
YouTube100万再生連発の日本人女性、アメリカで人気の意外なワケ
北米で活躍するスタンドアップコメディアンのYumi Nagashimaを、ご存じだろうか。
彼女がなぜ人気なのか、秘密を探ってみよう。
目次
日本語訛りを武器にする選択
「英語ネイティブみたいなカッコイイ発音で話したい」
こう思う人は多い。
英語習得の面から見ても、ネイティブっぽい音が出せないと、ネイティブの音を聞いても認識できず、リスニングが伸び悩む。
一方で、あえて日本人訛り(Japanese accent)を捨てずに、英米圏で活躍している日本人もいる。
彼・彼女たちにとって英語は、日本語訛りも含めて、自分のアイデンティティを表現する手段となっている。
カナダ在住のスタンダップコメディアンで俳優の、Yumi Nagashimaさん(現在のステージネームはYumi)もその1人だ。
なぜ、そうしているのか。
Yumiさんのステージでの動画を見てみよう。
語彙と文化背景について簡単な説明を付けておく。
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【語彙】
be stuck in the 80s 80年代に取り残されている
blaring Phil Collins フィルコリンズを大音響でかけている
“Screw that.” 「くそくらえ」とでも訳すしかない。Screwはスラングでf–kと同意。”F–k that.”とも言う。
awkward social skills 不器用な社交スキル
halitosis 口臭
【文化背景解説】
0:29 “Stop calling me (an) Oriental woman. “ 「私のことをオリエンタル女性と呼ぶのをやめて」
→今では、東洋人をOrientalと呼ぶのは差別的だとされている。2016年、オバマ元米大統領が連邦書類でこの単語の使用を禁じる法案に署名した。現在は、Asianが“正しい”とされる。この件に関しては歴史的背景がいろいろあるのだが、米国暮らしが35年になる筆者も、筆者の知人の東洋人たちも、実生活でOrientalという言葉を差別的だと感じる人はほとんどいない。当事者不在のポリコレではと思ったりもする。
02:25 “Do you want me to help you pay for the wall?” 「壁の建設費の支払いを助けてあげましょうか?」
→トランプ元米大統領が、国境の壁の建設費をメキシコに払わせると豪語したことに絡めている。
ステレオタイプを裏切るぶっちゃけトーク
この動画を初めて見た人も多いだろうが、彼女のステージショー動画の多くが100万回単位で再生されているほどの人気だ。
コメント欄では、「ウケるために日本語訛りを真似ているのでは」とか、「カナダ生まれのネイティブに違いない。時々うっかりしてネイティブの発音になるぞ」「それがどうした。面白ければいいんだ」といった、英語ネイティブ達の論争が起きている。
日本語訛りだけでなく、表情や仕草、笑い方、服装、長い黒髪といった特徴から、「おとなしくて従順」「愛想が良く礼儀正しい」「控え目で優しい」「可愛らしくて無邪気」といった、外国人が抱きがちな日本人女性のステレオタイプをYumiさんは想起させる。
そんな彼女が、外国で暮らす日本人女性の本音を、ステレオタイプを裏切るぶっちゃけトークで語っているのが人気の理由だ。この演出のために、日本語訛りは大きな効果がある。
実際に、「これを見たら日本の女性のイメージが変わりました。めちゃくちゃ面白い」「自分も1人のアジア人として、あなたがステレオタイプと戦っているのを見て、素晴らしい気持ちです」といったコメントも多い。
一方で、こちらのインタビュー動画を見れば分かるが、実はYumiさんの英会話レベルは相当に高い。
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しかし、彼女は自分の英語の発音を、あえて「誰にでも聴き取りやすいレベルの日本語訛り」にしているというわけだ。
Yumiさんは俳優活動の中で発音矯正を勧められたこともあったが、「完璧な英語を話すことで自分が誇りに思っていること、つまり日本人であることを隠しているように見える」と考え、訛りを維持することを選んだそうだ。また別のインタビューでは次のように述べている。
My Japanese accent works because that is something that makes me unique and it makes me stand out. This is how I talk. This is my authentic way of speaking. So I feel, like, really free…
(私の日本語訛りが効果的なのは、訛りが私をユニークにして目立たせてくれるものだからです。これが私の話し方なんです。本当の自分の話し方です。だから、とても自由に感じられるんです…)
このように、彼女を見ていると、「英語を通じて自分らしさを伝える上で、日本語訛りも大きな武器になるのでは?」と思えるようになる。
ネイティブのような発音を目指すことも悪くはないが、それ自体が目的になってしまうと、「英語を自分の人生の中でどう位置づけるのか」という本質を見失いかねない。
また、英語はツールに過ぎないという考え方もあるが、それならば音声の同時通訳機が進展すれば英語のスピーキング学習は不要になるだろう。しかし、機械では、その人の特徴や雰囲気、訛りも含めた話し方を完璧に再現することはできないはずだ。
社会の問題点や女性の生きづらさを語る
Yumiさんのコメディが新鮮かつオリジナリティにあふれている理由は、社会の問題点や女性の生きづらさをユニークに語りつつ、返す刀で北米における日本人女性への偏見を訴えていることだ。
日本のお笑いではあまり扱われない社会派ネタ、スタンドアップコメディの定番である人種ネタ、そして下ネタも真正面から扱っている。
Yumiさんのような人が日本からたくさん出てきて海外で活躍すれば、日本人への理解や認識がどれだけ深まることだろう、と筆者は思う。
だが、それには日本を飛び出す勇気がまず必要だろう。
彼女はインタビューで日本に対して、「ほとんど全ての人が同じような考え方をする。コンテナに閉じ込められて窒息しているように感じ始めていた」と明かしている。
ネットの声
「勇気を貰えるなぁ。訛りも含めて個性か!目から鱗が落ちる思い。
たまにアメリカ行くと、ちょっと差別というか意地悪を感じる時もある。日本なまりでも全然大丈夫だよと言ってくれる人と、わざと何度も聞き返してくる人といて、最初は私の英語が拙いから…と思っていたが(勿論それもあると思うけど)、後々あぁ舐められていたんだなと。日本女のステレオタイプは、過剰なくらい良い風に言われることもあれば、幼い扱いをされることも多い(私だけでなく、同僚もそうみたい)。やっぱり謎に笑っているというのは思われているんだな。気を付けようっと。」
「まさに最近私の感じていたことです。日本式英語で忌憚ない会話をしてゲストから大人気です。彼女が若くて美人というのもありますが、共通しそうな話題で切り出し会話をうまく成り立たせるコツが重要なように思えます。」
「アメリカのアニメ”Family Guy”をよく見ているが、驚くほど人種差別表現が自由だよ。例えば日本人女性は、黒髪・釣り目で常に意味不明に笑い声を出しているように描かれている。こんなところからもアメリカのポリコレ時代の終わりを感じるよな。」