ラーメン1杯が1000円を超える日が来るかも?意外と原価率が高い…

純利益はたった1割!? それでもラーメン1杯が1000円を超えてはいけない理由

美味しいラーメン店をたくさん知ることより、大事なことがあるのです。

それは流行に左右されずにどんな1杯でも楽しめる自分になること。

ラーメンを楽しむ基本やヒントを身につけるために、気軽な入門書『教養としてのラーメン』(青木健著・光文社より。

ラーメン1杯800円は高いのか!?

ラーメンの原価(材料費)は基本的に30%程度、高くても35%に抑えるのが常識です。

1杯800円のラーメンなら、原価240~280円ということ。

そう聞くと「70%もボロ儲けしているのか!」と目くじらを立てる人がいますが、それは早合点です。

まずその70%の中から店の家賃を払わなくてはなりません。

歴史ある町中華は持ち家だったりもしますが、繁華街や観光地など、立地によっては月の家賃が100万を超える店も。

次に光熱費。高火力のガスコンロを24時間つけっぱなしの店もありますし、水道代など一般家庭の比ではありません。

ほかにも券売機のレンタル代、割り箸や楊枝、紙ナプキンといった消耗品、使用済みの大量のガラなどのゴミ処理にもお金がかかります。

またときには空調や冷蔵庫のメンテナンス、害虫駆除も必要です。

店で働く社員の給料やアルバイト代も当然ラーメン代から支払われるわけですし、福利厚生を正しくしている店はそれなりに費用がかかる。

そのバイト募集の広告に月数十万かけても、1人も応募がなかったりします。

オープンしてしばらくは、初期投資の借金返済もあります。

そうしたものを差っ引くと、純利益は1割もなかったりするのです。むしろその原価で美味しいラーメンに仕上げている技術こそ驚嘆に値します。

価格では計れないラーメンの利益

一方、業者から仕入れる業務用スープは基本的に店で温めれば済むので、一からスープを炊き続けるようなガス代も、ゴミ処理代もかかりません。当然原価は低く抑えられ、利益率は高くなります。

同じ800円のラーメンでも、原価も手間も時間もかけたものとはまったく違うことがわかるでしょう。

これはけっして悪いことではなく、客が満足しているのなら、立派な経営戦略。

メニュー数を増やしたり、家族連れがゆったり入れる広い店にする、従業員を増やすなど、ラーメン以外のサービスを充実させることもできます。

このように、ラーメンの価格だけで利益がわかるものではありません。

ラーメン1杯が1000円を超えているから儲かっている、というほど店舗経営はラクではないのです。

またワンコインのラーメンであっても、中には原価40%を超える、ギリギリの薄利多売を続けている店もあります。

なぜラーメンは1杯1000円を超えられないのか!?

ラーメン界で言われてきた問題に「1000円の壁」があります。

今でこそ、それを打ち破る店が増えてきたものの、ラーメン1杯は1000円を超えられない、超えてはいけないという、長らく日本人に根付いている意識です。

物のない時代は、少量のガラと野菜くずが主なスープ材料。

それに比べて今は地鶏などの高級素材だったり、使う量が膨大です。

なのになぜ値付けで苦しんでいるのか。

今はコンビニで挽きたてコーヒーが手軽な値段で飲めるようになりました。

しかし喫茶店のコーヒー600円に誰も文句は言いませんね。

1杯で1時間過ごせるからです。人は時間と見た目、量にはたやすくお金を出しますが、品質にはあまり払いたがりません。

基本的にラーメン店は長居しない場所です。

四極化するラーメンのカタチ

よく引き合いに出されるものに「パスタ」があります。

ラーメンに対してパスタは高すぎる……というもの。

味の前に、パスタは歴史あるイタリア料理。

全店、全世界に共通したスタンダードがあり、どの店にも数十種のメニューが用意され、選ぶ自由度があります。

それに比べると、ラーメンは自分の好みに合うかどうかのギャンブル性が高い。

そしてパスタは、食後にセットのコーヒーを楽しむ時間までも含めた満足度を提供します。

中華においてもそうです。

中華料理の専門店では、かなり昔から1000円を超えるラーメンが存在しています。

けれど誰も異を唱えません。

こちらも様々な定番中華メニューが揃い、仲間や家族で酒を飲んだりして過ごします。

つまり、シェアが前提なので単価に固執しないのです。

また、焼肉や寿司は、肉、魚などの素材が露骨に見えているため、素人目にも高いのだろうなと感じられます。

それに比べて、数多のラーメン店がより多く原価をかけているスープは、その価値・価格が目に見えにくい。

これも不利な点です。

こうした理由により「ラーメンは庶民の食べ物なんだから……」という思い込みに長い歳月、支配されているのです。

しかしラーメンは、とくに96年組以降、その発展に目を見張るものがあり、味だけでなく内装やサービスまで格段に向上しています。

昔からラーメンは二極化すると予測されていましたが、今は「ラーメン専門店」「町中華」「チェーンの激安店」と三極化、もしくは、「先鋭的な高級店」とで四極化しつつあります。

高いラーメンと安いラーメン、それぞれをTPOに合わせて楽しみたいものですね。

教養としてのラーメン 青木健 (著) 光文社 (2022/1/18) 1,705円

書斎派ラーメンファン待望の、ありそうでなかった、ラーメン全体を俯瞰した<完全基礎講座>

ビートたけしさん絶賛「この人、すごいなあって思うわ」

[他角度から啜る解説52本] [ラー年表 ~ラーメン533年の歴史] [ラーメンの基本ジャンル20] [当地ラーメン基礎固め] [系列店の基礎知識] [ラーメン界隈人物辞典] [マニアック・ラーメン用語集]

■(店)96年組と呼ばれる「青葉」「麺屋武蔵」「くじら軒」がラーメンの歴史を激変させ、イノベーションを加速させた

■(食べ方)麺を「丼のどこから抜くか」で味が変わる。すべての料理同様「そのラーメン」をより美味しくさせる食べ方はある

■(店)客に気づかれないよう常に味を進化させる〝春木屋理論〟それで初めて「いつも変わらない味」と長年言われ続ける

■(考察)人がラーメンの麺を噛み切って丼に戻す理由は、汁のハネ、丼の重さ、そしてカウンターの食事だから

■(メニュー)ワンタン「メン」と五目「そば」が同居するメニュー名の謎

「ラーメン業界を専門にするデザイナー、イラストレーターの青木健氏初の著書。Twitterでも話題になっており、Kindle版を購入。書斎派ラーメンファン待望とありますが、誠実な文章はビギナーも置いてきぼりにすることなく、万人が楽しめる一冊になっていました。タイトルにあるように、「ラーメン」ももはや一般教養なのですね。巻頭カラーのラーメンガイドも、ラーメンの進化図も眺めていて面白かったです。年表も細かいデータが満載。ページをめくっているとついラーメン店に行きたくなる、著者のラーメンへの愛情がしっかり伝わってくる素晴らしい一冊でした。」

「根底にラーメンに対する深い愛情を感じる。知っていそうで知らなかったこと。思い込んでいたこと。ラーメンに詳しい人は勿論、たまにラーメンを食べに行くくらいの人でも響いてくる本です。ラーメンは好きだけど もっともっと好きになれると思えた一冊でした。」

「単に美味しいラーメン店を探すならこの本はオススメしません。インターネット上の口コミでいくらでも情報があふれていますし、情報誌を参考にするのも良いでしょう。「美味しいラーメン屋さんを探すため」に本を探している方は本書は不向きかも知れません。見開きで見やすく構成された本誌はとても読みやすく、随所に「金言」とも言える著者ならではフレーズがちりばめられています。「教養としての」と書かれているだけあって、もちろん知識は広がり勉強にもなります。でも、むしろ本書を読むことでもっとラーメンを食べる事の楽しさや新しい味に出会う事の楽しさを教えてくれるような気がします。この本は「ラーメンと楽しく付き合うための本」と言えるかも知れません。単なる食べ歩きが趣味の自分ですが、世界が少し広がった気がします!」

 

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