日本の住宅はなぜ劣悪か?欧米に今も追いつけない「本当の原因」とは
日本不動産研究所が7月下旬に発表した首都圏1都3県の5月の住宅(マンション)価格指数は、23カ月連続で値上がりしました。
目次
日本の住宅面積は イギリスと大差ない
きっかけはコロナ禍による不動産供給の低下により、需給逼迫(ひっぱく)が起こったことにあります。
これは、日本のみならず世界的な傾向。
また注文住宅や建売住宅に使用する木材価格が世界的に高騰し、戸建ての建築費も高騰している(いわゆる、“ウッドショック”)。ウクライナ戦争はこれに拍車をかけているのです。
住宅を購入する際、一般的な目安として「年収の5倍以内」があります。
つまり年収500万円ならば最大でも2500万円以内の住宅を購入するのが無理のないローン返済の目安とされてきました。
日本の勤労者賃金が停滞・漸減を続ける一方、共働き家庭が多くなったことから、最近では夫婦の年収を合算してその5倍程度の物件を勧める動きが高まってきました。
これをマンションデベロッパーなどは「パワーカップル」などとして称揚するのです。
明確な定義はありませんが、夫婦合算年収が1000万円以上をそう呼ぶ場合が少なくありません。
そうすると手の届く物件は5000万円以内に幅が広がります。
マンションデベロッパーが、タワーマンションの購入者として熱い視線を送っているのがこの層です。
しかし実際の不動産価格は並のパワーカップルでは手が届かないほど高騰しています。
不動産メディアサービスを展開するワンノブアカインドの発表(2022年5月)によれば、床面積70m2に換算した中古マンション相場は、東京都渋谷区で約8600万円、同文京区で約7200万円となっています。
年収1000万円のパワーカップルでは購入を断念せざるを得ません。
このような住宅価格の高騰によって、庶民のマイホーム取得はますます困難になっているのです。
しかし、日本の住宅環境は「住宅価格が高いから、庶民が買えるような家は貧弱にならざるを得ない」という訳では決してないのです。
仮に住宅価格が高くても、質が高く広い住宅が手に入るのであれば、長期ローンを組んで返済していくというインセンティブは高まります。
事実、相当昔に「ウサギ小屋」と揶揄(やゆ)された日本の住宅は、近年少なくともヨーロッパ諸国と大差なくなっています。
以下の図は、住宅面積の国際比較です。
出典:日経メッセ「居住水準等の国際比較」より
青が全体、赤が持ち家、緑が借家になっています。
これを見ればわかるように、日本の住宅面積の平均は94.4m2
で、イギリスの91.7m2
と大差ありません。
さらに「持ち家」に限ってみると、英仏よりも広いのです。
要するに、日本では「なんとか家を買ってさえしまえば」ある程度の質のものが手に入ると言えます。
住宅ローンを30年で組むとする
日本では木造住宅の寿命は約30年
ローンも寿命も30年では消耗品と言えるのでは?。実際の耐久年数はもっと長く、中には良質なものもある。リサイクル文化が根付きつつある今、消耗品から抜け出すチャンス。中古住宅は良質なものを見つけ出せれば相当コスパ良し!— Kイチロー@建築設計士~誰もがずっと安心できる街ってすてき (@Kenworkswelfare) March 9, 2020
日本の住宅が貧困なのは 賃貸住宅が大きな原因
しかし日本の住宅面積を大きく引き下げているのが「借家(賃貸住宅)」である。この部分で日本は英仏の3分の2、ドイツの約半分強しかありません。
日本の住宅の貧困は、ほとんど賃貸住宅にその原因が求められるといえます。
戦後日本の国策で最大と言えるものは「持ち家政策」でした。
戦災と建物疎開で数百万戸の住宅が失われました。
日本史上まれにみる住宅不足の時代だったのです。
高度成長を経て勤労者が狭小な住宅を長期ローンで購入し、小さな不動産の所有権を持つことが国策として推奨されました。
サラリーマンは終身雇用、年功序列を後ろ盾に長期ローンを組んで住宅を買ったのです。
インフレ率が高かったので、長期ローンを早く組んだ方が実質的には有利とみなされていたのです。
こうして持ち家政策が進んだことにより、戦前と戦後の日本の土地所有形態はまるでガラリと変わりました。
戦前の日本は、一部の大地主により土地が寡占され、ほとんどの庶民が安い借家に住んでいたのです。
しかし戦後の日本は大地主が解体され、細分化された土地の所有権を勤労者が有するようになりました。
戦前日本の持ち家率は約10~20%にすぎませんが、現在それは約61%です。
この数字は過去40年間ほとんど変わっていません。
持ち家政策によって戦後日本は、「がむしゃらに働いて家を買うこと」が至上命令とされました。
だからこそ「持ち家」の広さはある程度の水準になったのですが、賃貸住宅はあくまで「過渡的な住まい」と位置づけられました。
つまり戦後日本の賃貸住宅は、「持ち家を手にするまでの仮の住まい」という位置づけとなったので、劣悪でも問題ないとされました。
確かにサラリーマンの賃金が上がり続ける時代ならば、それでいいかもしれません。
しかし冒頭で述べたように、賃金の停滞・下落によって並のパワーカップルですらも住宅取得は困難になりつつあります。
よって人々は賃貸住宅に住むことを余儀なくされつつあるのです。
しかし日本の賃貸住宅は持ち家政策の結果、劣悪なまま放置されており、人々の住宅に関する貧しさの感覚は強く残ったままなのです。
ひとつは気候的な要素です。
日本は湿気が多い気候なため、家の耐久年数が短いです。
一方、アメリカは湿気が少ないので、木造住宅でも半永久的に保つのです。もちろん地域にもよりますが、ネバダ州ラスベガス周辺は特に乾燥した気候なので家は非常に長持ちします。— 大場佳文 (@lescinqsagesses) January 24, 2013
URは民業圧迫の忖度をやめて 廉価・良質な住宅を供給すべきだ
賃貸住宅の貧困はもはや「家を買いたくても買えない」層にとっては大きな問題になっています。
特に日本の場合、ファミリー向け賃貸住宅の質が極めて悪いのです。
なぜならファミリー層は「どうせすぐローンを組んで家を買って住み替えるから」とされ、多少狭くても需要があったからです。
試しに東京都世田谷区で床面積70m2以上のファミリー向け賃貸住宅を検索してみましょう。
70m2という数字は、夫婦2人と子供が1人、という典型的な核家族が住まうのに、最低限度必要な住宅面積です。
場所にもよるのですが、それはおおよそ15万~30万円です。
賃貸住宅への支出はふつう、月収の3分の1以下が望ましいとされるので、逆算すると最低でも月収が45万円なければなりません。
これを夫婦共働きでも満たすことのできる世帯はどれだけいるでしょうか。
劣悪な賃貸住宅に対し、何かしらの公的扶助が必要です。
誰しもが「持ち家」を手に入れられる訳ではなく、また人々のライフスタイルも変化し、持ち家への執着が持続しているわけでもありません。
そこで真っ先に思い浮かぶのが公的な住宅供給です。
活発なメディア宣伝でも知られるUR(都市再生機構、旧称・日本住宅公団)が有名でしょう。
しかしこのUR、実は劣悪な日本の賃貸住宅の改善にはあまり役に立っていません。
UR物件は基本的に大都市部の中産階級をターゲットにしており、入居には収入基準があるのです。
概ねその月収基準は家賃の4倍。
この基準に満たない場合は、預貯金額の証明が必要です。
その金額は家賃の100倍。
つまり家賃が8万円なら800万円の貯金が原則必要となるのです。
今時、800万円の貯金があるのであれば既に家を買っていると思うので、この基準は厳しすぎるといえます。
URがこのような厳しい収入・貯金基準を設けているのは、前述の通りその照準が低所得者ではなく中産階級だから。
低所得者は各自治体の公営住宅を借りてくれという、実質的な門前払いを採用しているので、真に住宅に困窮している層にとってはあまり効果がありません。
また物件を詳細に検索すると分かるのですが、UR物件は周辺の似たような立地の民間賃貸よりも賃料が5~10%程度高く設定されています。
もちろん、床面積や設備(バリアフリーなど)が基準をクリアしているものなので単純比較はできませんが、URは必ずしも安い賃貸物件ではなく、むしろ高額です。
URが周辺の民間賃貸よりも高い値段なのは、端的に「民業圧迫を避ける」という方針があるからです。
URという半ば公的な住宅政策が、民間の大家、つまり既存地主の賃貸事業を圧迫してはならないという配慮が前提にあるからです。
日本の住宅耐久年数は、あまりにも短過ぎる、耐久年数は、30年とも言われてる、ヨーロッパやアメリカでは、100年を超えるのが普通です。この差は、メンテナンスに対する考え方が違うからです。メンテナンスにお金を掛けるならば建て替えを行なった方が良いとの考え方が多い為です。
— shimizu (@tohiroform) February 19, 2012
生活の豊かさを実感するために
戦後の地主層の土地所有は細分化されたものの、都市部やその郊外における零細地主は依然として政権与党の支持基盤のひとつであったので、彼らを過度に圧迫してはいけません。
よって民間賃貸との価格競争を行わないという方針が今でも生きているのです。
だからUR物件は「質はまあまあ良いが、高い」という風になっています。
URの前身である日本住宅公団は、戦後の高度成長期に積極的な団地建設を行いました。
いわゆる「公団住宅」です。
用地取得の問題もありますが、こういった「団地」は決まって駅から遠いところに開発されています。
なぜかと言えば、これも「民業圧迫を避ける」という忖度(そんたく)があったからです。
駅至便の好立地に国家が良質で廉価な団地を供給すれば、民間賃貸業者=地主が窮してしまうので、それと競合しない郊外に団地を建設してきました。
現在、少なくない団地の最寄り交通機関が「バス停」なのはこれが原因です。
「民業圧迫を避ける」という忖度はもはや時代に合いません。
所得の停滞や貧困化が進む中で、全国に最大の供給戸数を有するURこそが、積極的に廉価で良質な賃貸住宅の供給者となるべきです。
収入基準や預貯金額の制限は大幅に緩和すべきです。
持ち家が自明の物でなくなった現在、半ば公的な賃貸住宅政策の拡充が最も求められています。
言わずもがなURはその前衛を担うべきでしょう。
これを差し置いてわれわれは「生活の豊かさ」を実感することはできないのではないでしょうか。
日本の住宅の耐久年数はメンテナンスしないので1世代のせいぜい20~30年で朽ちる, 1世代で人口が10%減ると西暦2,100年, 日本は原生林に覆われた人口数千万の暮らしやすい国になる
— SUMIRE????花言葉は誠実 (@hidaritekei) September 28, 2020
ネットの声
「公的資金で建設された住宅を管理運営するURは独立行政法人。つまり、名称を変えた公務員。かつてこの組織は完全民営化が検討されていた。ところが政府系金融機関とともにいつの間にか、生き残り、全国各地の好適地不動産を管理する会社となった。実際の管理や修繕業務は何重もの下請化で、指示監督な業務に携わる正規職員の給与は公務員以上に高い。今でも自治体や国からも補助金が投入されている。だが、家賃は高い。本当に必要な組織かを是非国会で議論してもらいたい。」
「国土の70%が山、僅かな平地で生活を営なまなければならず、地価は高額。高温多湿で材木には厳しく、大地震、台風、災害列島。建てたら、災害補修でメンテナンス費用も多額。日本人は経済的に他の国と大分事情が違うのである。個人には負担が大きい。これからは住宅の性能が劇的に良くなるが、建築費も増大するので富裕層しか新築建てれず、庶民は中古住宅という選択肢になるのかも知れない。」
「典型的な「団地っ子」として市営住宅の狭い賃貸住宅で,団塊ジュニア世代の子供から成人になるまで20年あまり家族4人で暮らしました。住宅環境はもちろん平均以下だったんだろうけど,住み心地として劣悪と思ったことはなく,むしろ最寄りの駅まで5分,公務員団地と市営団地のジャングルに囲まれて,大きな公園も近くにあり生活環境は快適でした。でも平成以降,老朽化がすすみ,その団地群は全部更地になって新しいのに建て替えられていった。日本は何十年ももつ集合住宅はつくろうとせずに50年ぐらいのサイクルで更地にする方が効率がいいという考えが根付いているのでは。」