりの減額率は、3月まで0.5%でしたから、確かにこの数字だけを見ると繰上げが有利になったとも言えます。

またこの改正が適用になるのは昭和37年4月2日以降に生まれた人が対象となるため、松田さんはこの情報に飛びついた訳です。

損益分岐点で得するのは、平均より早く一生を終えるということ

特に松田さんが週刊誌の記事で気になったのが「損益分岐点」という言葉です。

記事では、従来の減額率1ヵ月あたり0.5%で計算すると76歳8ヵ月が損益分岐点でしたが、改正により減額率が0.4%になったことで、80歳10ヵ月と4年ほど後ろ倒しになったので、お得だと書いてあったとのことです。

確かに早く受け取りを始めても、金額そのものが減るのですからどこかで本来支給である65歳から受け取る年金の総額の方が大きくなります。

うさぎと亀ではありませんが、年金額の多い本来支給の年金が亀で、減額された繰上げの年金がうさぎだとすると、4年も長くうさぎがリードできるのは良い話に聞こえます。

でもこの80歳10ヵ月という年齢は、逆にいうと「年金で得をするために推奨される死亡年齢」ということになります。

損得を気にして繰上げをするのは、得なうちに亡くならなければならないという前提に立った話です。

うさぎと亀のお話では、途中でうさぎが自分の力を過信して居眠りをしたことで結果亀が競争に勝つのですが、年金は計算上、必ず亀がうさぎを追い抜きます。

もしゴールという死亡の時期が80歳より前にあればうさぎが逃げ切りますが、死亡というゴールがそれより後であれば勝負は必ず亀の勝ちです。

厚生労働省のデータによると現在59歳男性の平均余命は約25年だそうです。

平均的に84歳までは生きるということですから、うさぎが勝つ条件は平均よりだいぶ早くに一生を終える必要があります。

とはいえ、人の一生は予測がつきませんし、何歳まで生きたら損だ、得だなんて言い方はとても不謹慎です。

ネットの声

「損得勘定するなら、他人に頼らずに自分で計算したらいい。払い込んだ金額の10倍20倍になるわけではないし、受け取り開始年齢をこれまた自分できめたらいい。制度自体は大方破綻しているようなので、そこを計算にいれて納得するほうが気分的に良い。お金の計算は大事だが、ほかにやりたいことをやればと思います。会社が面倒見てくれるとかは、いい夢だったと目が覚めるはず。」

「年金をいつから受給すべきかというのは、いつ死んでしまうのかは誰にもわからないのですから、実は受給総額の損得予測ではないと思っています。年金無しでも充分に生活を維持できる収入や資産がある人は受給を遅らせることもできるでしょうし、すぐにでも受給しないと生活できない人は例え減額されても年金を早期に受給せざるを得ないでしょう。生活の質が落ちて健康寿命が短くなれば元も子もないですから。」

「不安商売の人生100年時代を見つめて、つまり寿命と老化を見つめて、そこを少しでも見つめた政治家に投票することも年齢が下になればなるほど重要だと思います。
破綻しないように、しょうがないでしょ的に制度が変わっていくからね。見ずに人生100年時代で行けば、悪い方に変わる可能性が多いからね。」

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