コンビニ売上の1%しかない「雑誌コーナー」がしぶとく生き残っている理由
「このままでは5年後に、紙の雑誌は姿を消す」とプレジデント元編集長でイトモス研究所所長の小倉健一氏は不安を口にしています。
かつてコンビニの花形商品であった雑誌コーナーも、今では全売上の1%の超低空飛行を続けています。
誰も読まなくなった雑誌コーナーがそれでも存続する理由はどういったものでしょうか。
『週刊誌がなくなる日 「紙」が消える時代のダマされない情報術』を執筆した小倉氏が解明します。
目次
このままでは2027年、売り上げゼロ?
2021年の「出版物販売額の予測」(PDF版・日販)によれば、「雑誌(紙)」の販売額は、2006年比で58.6%減と壊滅的な推移を示している。
また、2015年に5960億円あった販売額は毎年500億円程度の売り上げ減を続けていて、最新データ2020年では3582億円となっている。
このままのペースで500億円ずつ売上が減っていくと「2027年には雑誌の売り上げがゼロ」になる計算だ。
私は、経済誌プレジデントの編集部に13年ほど在籍していて、最後の1年半は編集長をしていた。
プレジデントオンラインも、熱を入れて手伝っていたこともあったものの、基本的には紙の雑誌編集部に13年在籍していた。
その「紙」の雑誌の命運が、あと5年で尽きようとしている。
そんな強い危機感から、「週刊誌がなくなる日」という本を出版することになり、関係各所を猛烈に取材して書き上げたのだ。
取材の中で、一つ、愕然としたことがある。
コンビニの「雑誌コーナー」の売上は、コンビニ全体のわずか1%にしか満たないということだ。
雑誌コーナーといっても、週刊誌だけが置いてあるのではない。
少年ジャンプなどのコミック雑誌や成人漫画、そして、高価なステンレスボトル付きなどの雑誌本体よりも付加価値の高いような付録をつけた雑誌も含めた数字での「1%」なのだ。
雑誌コーナーといえば、かつて、コンビニの花形だった時代もあった。
日販のデータによれば、2002年は7%あった。
立派なコンビニの主力商品だったのだ。
雑誌コーナーのある場所は、どんどん店の奥に配置するようようになった店舗も増えてきたが、当時は、コンビニの外から確実に見える位置にあって、店外から立ち読み客で賑わう様子を伝えることでお客に安心して来店してもらうような狙いもあった。
このツイートを思い出した。コンビニにエロ本やグラビア雑誌があることで本当にナチュラルに「男は女を消費していいもの」「女は男に消費されてもしかたないもの」という常識(??????)の刷り込みされちゃうのよね。 https://t.co/pecLrl2kUe pic.twitter.com/nqX5viAAwt
— うー (@woo4xx) September 14, 2022
年間で7割の商品が入れ替わる
「コンビニは新商品を置く場所だ」と筆者に明かしたのは、「セブンイレブン」の最年少取締役を務めたことのある経営コンサルタントの本多利範氏だ。
コンビニは各消費財メーカーが真っ先に新商品を投入する場所で、好評な商品すらきめ細かいリニューアルを求められる。「年間で約7割の商品が入れ替わる」のだという。
その「新商品」という意味で、毎週発刊される週刊誌は「毎週リニューアルしている商品」という見立てもできた。
スーパーでも雑誌は置かれるようになったが、やはりコンビニの雑誌コーナーが充実していたのは、週刊誌がコンビニと相性がよかったためだ。
しかし、スマホを通した無料のオンラインニュースの興隆によって、週刊誌とコンビニの蜜月は雲散霧消していく。
2002年の7%をピークに、雑誌コーナーの売り上げは、年々下がり続けて、近年では1%程度で「低位安定」している。
ほとんどの雑誌は立ち読み防止のテープが貼られるようになっている。
ちなみに、同じぐらいの広さのある「タバココーナー」はコンビニ売上の25.8%を占めている。
雑誌コーナーは、コンビニにとって「お荷物」になってしまったのだろうか。
いくつかの出版社幹部に話を聞いても、コンビニでは雑誌実売率が低く、部数維持、ブランド維持のために、販売を行なっているが、利益もほとんど出ていないのだという。
ここでまったく逆の見方も存在していることも紹介しよう。
たった1%しか売上のない雑誌について、「むしろ、なんで雑誌コーナーが残っているコンビニがあるのかが不思議だ」というものだ。
コンビニが新しいサービスや商品を置くことに決めると、だいたい、雑誌コーナーは縮小撤退をされてしまっているものの、1%を維持してて、セブンイレブンを中心にコンビニから完全には排除されていないというのも事実だ。
それにはいくつかの理由があるとされている。
1つ目は、地方の書店の壊滅だ。CCCの調べによると、2021年11月時点で、全国で23%に当たる403の自治体が書店のない街になってしまっているという。
そこで登場するのが、コンビニの雑誌コーナーを拡充して、書籍も充実させるというものだ。
地方のコンビニは比較的店舗のスペースも大きい。
書籍を買う人は、平均年収が高いとされていて、コンビニに書店がなくなって行き場を失った人たちがくるのであれば、「美味しいビジネス」と言えるだろう。
2つ目は、コンビニで雑誌を買う人の併売頻度だろう。コンビニで飲み物やタバコを買うときに、「あ、これも買っておこう」と、「ついで買い」をするケースがある。
それが雑誌コーナーでは頻度が高いのだ。
特に成人雑誌を買うケースで、単独で購入しないケースは想定しうる。
ビジネスで地方のホテルに泊まる際に、雑誌と缶ビール、おつまみを買うということも想定しうるだろう。
3つ目は、オーナーたちの雑誌への理解だろう。
コンビニの発注は、オーナーたちの責任で行う。
高齢化が進むオーナーたちは、紙の雑誌のメインターゲット層でもある。
先に述べたように、雑誌コーナーが「新商品」に入れ替わり続けていることなど、数字には見えないものを期待して雑誌コーナーを残している可能性はある。
一昨日、コンビニで雑誌のところでマスクを外してる男がいたんだよね。
ずっとこっちを見てくるから気持ち悪くて思わず「キモイし、マスクしろよ」って言っちゃった。
店員なんにも言わないから腹立つ??隣にいたおばさんも平然とした顔で雑誌見てるし。なんなん?— ゆいな@フェレ厨 (@Yuina_ferret) September 17, 2022
レジ横にだけ並ぶ?
こういくつか理由を並べてみたが、やはり、これから雑誌コーナーがこのまま存続していくのかは非常に心もとないものだ。
1つ目の理由であげたものは、日本全体で考えると本を充実させる店舗数は限られている。
2つ目は出張族、成人雑誌を購買する層は、どんどんスマホに役目を奪われていく。
3つ目は、時間の問題でしかない。
では、今後想定しうるコンビニの未来図とはどんなものだろうか。
大手流通関係者は一つの可能性として「雑誌コーナーは、当然なくなるが、雑誌とコンビニの相性の良さは残し、例えば、少年ジャンプ、週刊現代など7媒体に絞って、毎日日替わりで、発売日だけレジ横に並べられるのではないだろうか」と筆者に明かした。
紙のメディアは本当に滅びてしまうのか。
中堅出版社の広告部長は明かす。
「雑誌の販売額も大事だが、もっと大事なのは、広告収入だ。クライアントによっては紙のメディアに何の広告価値も見出していない。特に40代以下が広告出稿の意思決定をしているのであれば、よほどのことがないかぎり、新商品の宣伝に紙メディアを使うことはない。
これまで広告出稿を続けてくれている紙メディアの良さをしっている企業をしっかり守っていくのが1番のミッション。紙の広告収入が減っていくのは疑いようもなく、その意味で、雑誌のオンラインニュース化、有料デジタル化は待ったなしの状態だ」
出版社がどうオンラインニュースを進めているかについての詳細は、本書「週刊誌がなくなる日」をお読みいただきたいが、いま、メディアという世界で生きる私たちは、出版史の大転換点に立っていることになる。
「毎号、めちゃくちゃ面白いし、本当に自分にとっての気づきのきっかけをくれるのだけど、この雑誌はオンライン化が遅れているなあ」というような雑誌を私はいくつも知っている。
中小出版社についていえば、雑誌のデジタル化について、予算というより知見を有する人材が不足しているように感じる。
こうした優良な雑誌文化が消えていくのは惜しい。
みなさんも、デジタル化の進んでいない雑誌の読者であれば、編集部にオンライン化を進めよと、ハッパをかけてほしい。このままでは、そんな雑誌は全て消える。
あまりコンビニ行かないんだけど、バイク雑誌って最近置いてないの?
コンビニ2件寄って売ってなかった??— ガレージFORMULA (@murao_naoto) September 17, 2022
ネットの声
「なんか色々書いてますけど全然違くて、なくならない理由として一番大きいのは
本自体の利益率は高く廃棄の概念がないためですよ。売上の1%しかないと書いてますけどコンビニ1店舗の平均年商は2億ぐらいなので年間で見ると200万円は売れてるわけですから決して少なくありません。売上の1%「も」占めているんです。
売れ残った本は返品するだけですから低リスクですしね。田舎のお店だと周辺に住んでいる人の割合として高齢者が多いので電子書籍のようなものを敬遠する人たちが多く、そのような地域のお店では平均以上に売り上げに貢献もしてくれます。
万引きが多いとやめたがるお店もありますけどごく少数です。」「もちろんスマホの普及も大きいけど、買う気ないのに棚の後ろにある綺麗な雑誌を取って立ち読みする人って結構いるんだよね。
コロナ禍からなのかその前からなのか分からないけど。
結局、綺麗な雑誌が棚からなくなって買う人がいなくなるってケースもあると思う。」「コンビニの雑誌コーナーの品揃えは、客層≒地域の住民層を知る手がかりにもなる。
パチンコ誌や成人漫画が多い地域、ビジネス誌が多い地域、主婦向けのファッション誌や生活情報誌が多い地域とでは、それぞれ雰囲気がかなり違うよね。」
週刊誌がなくなる日 – 「紙」が消える時代のダマされない情報術 小倉健一 (著) ワニブックス (2022/8/22) 990円
コンビニから雑誌コーナーがなくなり、都内の書店も減少傾向にある現在。
スマホで誰もがニュースや新聞を読める中、紙の週刊誌は消滅の危機にある。
電子書籍化、ウェブサイト化も進んでいるが、勝ち組・負け組の格差は広がるばかり。
メディア戦国時代をどう生き抜くか。
読者はどう効率的に情報を収集すべきか。
元『プレジデント』最年少編集長が解説するメディアの現在と未来。
内容より
第一章:メディアの最前線で何が起きているか
第二章:紙のメディアは5年で消える
第三章:儲かるメディア、死ぬメディア
第四章:デジタル化で起きる大問題
第五章:メディアを使い倒せば情報強者になれる
著者について
小倉健一
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立し、ITOMOS研究所を設立。現在、政治と経済を中心に「日本で最も読まれるウェブ記事」を配信中。講演依頼多数。
「急速に薄れつつある紙の雑誌への関心は、オンラインニュースの影響力拡大に取って代わられつつあります。
この本では、そんな現状を踏まえつつ、私たちはどうやってメディアと接するべきなのかを考えます。
最近の売上の減り具合で今後も推移を続けるなら、紙の雑誌は5年後には全滅することになります。
また、今の大多数の週刊誌のネタは、医療・相続などばかりなので、危機管理の観点からは読む必要がないという意見もごもっともです。
本書後半では、AI時代にさらに重要となる「読解力」の鍛え方についても述べられています。」
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