確定拠出年金には企業が掛け金を出し、加入する従業員が運用方法を選ぶ「企業型」と、加入者自らが掛け金を払う「個人型」のiDeCo(イデコ)があります。拠出する金額は確定しているのですが、受給額は運用次第で変動するものです。

今後の就労状況を見据えて

今回の改革には、確定拠出年金に加入できる期間の拡大が盛り込まれています。

原則として、企業型については60歳未満まで(同じ企業で継続雇用される人は65歳未満まで)から70歳未満までに、イデコについては60歳未満までから65歳未満までに、それぞれ引き上げます。

受給開始時期についても、現在の60~70歳から60~75歳に広げる方向です。

これは高齢期の就労が拡大していることを踏まえたものです。

ファイナンシャルプランナーの深野康彦さんは、

「運用期間が延びて拠出金額が増えれば、受け取る年金額が増える可能性がある。老後の準備のための資産づくりを考えるとプラスの改革だ」

と評価しています。

税制面で優遇

イデコには税制面での優遇があります。

まず、掛け金が全額所得控除になるのです。

運用益についても非課税。

株式などで得た運用益には、通常約20%の税金がかかるのとは違います。

受給の際にも、一括で受け取る場合は退職所得控除、分割で受け取る場合には公的年金等控除を活用できるのです。

前出の深野さんは

「入り口、保有中、出口で税制メリットがある」

と、イデコが有利な点を強調します。

深野さんの試算では、例えば年収600万円で扶養家族2人(配偶者と16歳未満の子)の会社員(40)が、イデコで毎月2万円(年間24万円)を20年間積み立てた場合、24万円は所得から全額差し引けるため所得税と住民税が軽くなります。


1年で約4万8,500円の税制優遇が受けられる計算です。

そうなると、20年間で約97万円も得するのです。

ただ、こうしたメリットがあるにもかかわらず、イデコの加入者は約140万人にとどまっているのが現状です。

企業型には約720万人が加入する一方で、イデコの普及がなかなか進まない理由として、深野さんは

「投資家教育や、資産形成について教わる機会が足りない。様々な金融機関、商品があり、何を選んだらよいのか、分からない人が多いのではないか」

と指摘しているのです。

シンプルに

深野さんによると、資産運用の王道は、(1)長期、82)積み立て、(3)分散投資だそうです。

「イデコを始める人は投資デビューの人が多いと思う。シンプルに考えるのがよい」

とアドバイス。

金融商品が様々ある中で、どこに分散投資すればよいのか明確な答えを出すのは難しいのは誰もが考えることです。

預貯金がそれなりにある人であれば、無理に分散投資をせずに、先進国の株式で運用する投資信託などに絞って掛け金を拠出するのがよいということです。

深野さんは

「バックボーンに預貯金があれば、イデコによる投資信託との2種類に分散されていると言え、それほどリスクはない」

と話します。

損失出ることも

イデコを利用する際には注意点もあります。

まず、受給額が運用結果次第で変わる点です。

イデコはあくまでも投資なので、大きな利益を得るチャンスがある一方、損失が発生する可能性もあることを念頭に置いておかなければいけません。

また、イデコで積み立てた資産は原則として60歳まで引き出せないのです。

例えば、30歳代から運用を始めた場合、引き出せない期間が長くなるので注意が必要。

住宅購入や子供の教育費など、ライフプランの中でまとまったお金が必要になる可能性を十分に検討した上で、運用を考えるのが望ましいでしょう。

深野さんは

「イデコの普及を進める最大のポイントは賃金改革だ。賃金が上がって可処分所得が増えなければ、投資にお金を回す余裕が出ないのではないか」

としています。

iDeCo(イデコ)について

国民年金や厚生年金などの公的年金とは別に、自分で掛け金を積み立てて運用する私的年金。

毎月一定額(上限あり)を積み立てて、投資信託や定期預金などで運用します。

自前の企業年金のない企業の従業員がイデコに加入している場合、企業が掛け金を追加で拠出するiDeCo+(イデコプラス、中小事業主掛金納付制度)という制度もあります。

今回の改革で、イデコプラスを利用できる企業の範囲を現行の「従業員100人以下」から「300人以下」に拡大します。

自助努力で資金確保を後押し

今回の年金改革で、イデコなど私的年金の拡充が打ち出された背景には、少子高齢化で公的年金の受給水準が今後目減りしていくことが避けられない中、自助努力による老後資金の確保を後押しする狙いがあるのは間違いありません。

全世代型社会保障検討会議の中間報告で打ち出した高齢者の就労拡大策と併せ、公的年金だけに頼らない選択肢を増やすことで、将来不安を少しでも和らげたい思惑もあるのです。

総務省の2018年の家計調査によると、「高齢夫婦世帯」(夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯)の年金などの収入は月約22万3,000円。支出は月約26万5,000円となっています。


単純計算で約4万2,000円不足しているのです。

一方、8月に公表された公的年金の財政検証結果では、現役男性の平均手取り収入に対するモデル世帯の年金額の割合を示す所得代替率は、経済成長が進む標準的なケースで47年度に50.8%となり、19年度の所得代替率61.7%から大幅に下がります。

老後の家計収支の不足額は、さらに膨らむ可能性があるのです。

政府は年金や医療などの社会保障給付費について、40年度には約190兆円(18年度の約1.6倍)に上ると推計しています。

こうした事態を見据え、全世代型社会保障改革の柱の一つとして、70歳まで働ける環境整備を進めています。

働いて収入を得ることで、老後の家計を安定させる効果が期待できるほか、高齢者にも「支える側」にまわってもらうことで、社会保障費の伸び抑制につなげたい考えです。

高齢者の就労意欲も高い。

内閣府の調査では、就労している60歳以上の約8割が「働けるうちはいくらでも」を含め、70歳以降まで仕事をしたいと回答しています。

高齢者の就労拡大と歩調を合わせる形で、確定拠出年金の加入期間を拡大し、受給開始期間を60~75歳の間で選べるようにすることは、こうした流れに沿った改革といえるでしょう。

しかし、課題もあります。

自助努力の前提となる投資に関する知識が不足している人が多く、政府には、民間と連携するなどして投資家教育を充実させることが求められています。

一人一人が自身の老後への備えを着実に進めるためにも、資産運用などについての知識を積極的に身につける努力が重要です。

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