安売り信仰が日本を貧しくしたのかも?

日本を貧しくしている「安売りだけ愛する人たち」

「安い=善」という呪縛から解放されよ

物価の上昇が止まりません。

しかし、値上げによる顧客離れを懸念し、なかなか大幅な値上げに踏み切れないのが現状です。

そのようななか、「値上げはどんどんするべきだ」と説くのが、マーケティングのカリスマとして知られる小阪裕司氏です。

小阪氏によればむしろ、「安売りにこだわる企業のほうが危ない」というのですが…。

「安いことは良いことだ」という固定観念

コロナ禍によるサプライチェーンの断絶や戦争によるエネルギー問題などがあり、物価高が一気に顕在化しました。

それにより、本来は徐々に進行していた価格高騰の波が一気に押し寄せてきたのです。

とはいえ、多くの企業や店舗では、もはや値上げは不可避と思いつつ、なかなかそれに踏み切ることができません。

それはなぜかというと、多くの人が「値上げは悪」という固定観念に縛られているからではないでしょうか。

もちろん、安くできるならそのほうがいいでしょう。

しかし、いいものを提供するならば、その対価としてそれなりの金額をいただくことは、ビジネスの基本でもあるのです。

なのに、なぜか「1円でも安くなくてはならない」という考えに縛られている人が非常に多いように感じます。

特に小売業に属する人に、その傾向が強いようです。

まずはこの「呪縛」から逃れられないと、価格上昇時代には生き残ることはできません。

とにかく「安く」の時代は終わった

ではなぜ、日本人はそうした呪縛にとらわれているのでしょうか。

その源流は戦後日本の貧困にあったのではないでしょうか。

戦争に負け、日々の生活必需品にも事欠く中、多くの産業人たちが商品や製品を広くあまねく世の中に行き渡らせることを自分たちの使命としました。

ゆえにそこでは、「とにかく安くすること」が優先課題だったのです。

その後、大量生産によりコストは下がり、日本人は良い商品を安く手に入れることが可能になり、生活のレベルもどんどん上がっていったのです。

そして、そんな先人たちのおかげで、日本は奇跡と呼ばれるような復興を成し遂げることができました。

そのことに対して、われわれはいくら感謝をしてもしきれないのです。

ただ、平成になったあたりから、明らかに世の中の流れが変わってきました。

生活必需品はほぼ全国民に行き渡り、誰もがそれなりの生活レベルを維持できるようになったのです。

いわば「1億総中流」です。

「必要なものをなるべく安く」という時代は終わったと言っていいでしょう。

しかし、われわれビジネスパーソンの意識は、その当時のままであるようです。

ビジネスの会・ワクワク系マーケティング実践会の会員の中にも、「値上げするのはお客さんに悪いことだと思っていました」と言う人がかなりいます。

これはデフレの影響も大きいでしょう。

ここ20年ほどデフレが続き、しかも企業やお店が「頑張った」ことで、価格が固定化されてしまいました。

そのせいで、「価格を上げるのは悪」という意識が残り続けてしまったのではないでしょうか。

むしろ、年々初任給が上がっていた高度成長時代のほうが、価格の流動性が高かったように思えます。

それこそ毎年、ひょっとすると半年に一度くらいの割合で値上げをしていたのではないでしょうか。

しかし、それが批判されることもなければ、今日のようにニュースになることもなかったのです。

消費者は2つの顔を持っている

昨今、「値上げ」「物価高騰」についてのニュースを見ない日はありません。

スーパーで主婦がインタビューに答え「物価が上がって困る」「もっと節約しなければ」などと答えているのを見て、「やっぱり値上げは悪なんだな」と思ってしまう人もいるでしょう。

ここで理解しておいてほしいことは、「消費者は2つの顔を持っている」ということです。

例えば、インタビューで「生活費を節約しなきゃ」と答えて、実際に少しでも安い日用品を購入しようとしている主婦が、一方で趣味のクラフトには進んで高額な材料を使っていたり、はまっている韓流の「推し活」には大いにつぎ込んでいたりする。これが、現在の消費者像です。

つまり、ここでいう「節約」とは、「予算配分」の話なのです。

限られた予算の中で、配分したいものにお金をより配分するために、どうでもいいものは切り詰めます。

この2つの顔はスイッチを切り替えるように、1人の人間の中で一瞬にて切り替わるのです。

なんおで、インタビューを受けた際には節約のほうのスイッチが入り、「生活費を節約しなきゃ」と答えるのです。

誰だって「安いほうがうれしい」という盲点

同様に、世論調査の結果を見る際にも、少し気をつけたほうがいいでしょう。

先日も、「価格上昇で生活が苦しくなったか」「物価高を容認できるか」という世論調査が行われており、「苦しくなった」「容認できない」という結果が過半数に達していましたが、そもそも「物価高を容認できるか」と聞かれた瞬間、節約のスイッチが入るのです。

別の観点からお話しすると、「支払い」というのは顧客にとってつねに「ペイン」(痛み)です。

この痛みは誰にでも発生するものです。

ウォーレン・バフェットやイーロン・マスクほどの大富豪でも、支払いは少ないほうが痛みは少ないのです。

「値段が高すぎる」「安くしてほしい」という世間や顧客の声は聞くべきではあるけれど、それを真に受けすぎないほうがいいということです。

この価格上昇局面において、おそらく一時的に「安売り」がもてはやされることになるでしょう。

実際、大手スーパーのプライベートブランドに人気が集まり、ディスカウントストアに人があふれているなどのニュースも見かけます。

それでも「安さの土俵」で戦いますか?

また、こういう状況を逆手に取って、あえて「安さ」を売りにしてくる会社もあるでしょう。

今までよりいっそう安い金額を提示する、今まで1名で対応していた仕事を同じ価格で3名にて対応する、といったことです。

実際にそういう競合が現れたという話を各所で聞きました。

そのような時代だからこそ、「安さにこだわる」という判断もあるでしょう。

その土俵で戦うことを否定はしません。

しかし、安さを追求しようとすると結局、どうしても大きな企業が有利になるのです。

大量仕入れによって原価高騰を最小限に抑えたり、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって大幅なコスト削減が狙えるからです。

それでもコスト削減は容易ではないでしょう。

10円、20円のコストカットのために、各社は厳しい戦いを繰り広げることになります。

そして、やっとの思いで10円の値下げを実現したところで、今度は12円の値下げをした競合に売上をごっそり奪われることになります。

「頑張って価格を維持」はもうやめよう

つまり、もしあなたが「安さ」で勝負しようとするならば、そのような、1円を巡る厳しい戦いを覚悟しなくてはならないことになります。

そうであるならば、多くの企業は消費者が持つもう1つの顔のほう、すなわち「生活必需品への出費を削ってでも使いたいもの」へのシフトをこそ目指すべきではないでしょうか。

日本企業は企業努力により、価格上昇をなるべく抑えてきました。

その努力がどうにもならなくなってきている今、その常識を捨て去るときです。

日本語ではそもそも、「頑張ります」「勉強します」という言葉が値下げを指すくらいですが、そのことがいまだに「良い商品を安く普及させることこそが重要」という、戦後の日本の常識が色濃く残っている証拠です。

もちろん、そうした時代を作ってきた先人たちには感謝をしつつ、今こそそこから脱却すべきなのです。

「安いこと=善」「高いこと=悪」という常識を捨て去ること。

言い換えると、価格維持のため、あるいは値下げのために「頑張るのはやめる」と決断すること。

それが、価格上昇時代にうまく対処するためのスタートなのです。

「価格上昇」時代のマーケティング なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか 小阪裕司 (著) PHP研究所 (2022/8/26) 1,023円

価格を上げたらむしろ、顧客が増えた!?

迫りくる物価高の中、顧客離脱を起こさず、むしろ売上を増やす「正しい値上げ」の方法とは?

物価高が止まらない。多くの企業が原価高騰に苦しみ、値上げは不可避の状況になっている。

しかし、下手な価格設定をすれば顧客離れにつながりかねない。値上げは多くの企業にとって切実な問題だ。

では、どのように価格設定を行い、それをどう伝えればいいのか。それを説くのが本書。

著者は長年、「値上げをしても顧客が離れない、むしろ増える」マーケティング手法を説いてきた。そのため、この価格上昇局面においても多くの会員企業が売上を伸ばし、顧客を増やしている。

たとえば、
・客単価が倍になったレストラン
・「物価高はチャンス」と言い切るスーパー
・クライアントからの値下げ要求が消えたメーカー
・自分の技術の向上とともに価格を上げた菓子店
など。

こうしたさまざまな事例をもとに、「顧客が増える値上げの方法」を説いていく。

本書を読めば、インフレがチャンスに変わる!

「「なるほど!」と目から鱗の話はまあありました。先生のメルマガ読んでるので既読の体験談はまあありました。

職場で強制されて買いました。読めって言う割に買ってくれない。でも、自分の勉強にもなったので買ってよかったです。」

「前書きで、物価高がはじまり今後を見据えて「価格上昇時代に値上げをする作法」というテーマの本であると記載されていますが、完読して感じたのは、今後の「アフターコロナ時代」でも、中小企業や商店が、売上を創りながら、しかも愉しく仕事ができるということを、「証拠」を示してくれたような1冊でした。

その「証拠」とは、このマーケティング手法を使った実際の多くの会社・店舗の成功事例が、トピックスごとに掲載されている点です。実名入りのためリアリティと説得力のある内容でした。
2022年以降、商品サービスの価値を伝えることが、今までよりも一層重要であることを改めて気づい
た本でした。」

「3章の価格は価値に従う、6章のビジネスを守ることは、文化を守ること。納得です。いつも貴重な学びありがとうございます。」

 

おすすめの記事