英国車の香り漂う伝統のバーチカルツインエンジン…W650というバイク

カワサキW650は1999年に発売された。1966年に発売されたメグロ650ーW1の系譜を受け継ぐバイクだ。外観は現在のバイクシルエットとはほど遠いくらい古くさい。しかし、伝統的なバーチカルツインエンジン搭載のバイクだ。

バーチカルツインエンジンを搭載

W650が搭載しているのは空冷OHC並列2気筒エンジンだ。シリンダーが直立しているので、特にバーチカルツインエンジンという呼び方をしている。

日本製バイクに駆逐されてしまったが、かつては栄華を誇った英国の大排気量バイクがこのバーチカルエンジン搭載のバイクだ。トライアンフといえば、馴染み深いバイク乗りもいるだろう。

このW650は古き良き英国製バイクのコピー(良い意味で)といっていい。もっとも、元はメグロW1だ、ちなみにメグロはこのW1を出した直後にカワサキに吸収されている。

そのため、W1はカワサキブランドといっても間違いではない。


W650の正確な排気量は675cc。ボア(シリンダー内径)×ストローク(ピストン行程)は72ミリ×83ミリで、ボアよりもストロークの数値が大きい。これをロングストロークと呼んでいる。

逆に排気量608ccの単気筒エンジンを持つヤマハSRX600のボア×ストロークは96ミリ×84ミリで、ボアよりストロークの数値が小さい。これをショートストロークと呼んでいる。

現在の大型バイクの主流となるリッターマシン(1000cc以上のバイク)の一台である、ホンダ・ファイヤーストームのV型2気筒エンジンはボア×ストロークが98ミリ×66ミリで、これもショートストロークだ。

ショートストロークはロングストロークよりも高出力タイプで、ロングストロークはショートストロークよりも高トルク型と言える。

いわゆるスーパースポーツタイプのバイクはショートストロークの高回転型エンジンを搭載しているのだ。

●珍しいロングストロークエンジン

W650は現在では極めて珍しいロングストロークエンジンだ。しかもOHCを採用している。

現在の技術をもってすれば、DOHCバーチカルツインなど何の造作もないことなのだが敢えてそうしなかった。

排気量にしてもリッターバーチカルツインも決して不可能ではないはずだ。

そうしなかったのはなぜか。

W650は馬力よりもエンジンの外観を重んじたからだ。

世界でも稀なベベルギアによるカム駆動方式を採用したのも外観を優先させた結果だ。

675ccという排気量も、振動対策の面で不利な72ミリ×83ミリというロングストロークも、基本的には美しい外観を持つエンジンをつくることを優先した結果としてその数値に決まったという。

W650には随所にそういったこだわりが見られる

W650の最大の特徴は「節制」にあると言ってもいいかもしれない。

極めて小さな排気音にも節制が感じられる(音質はとてもいい)。

フロントタイヤを19インチという大径にしたのも、外観の美しさを保つためだ(現在の主流は17インチ)。

こういったところで、このバイクに対する好き嫌いがはっきりと分かれる。

これだけ好き嫌いがはっきりと分かれる要素を量産車に盛り込むのは、メーカーにとっては危険な賭けといっていいだろう。

新しい価値観を提供する先駆者は、常に危険な賭けに出るものだから。

●W650の鼓動

W650の明確な主張のひとつに鼓動がある。

鼓動は主観的なものだし、ある意味では得体のしれないものだ。

しかし、W650は最新のテクノロジーを駆使し、この得たいのしれないものを現実に表現している。

誰もがW650に乗ると、このバイクから鼓動の真の意味を教わることになる。

振動と鼓動の違いが明確に伝わってくる。

すなわち振動は消したくても消せなかったものを指す。

そしてわざと残したのは鼓動なのだ。


これは、現在ではW650(後にW800)のみだが、過去にこのバイクの他に例がなかったわけではない。

アメリカンタイプのホンダ・スティードはブロスと共通のV型2気筒エンジンを搭載していた。

エンジンは同じでも、ブロスは位相クランクという斬新な手法で振動を消し、スティードは従来の同軸クランクを採用して振動を残した。

ここで、強調しておかなければいけないのは、消そうと思えば消せた振動をスティードは敢えて残したことだ。

これにはW650に通じるものがある。

バイク乗りは経験的に鼓動を理解しているが、それはまとめると次のようになる。

鼓動はバイクのメカニズムと力学の総合的なものであって、これを生み出すのは思想だ。

したがって、振動はバイクから一方的に感じる要素であるのに対し、鼓動は乗り手の知性や感性といったものに呼応する。

振動はエンジンのみによって生まれるものではなく、フレームやサスペンションなどの影響も大きい。

W650の外観は古くさいが、中身は新しいテクノロジーと新しい考え方でできているのだ。

●まとめ

W650はキャブ車であり、2008年には排ガス規制の強化によって生産終了となった。

しかし、2010年にヨーロッパで先行モデルとして先行してW800が発売される。

そして、翌2011年に国内仕様車が発売された。

クラシカルな外観は爆発的なヒットはしないものの、一定数の需要があるためだ。

W650は国産大型バイクの中では唯一無二の存在であり、生産終了を惜しむ声は少なくなかった。

それに応えるようにそれほど間を開けずにW800が発売された。

これは、日本だけではなく世界の声なのだ。

エンジンの燃料供給装置はキャブから電子制御式燃料噴射装置(Fuel injection system)に変わっている

これは時代の流れで仕方がない。

大型バイクでFIに変われなかったバイクは生産終了のままだ。

長く続いたヤマハのSR400も一度生産終了してFIエンジンを搭載して復活している。

話は飛躍するけども、いずれクルマは自動運転システムを搭載して、自分でハンドルを握らなくても目的地に着くことができるようになりそうだ。

しかし、バイクはそうはいかない。

もしそうなることがあれば、バイクを降りるという人が続出しそうだ。

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