おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想 ロジーナ・ハリソン (著), 新井潤美 (監修), 新井雅代 (翻訳) 白水社 (2025/1/6) 2,090円

アスター子爵夫人は社交界の花形で英国初の女性下院議員、おまけにエキセントリック!

型破りな貴婦人に仕えた型破りなメイドの、笑いと涙の35年間。

「お持ちの装身具のなかでもとくに貴重な品は、どれも実際に身につけようとすると高くつきました。銀行から持ちだされた瞬間から銀行に戻されるまでのあいだ、余分に保険料がかかるからです。もっとも奥様はそんなことはどこ吹く風。高価な装身具をつけるのが大好きで、わたしの好みから言うと、たくさんつけすぎることもしょっちゅうでした。くるりと向き直って「どうかしら、ローズ?」とおっしゃる奥様に、わたしは「おや、それっぽっちでよろしいんですか、奥様?」と応じ、毎度おなじみの「おだまり、ローズ! 」のひとことをちょうだいしたものです。」(本文より)

著者は1899年生まれ。庶民の若い女性の常で、学校を卒業後はメイド奉公に出ることになるが、当時の庶民には不可能ともいえる、旅行がしてみたいという夢をいだいていた。

娘の賢さを知る母親は、メイドとしては格上の「お屋敷の女主人付きメイド」になれば、お供をして旅行ができると教える。

ローズは「女主人付き」の下位ポストである「令嬢付き」メイドとしてキャリアをスタートし、キャリアアップの結果アスター家へやってくる。

ナンシー・アスター(夫はアメリカの大富豪アスター一族出身でプリマス市長)は才色兼備な社交界の花形。

イギリス初の女性下院議員になり、内外の王族・文人・政治家と交流が深い一方、エキセントリックな性格でメイドが居つかない女主人であった。

ローズは雇用主にも臆せず物を言う性格を気に入られ、子爵夫人が亡くなるまで35年間も生活を共にする。

そして、雇い主と使用人を超えた特別な信頼関係のなか、第二次大戦中の大空襲や政界を揺るがしたソ連のスパイ事件など、お屋敷のピンチを切り抜けていく。

映画のようにドラマチックで、笑いと感動が満載。イギリスの使用人もの回想録の決定版、ついに邦訳!

▼目次
アスター家の使用人 1928
はじめに
1 子供時代
2 いざお屋敷奉公に
3 アスター家との出会い
4 レディ・アスターとわたしの仕事
5 わたしが仕事になじむまで
6 おもてなしは盛大に
7 アスター家の人々
8 戦時中の一家族
9 叶えられた念願
10 宗教と政治
11 最後の数年間
解説 カントリー・ハウスの盛衰が生んだドラマ 新井潤美
訳者あとがき

著者について
1899年イギリス、ヨークシャーに、石工の父と洗濯メイドの母の長女として生まれる。1918年、18歳でお屋敷の令嬢付きメイドとしてキャリアをスタート、1928年にアスター子爵家の令嬢付きメイドとなり、同年、子爵夫人ナンシー・アスター付きメイドに昇格する。以後35年にわたってアスター家に仕えた。1975年に本書、76年に『わたしはこうして執事になった』を刊行、1989年没。

東京大学大学院比較文学比較文化専攻博士号取得(学術博士)。東京大学大学院人文社会系研究科教授。
主要著訳書:『執事とメイドの裏表―イギリス文化における使用人のイメージ』、『ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級』(以上、白水社)、『英語の階級 執事は「上流の英語」を話すのか? 』(講談社選書メチエ)、『不機嫌なメアリー・ポピンズ イギリス小説と映画から読む「階級」』(平凡社新書)、『パブリック・スクール―イギリス的紳士・淑女のつくられかた』(岩波新書)、他に、『わたしはこうして執事になった』(白水社)を監修。

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。主要訳書:ロバート・ウーリー『オークションこそわが人生』、ポール・カートリッジ『古代ギリシア 11の都市が語る歴史』、ロジーナ・ハリソン『わたしはこうして執事になった』(以上、白水社)

「イギリスの貴族であるアスター家に仕えたハウス・メイド、ロジーナ・ハリソンの回想録。ロジーナの感受性の豊かさに驚かされる。

もちろん子爵婦人との丁々発止のやりとりや当時の上流社会の雰囲気がしれて面白いのだけれど私が一番惹かれたのはロジーナ自身の幼少期の描写。
母親が洗濯婦であり、母親自身もロジーナも厳しい環境にあったことが容易に想像されるのだけれどとにかく描写が温かい。「アイロンがけがすむとすべての衣類を火の回りにつるして風を通します。そして最後に薄紙で丁寧に包み、洗濯かごに入れたら出来上がり。ふたが閉められる前にかごの中のにおいをかいだのは子供時代の美しい思い出の一つです。」母親の仕事に誇りを持ち、暖かな思い出として持ち続ける。その感受性の豊かさと芯の強さに心ひかれた。

ロジーナは「つかえた」という言葉を頻繁に使っているけど、幸運だったのはこういう人に「つかえてもらった」人だと思う。」

「人生で望むことは外国へ旅に行くこと。労働階級の娘には普通なら手の届かぬ夢。だが、お母さんは「それなら、ひとつ考えてみなきゃね」と言った。貴婦人のお付きのメイドになれば奥様の旅行に同行する機会があるかもしれない。だが、お付きのメイドになるには能力と教養が必要。台所メイドなら字が読めなくてもいいが彼女はもう少し長く学校に通わねばならない。贅沢な事だが、お母さんは洗濯をして稼いだ金で娘に裁縫とフランス語を習わせる。下級メイドから出世するのは無理。奥様のお付きになるには最初からお付きメイドとして就職しなければならない。使用人にも越えられない階級があるのだ。」

「英国貴族の子爵夫人付きメイドとはいかなるものかという事以外にも、雇われてはいても人としては平等だというしっかりしたプライドと頭の良さを持つ筆者と、行動的で感情的な雇い主の夫人とのやりとりも面白いです。どちらも魅力ある性格なので、興味が持てます。
最後はドライビングミスデイジーなどにあるような、ハッピーエンドといえるのかもしれないけれど寂寥感が残る感じです。」


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