東京を脱出する人が増えている?暮らしづらさが原因か…

ここへきて「東京を脱出する人」が増加中…浮き彫りになり始めた「東京の暮らしづらさ」

東京から地方に、住まいを変える人が増えそうです。

今まで東京は、多くの人が流れ込み、人口が増え続ける「一極集中」の状況が続いていました。

東京から人が出ていく

ここにきてこうした状況が変わりつつあります。

総務省の2021年の人口移動報告によれば、これまでは一貫して転出者よりも転入者が多かった東京23区が、はじめて転出者の数が転入者を1万4828人も上まわる「転出超過」という状況になりました。

これは、比較可能な2014年以降ではじめての出来事です。

この「転出超過」には、新型コロナの特殊要因がありました。

外国人が日本にやってこなくなっただけでなく、多くの外国人が本国などに引き上げていったのです。

2021年1月時点で東京都内に暮らす外国人の人数は57万7329人でしたが、新型コロナの第5波が猛威をふるった8月には2万4424人も減っています。

日本は長らく、移民は受け入れないというスタンスをとってきました。

けれど、これは単なる建前で、安倍政権下では、すでに世界第4位の移民大国となっています。

特に東京への移民は毎年増え続け、2020年の外国人の比率を見ると、豊島区が8・5%、新宿区が7・8%、荒川区が7・7%をはじめとして、多くの外国人労働者が、人口のかなりの部分を占めているのです。

その外国人が、コロナで日本に来られないだけでなく、本国に帰国したということが、「転出超過」の大きな要因なのです。

東京都の人口減は止まらない

では、コロナ禍が過ぎて外国人労働者が戻ってくるようになれば、再び東京は「転入超過」になる、つまり人口が増加するかと言えば、そうではなさそうです。

東京都が、2015年の国勢調査を基準として作成した「東京都長期ビジョン」では、東京都の人口は2025年をピークに、人口が減少に転ずると予測しています。

東京都は、日本の中で、最も「ファミリー」という暮らし方に適さない場所になっているからです。

2020年、都道府県別「独り暮らし率ランキング(国税調査)」では、東京都の単身世帯率は断トツ1位で50・2%。

生涯未婚率についても東京は高く、男性26・4%、女性20・1%にも上ります。

背景には、住居環境などがあり、結婚して子供が生まれると、東京近郊に移り住むケースが多くなっているからです。リモートワークも、それを可能にしています。

独身者の中には高齢者数もいますが、2025年には、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが全員75歳以上の後期高齢者となり、以降、自然減(死亡者数が生数を上回る状態)となっていくことが予想されています。

つまり、コロナ禍が終わって外国人が多少増えたとしてもそれを上回るほどの人口減少が待っているということです。

もちろん東京には働く場所はありますが、子育てなどに適した環境が貧弱です。

国土交通省が2021年3月に公表した「都道府県別の経済的豊かさランキング」を見ると、手取り収入から家賃や光熱費などの生活費及び通勤時間も考慮すると、東京都の豊かさは、最低の47位でした。

また、厚生労働省が公表している待機児童数(2017年)を見ても、1000人あたりの待機児童数の多さは、東京は47都道府県中2番目です。

東京の住環境が悪く、子育てに向かないことは昔から言われてきたこと。

ここにきてそれが理由で人口が減るのはおかしいのでは、と感じる人もいるかもしれません。

答えは単純で、仕事があり、稼げるという魅力よりも、デメリットの方が大きくなっているのです。

不動産価格の高騰で、今や普通のサラリーマンではマンションを購入するのが難しくなっているのはよく知られています。

食費や水道光熱費なども同様で、例えば電気料金を見ても、電力自由化前から、東京電力は東北電力よりも電気代が1割高だったのです。

また、自然減も含め人口が減れば、高騰を続けている不動産価格が落ち着くかもしれませんが、それでも人口が増えることはないでしょう。

街が人を引き付けるのは、地域としての「魅力」が不可欠だからです。

一旦ネガティブなイメージが広まれば、それを変えるのは簡単ではありませんし、東京から地方に移住した人は、経済的にも人間関係でも豊かな地方の魅力に気づくでしょう。

そういう人が、東京の地価が下がったからといって再び東京に戻ってくるとは考えられません。

こうしたことが重なった結果が、「流出超過」だとすれば、それは一過性のものではなく、長期のトレンドとなると考えていいでしょう。

もちろん、現在東京に住んでいる人の「地方移住」も増えると考えられ、「移住」がブームからムーブメントへと発展していきそうなのです。

国が移住に補助金を出す

実は国もこうした東京の一極集中の解消について前向きに考えています。

「転出超過」を後押しする様々な政策をとっているのがその証拠。具体的には東京から地方への移住を推進するための様々な補助金を用意しています。

例えば、「移住直前の10年間、東京圏に通算5年以上住み、東京23区に勤務していた」などの条件に該当する人は、国が援助する「地方創生移住支援事業」を実施している都道府県・市町村に移住すれば、最大100万円の「移住支援金」がもらえる制度がスタートしています。

さらに、移住先で起業すれば最大200万円の「企業支援金」が加算され、もらえる額は最大300万円になります。

ただ、同事業の実施は、2024年までの予定なので、東京脱出を検討している人は、注意してください。

では、東京を出て、みんな、どんなところに移り住んでいるのでしょうか。

2002年より都市住民向けに移住支援・情報提供を行っている認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の約1万人のアンケートによると、窓口(東京)に相談に来たすべての年代から人気1位が静岡県、2位が福岡県、3位が山梨県でした。

「田舎暮らしの本」の「移住したい都道府県ランキング」を見ても、1位の長野県に次いでここ数年の2位は静岡県です。

温暖な気候や、海や山の恵みが豊かなことに加えて、県をあげて移住に熱心で、移住者向けにテレワーク対応のリフォーム補助制度など、独自の補助を提供しています。

また、市町村でも、住まい、仕事、結婚・子育て、医療福祉など様々な制度を設け、移住を応援する体制となっているからでしょう。

自治体独自の支援

少子化が進む中で、人口減少に悩む自治体も、あの手この手で移住者を受け入れる施策を打ち出しています。

山形県遊佐町では、町外から移住して同町に5年以上住む意思がある人が建売や中古住宅を買うときには、取得費用に12%、最大120万円までを助成しています。

40歳未満、もしくは移住者だと、最大140万円助成しています。

北海道川町では、同町に住んだことがない人が移住して移住するする意思を示し、3年以内の住宅を新築する場合、最大200万円を「住宅建促進支援事業補助金」として交付しています。

親が高齢化していて、介護が心配なので近くに住みたいという人への補助も増えています。

神奈川県厚木市は、厚木市民の子かその配偶者を含む世帯が市街から転入し、親と同居するために住宅を購入する場合は60万円、子世帯が同市内に住宅を購入する場合には40万円を「親元近居・同居住宅取得等支援事業補助金」として交付します。

同居する住宅を改修する場合は、補助対象学の約1割、最大20万円です。

詳しくは、「一般社団法人 移住・交流推進機構」のホームページなどを見てください。

親との近居を支援する自治体も増えている

少子化だけでなく、高齢化も、自治体にとっては頭の痛い問題です。

今、どこの自治体も、高齢者の介護の問題に直面しています。

こうした問題の糸口の1つとして、親世帯との同居や近居を支援する自治体が増えています。

近居とは日常的な行き来ができる“スープの冷めない距離”に住むこと。

同居よりハードルが低いので、同居と並んで近居にも補助金を出す自治体が増えています。

たとえば、神奈川県厚木市の「親元近居・同居住宅取得等支援事業補助金」は、親世帯が厚木市在住で、子世帯が市外から転入する場合に補助金が出ます。

金額は、同居用の住宅購入だと60万円、近居なら40万円。リフォームは費用の1割で20万円を上限として支援しています。

また、子世帯に中学生以下の子どもがいる、世帯主が40歳未満など4つの条件があり、それぞれの条件を満たすと、10万円ずつ最大100万円の補助金が出ます。

千葉県松戸市の「三世代同居等住宅取得支援」は、親世帯が松戸市在住で、子世帯に中学生以下の子どもがいることが条件ですが、同居用の住宅購入に75万円、近居用なら50万円を補助しています。

子世帯が市外からの転入する場合には、25万円が加算され、こちらも最大100万円の補助金が出ます。

山梨県鳴沢村「三世代同居等支援事業補助金」は、親世帯か子世帯どちらかの転入だけでなく、親世帯と子世帯がそろって転入でも補助金が出ます。

条件は子世帯に中学生以下の子どもがいること。

補助金は住宅購入なら、同居でも近居でも費用の2分の1で、上限は新築なら100万円、中古なら80万円らです。

同居ならリフォームでも補助金が出て、費用の2分の1で上限50万円となっています。

親との近居に「割引」

賃貸住宅でも、「近居」で有利な家賃補助をしているところがあります。

たとえば、全国に賃貸住宅を展開している都市再生機構(UR)には、「近居割」という、親子が近くに住むと使える割引があります。

近居・同居のために親世帯と子世帯の両方、あるいはどちらかがURの団地に住む場合、家賃が5年間5%引きになります。

子世帯が一定の収入以下だと5年間は20%引きになる場合もあります。

URは全国にあって、礼金、敷金、仲介手数料がゼロで、しかも保証人も必要ないという物件もあるので、気軽に引っ越すこともできます。

ただし、地域によってはもっと安くて便利な物件もあるので、借りるなら調べてみましょう。

どこで、誰と暮らすかで、人生の幸福度は変わります。そういう意味でも、ファミリーが暮らしにくい東京から地方に脱出していく流れは、今後ますます加速していくことでしょう。

ネットの声

「地方が財源とコミュニティ維持のために人を集めるために、頑張っていることは承知しています。テレワークも進み、毎日通勤というのが全てではない中、東京にいる必要もない人もいるでしょう。ただ、地方の人集めの根本的な問題は少子高齢化であるのだから、自治体独自の移住政策は勧めていくにしても、国は少子化対策について抜本的な改革をしていくべきだと思います。子を持つ政治家や官僚も多いはずだが、待遇が良すぎて気づいていないようですが、子供を育てるのには金がかかる訳です。そして、子供を産み育てることはいつでもできるわけではありません。もっと子育て世代に手厚い政策をして子供を産み育ててもらわないと、この流れもやがてなくなるかもしれません。俗に言う転入超過に戻るでしょう。」

「農村では無いけど、地方の県庁所在地の近郊の町で生まれて大学入学までそこで育った。私がいた町は、物理的には暮らしやすいけれど、精神的には少し暮らしにくいところだった。物心両面、暮らしやすい地方の街もあるだろうけれど、それがどこか、自分に合うの」

「地方への移住が増えることは良いことだとは思いますが、直接的に金銭的支援をして移住者を集めることには疑問を持っています。国も地方も財政が真っ赤っかの状態。途中で打ち切りになった場合、どうするのでしょうか。あくまでもルールや制度面の工夫で移住者が行き易くなるようにするのが基本だと思います。
もちろん、現在ある(金銭的支援も含む)制度を利用することについて何ら批判するものではありませんが。」



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