うまい棒…値上げしても人気が変わらない秘密とは

“偶然”から生まれた「うまい棒」大ヒットフレーバー、値上げしても人気の秘密

発売から42年間ものあいだ、個包装でありながら1本10円という価格を守り続けてきた駄菓子の代表格「うまい棒」。

とうもろこしを原料とした、めんたい味やコーンポタージュ味などが人気のコーンパフスナックです。

うまい棒を販売している「株式会社やおきん」。

2022年4月に10円から12円への価格改定に踏み切ったその舞台裏とともに、うまい棒の誕生や歴史、フレーバー開発の裏側について営業企画部営業企画部の田中浩次氏(45歳)に話を聞いています。

発売当初から変わらない「うまい棒」の特徴

うまい棒が誕生するキッカケとなったのが、1979年よりも少し前に登場した新しいパフマシンでした。

当初はポテトチップなどを製造するスナックメーカーが使用し、新商品などを製造・販売していたのですが、のちに駄菓子メーカー各社にもパフマシンが出回るようになり、さまざまな新商品の開発競争が起きたのです。

「このとき誕生したのが、現在のうまい棒の原型です。うまい棒は、細かくしたコーンをパフマシンで熱と圧力をかけてグッと押し、それを機械の外に開放し引っ張ることで長い棒状のパフを作っています」

出てきた棒状のパフは切る長さによって、クルっと巻いたような形や球状に。

うまい棒は、出てきたパフをグッと引っ張って伸ばし、等間隔に切って作ります。

けれど、パフマシンが登場した当時は長い棒状にする作業が難しく、試行錯誤を重ねたそうです。

「棒状の商品は、ほかの企業からもいくつか発売されました。そのような商品と違ったうまい棒の特徴としては、発売当初から1本ずつ個包装にして売り出したこと。それは、コーンパフが湿気にすごく弱いこと、そして当時の販売方法にありました」

うまい棒を個包装で販売した理由

当時、うまい棒は駄菓子屋での販売がメイン。

お菓子や竹串に刺したおつまみなどを裸のまま瓶やプラスチックのケースに入れて販売していました。

購入するときは「店主に支払いをし、買った分をケースから取り出す」、これを繰り返す販売方法。

「ケースの開け閉めで湿気て味が落ちてしまうことを見越して、個包装にしたのです。個包装にしたことで、当時主流の買ったお菓子を駄菓子屋の前で食べるスタイルに加え、公園や秘密基地などアウトドアでも食べてもらえるようになりました」

また、パッケージにうまい棒のロゴマークやキャラクターの「うまえもん」を載せたことで、子供たちからの認知度も格段にアップ。

のちに、「賞味期限や原材料の記載が必要になったときにも対応しやすかった」そうです。

実は自社工場を持っていない

画期的な商品となった「うまい棒」の誕生には、「リスカ」という会社が大きくかかわっています。

実はやおきん、自社工場を持っていません。

麩菓子やきなこ棒などの駄菓子を製造している会社やスナックの工場など、さまざまな協力企業といっしょに新しい商品を生み出しているのです。

「うまい棒は、茨城県にあるリスカ株式会社さんといっしょに生み出した商品です。リスカさんの製品にはハートチップルやビッグチョコ、コーンポタージュスナックなどがあります」

共に商品を企画し、リスカが製造、やおきんが販売。二人三脚で、味やパッケージなどの改良を続けながら、2022年現在もうまい棒を世に送り出し続けているのです。

その歴史、約43年。長い歴史の幕開けとなった発売当初のフレーバーは何味だったのでしょうか。

「いちばん最初に発売した味はソース味です。ソースの発売から3年後、1982年に発売した『めんたい味』が大ヒットし、うまい棒の知名度は一気にアップ。当時、明太子は知らないけど、うまい棒のめんたい味なら知っているという子供も多かったようです。長らく人気のフレーバーだったため、30~40代の方にとってはいちばん思い入れのある味かもしれません。ちなみに20~30代だと1992年発売のコーンポタージュ味やシュガーラスク味が人気ですね」

偶然から生まれた「大ヒットフレーバー」

うまい棒をめでたく大ヒットに導いた「めんたい味」だが、当時の担当者が明太子の本場である九州へ出張しなければ、誕生しなかったかもしれません。

実は当時、明太子は全国的にまだまだマイナーな食べ物だったのです。

出張中の飲み会で明太子を食べた担当者が、そのおいしさに感銘を受け、「どうにかうまい棒にできないか?」と商品開発を開始。

当初は「明太子味」にて販売を考え、実際に明太子を使って試作していました。

「けれど、明太子を扱い慣れていないこともあり、そのまま使うと生臭さが残ってしまう。試行錯誤を続けるうち、明太子がスケトウダラの子だということに再着目。原料メーカーなどと相談して取り寄せたタラのパウダーと香辛料などで味を近づける工夫をし、完成させました」

開発期間が「はっきりしない」理由

めんたい味の開発には、かなりの時間を要したと予想されるが、「どれぐらいかかったかは、はっきりとしない」との返答。

ほかのフレーバーの開発期間についても尋ねてみたが、どうもはっきりしないのです。

しかし、これには理由がありました。

「発売当初は新しい味の出る頻度も高く、既存の味も1~2年ぐらいで次の味に切り替わっていたのです。そのため、新しい味を考えてはいちど引き出しに仕舞っておいて、『いま、こういう味はどうかな?』と引っ張り出す感じでした。いまも同じやり方をしていて、毎回イチから作るというよりは『こういう味どうだろう?』と、同時並行的に考えながら進め、時期をみて商品化しています。種類の多さが、うまい棒の魅力のひとつ。そのため、流行りの味や珍しい味などにも対応できるよう努力しています」

リアルを追求しすぎて終売になった味も

うまい棒の新味は、不定期に発売されます。

難しいのは、「尖った味でもおいしいもの」にすること、そして「リアルすぎてもダメ」だということ。

過去に海と山のものをうまく合わせて新しい味を作ろうとしたのです。

「海のものとしてイカの粉を使用し、イカ焼きをステーキにしたようなイメージの、『マリンビーフ味』ですが、1年販売したかどうかという短命に終わりました。ほかにも、リアルな味を追求しすぎて失敗した『ギョ!the味』という商品もあります。有名店やおいしいと評判の店などから餃子を集め、すり潰すなどして研究・試作を繰り返しました。研究室はいつも、ニンニクのニオイで充満していたほど。けれど、リアルを追求しすぎたためか、こちらも万人受けせず1年ほどで終了しています」

発売からのフレーバーは60種類以上

苦労して開発されたフレーバーは、発売から現在までに60種類以上。

ときどき入れ替えのある定番14種類のほか、季節・イベントものなどがあります。

また、熊本で大地震が起きたときには、くまモンとのコラボパッケージ商品を発売。

売り上げの一部を寄付しています。

「そのときは、熊本県にある万次郎かぼちゃのパウダーを一部使い、『万次郎かぼちゃのポタージュ味』を発売しました。サービスエリアなどで土産物として流通しているうまい棒は、既存の味を上手に活用し、それぞれの地域に合った味やパッケージに仕上げています。どこに行ってきたのかがわかるパッケージのほか、配る人1人あたりの予算が抑えられると人気ですが、コロナ禍では大きな打撃を受けました。そういった事情もあり、現在は土産物としての商品の売り上げはまだコロナ前までは戻っていません」

10円から12円に。値上げまでの42年間

さまざまな工夫を続けながら発売から42年間もの長い間、販売価格10円を維持してきたやおきん。

しかし、今年ついに12円に値上げを発表し、SNSで話題になりました。

「ただ、大きさが変わったときはあります。いまのうまい棒は、歴代2番目の大きさ。時期やサイズの詳細な資料は残っていないですが、発売当初は、現在の約3分の2ほどの大きさでした。けれどそのうち、めんたい味の人気や工場のオートメーション化などによるコスト削減もあって、うまい棒の売上がアップ。そこで、うまい棒を購入してくれる子供たちに何か還元したいと考え、1本のサイズを大きくしました。長さは現在と同じぐらいで、もう少し太いうまい棒に変更しています」

子供が「プロデュース」できる環境を

しかし2007年頃、うまい棒の原材料であるトウモロコシの価格が高騰。リーマンショックなどの社会情勢も影響し、大きさを維持できなくなり、1g少ない現行サイズとなりました。

それだけでなく、ここ数年は賃金や運送費の引き上げ、原材料の高騰、消費税増額など値上げを考えるさまざまな出来事が起こっているのです。

「ただ、お小遣いの100円で、いろいろな味を楽しんでいただきたいというのも大きなコンセプトのひとつ。消費税は別にしても、うまい棒なら100円で10本買える。30円と20円のお菓子を買って、うまい棒を5本買うなど選ぶ楽しみがあるのも駄菓子の醍醐味です。また、限られたお小遣いのなかでやり繰りするうちに、子供たちが何を買うか? とプロデュースできる環境を維持したいとの想いもありました。そのため10円を保つ努力をしてきましたが、昨年頃からのもろもろのコストアップに耐え切れなくなったのです」

社内では、「重さを減らして価格を維持する」といった意見も出たそう。

しかし、原材料や輸送コストの高騰が続き、社会情勢も不安定。

この先、どうなるか見通しが立たない状況を踏まえ、値上げを敢行したのです。

駄菓子屋がなくなっても販路を開拓

「量を減らしていくと、『うまい棒、小さくなったな……』とお客様をガッカリさせてしまいますし、うまい棒のよさや価値も失われてしまう。ただ、10円を値上げするなら20円という意見も出ましたが、一気に倍だとお子様は100円で5本しか買えなくなってしまう。15円や12円などさまざまな意見が出るなか、最終的には100円で、できるだけたくさんの種類を選んでいただきたいという想いを込めて、12円という価格に決定しました」

うまい棒が誕生した当初は主流な販売先であった駄菓子屋ですが、いまは見かける機会もすっかり減ってしまいました。

けれど、うまい棒の販路は拡大しています。

「夢や」や「一丁目一番地」といった駄菓子専門店をはじめ、スーパーやドラッグストアなどです。

「お子様だけでなく、親子や三世代で駄菓子を購入してくれることも増えました。お父さんやお母さん世代が子供の頃にうまい棒を食べていて、30本入りの袋が自宅に3~4種類あるという方もいらっしゃるようです」

販売先や購買層は、うまい棒の発売当初から比べると大きく変化しています。

そして、値上げも敢行しました。

それでもうまい棒が愛されてやまないのは、多くの人に商品を知ってもらう努力や愛される味への追求に余念がないからかもしれません。

ネットの声

「うまい棒が低価格をずっと維持出来たのは企業努力だと思う。
ただ、昔に比べてサイズが小さくなったりといった購入者側にもデメリットは有ったが、それでも素晴らしい努力だと思ってます。
ビックリマンなんかは当時20円で購入してましたが、最近コンビニで見かけたら100円程度してて驚いた覚えがあります。
近年円安が続き値上げが必然的になってるし例え2円の値上げでも断腸の思いだったと思います。
今後も是非頑張ってほしいメーカーです。
応援しています。」

「必ず家に大袋のチーズが買い置きしてあります。
個包装だから食べたい時に一本だけとか手軽に食べれるから凄く助かってるし子供も大好きです。
だから個人的には正直20円に値上げでも買うと思う
安いから買ってるんじゃなくてあの味が好きだから買ってる訳だし、値上げされたとしてもそのくらいの値段で他に変わりになるお菓子ってそうない気がする
逆に安く売りすぎて発売を辞められる方がすごく困るからしっかり利益取って売り続けて欲しい。」

「かなり前に鬼怒川が集中豪雨で決壊する災害があった時、川沿いのリスカの工場にも被害が出たことがあった。
その報道で全国の消費者が同情して、うまい棒を買って助けようと言うことで注文が殺到したが、うまい棒は利益が取れないため売れば売るほど赤字になると言う実態も露見した。
2円値上げがどれほどの断腸の思いだったかは知らないが、価格は本来その時の経済情勢、物価水準に応じて柔軟に変動すべきもの。低価格そのものをブランド化して維持することを良いことのように書くのは疑問だ。
企業努力がなんでも良い取り組みなわけではなく、むしろ日本に限って言えば単なる雑巾搾りの場合が多い。」

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