母という呪縛 娘という牢獄 齊藤彩 (著) 講談社 (2026/3/13) 825円

深夜3時42分。

母を殺した娘は、ツイッターに、
「モンスターを倒した。これで一安心だ。」
と投稿した。

18文字の投稿は、その意味するところを誰にも悟られないまま、放置されていた。

2018年3月10日、土曜日の昼下がり。

滋賀県、琵琶湖の南側の野洲川南流河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。

遺体は激しく腐敗して悪臭を放っており、多数のトンビが群がっているところを、通りかかった住民が目に止めたのである。

滋賀県警守山署が身元の特定にあたったが、遺体の損傷が激しく、捜査は難航した。

周辺の聞き込みを進めるうち、最近になってその姿が見えなくなっている女性がいることが判明し、家族とのDNA鑑定から、ようやく身元が判明した――。

髙崎妙子、58歳(仮名)。

遺体が発見された河川敷から徒歩数分の一軒家に暮らす女性だった。

夫とは20年以上前に別居し、長年にわたって31歳の娘・あかり(仮名)と二人暮らしだった。

さらに異様なことも判明した。

娘のあかりは幼少期から学業優秀で中高一貫の進学校に通っていたが、母・妙子に超難関の国立大医学部への進学を強要され、なんと9年にわたって浪人生活を送っていたのだ。

結局あかりは医学部には合格せず、看護学科に進学し、4月から看護師となっていた。

母・妙子の姿は1月ころから近隣のスーパーやクリーニング店でも目撃されなくなり、あかりは「母は別のところにいます」などと不審な供述をしていた。

6月5日、守山署はあかりを死体遺棄容疑で逮捕する。

その後、死体損壊、さらに殺人容疑で逮捕・起訴に踏み切った。

一審の大津地裁ではあくまで殺人を否認していたあかりだが、二審の大阪高裁に陳述書を提出し、一転して自らの犯行を認める。

母と娘――20代中盤まで、風呂にも一緒に入るほど濃密な関係だった二人の間に、何があったのか。

公判を取材しつづけた記者が、拘置所のあかりと面会を重ね、刑務所移送後も膨大な量の往復書簡を交わすことによって紡ぎだす真実の物語。

獄中であかりは、多くの「母」や同囚との対話を重ね、接見した父のひと言に心を奪われた。

そのことが、あかりに多くの気づきをもたらした。

一審で無表情のまま尋問を受けたあかりは、二審の被告人尋問で、こらえきれず大粒の涙をこぼした――。

殺人事件の背景にある母娘の相克に迫った第一級のノンフィクション。

齊藤彩
1995年東京生まれ。2018年3月北海道大学理学部地球惑星科学科卒業後、共同通信社入社。新潟支局を経て、大阪支社編集局社会部で司法担当記者。2021年末退職。本書がはじめての著作となる。

「母親自身も、娘を医者にすれば母(当事者の祖母)に愛されるはず、という望みが狂気になったのだと思う。高卒の自分だから捨てられた(アメリカに連れていってもらえなかった)訳では無いのに、それがコンプレックスだと気付かず娘に投影してしまったのかな、と感じる。本当に地獄だった。当事者は悪くない。罪悪感など持たず、自分の人生を生きて欲しい。」

「事件が明るみになった後の、お父さんの言動に心打たれました。血が繋がっているだけで何の興味もなかった父なのに、加害者もきっと救われたと思います。
同じ立場でなくても、私自身も周りに感謝を忘れてはいけないなと思いました。」

「胸がえぐられるような気持ちになりました。

「子どものため」という正義の名のもとで、母が壊れていき、娘も逃げ道を失っていく――その地獄が他人事に思えませんでした。

私も中学受験を控える娘に、焦りや不安から叱ってしまうことがあります。
でも、もしそれが子どもの心を追い込む一歩になっていたらと思うと、ぞっとします。

加害者の少女に発達特性がなければ、どこかで助けを求められたのかもしれない。
そして被害者の母親自身がアメリカに渡った母との関係が断たれてしまった過去。
そこがすべての始まりであり、本人も気づかぬうちに埋まらない喪失感が連鎖し、狂気にも似た母性の形となってしまったように思います。

この本を読んで、私は叱ることをやめました。
「伸ばす」よりも「守ること」。
母である前に、ひとりの大人として、娘の居場所でありたい。
同じ轍を踏まないために。
そして、娘の未来が私の期待や不安に縛られないものであるように。」

母という呪縛 娘という牢獄

母という呪縛 娘という牢獄
齊藤彩 (著) 講談社 (2026/3/13) 825円
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