気象庁が40度超の新名称を公募、13候補に注目集まる

聞いただけで、もう夏が来るのが憂鬱になる。

「炎暑日」「劇暑日」「激暑日」「厳暑日」「酷暑日」「極暑日」――これらは気象庁が新たに定めようとしている、気温40度以上の日を示す名称の候補です。

かつて35度を超える日が「猛暑日」として新設されたとき、それでもまだ私たちは「夏らしい夏」を想像できた気がします。

しかし今や40度超えは珍しくもなく、むしろ毎夏の「お馴染み」になりつつあります。

名前がないほど異常だった気温に、ついに公式な名称がつけられようとしています。

この動きは単なる言葉遊びではなく、深刻化する気候変動への行政としての「危機認識」の表明でもあります。

今回は、気象庁が進める「40度以上の日の新名称」制定をめぐる動き、その背景にある日本の気候の変容、そして私たちの生活や言語文化への影響を、多角的に掘り下げていきます。

炎天下の日本の街並みと強烈な日差し
記録的な猛暑が続く日本の夏。40度超えはもはや珍しくない現象となっています。

気象庁の「夏日区分」はどう変わってきたか

気象庁がこれまで使ってきた気温に関する予報用語は、段階的に整備されてきました。

現在、最高気温が25度以上の日を「夏日」、30度以上の日を「真夏日」、35度以上の日を「猛暑日」と定め、天気予報などで使用しています。

「猛暑日」という区分が新設されたのは2007年のことです。

当時、ヒートアイランド現象などにより30度を超える真夏日が急増したため、より高い警戒を促すために35度以上という新区分を設ける必要が生じました。

あれから約20年。

日本の夏はさらに深刻な様相を帯びてきました。

40度超えが「毎年恒例」になった現実

気象庁によると、最高気温が40度以上となる日は2018年以降、毎年観測されています。

2025年の夏には、全国で40度以上を観測した地点が延べ30地点に上り、観測史上最多を更新しました。

同年8月5日には、群馬県伊勢崎市で国内歴代最高気温となる41.8度を観測しています。

また、2025年6月から8月の国内平均気温は平年より2.36度高く、これも過去最高を記録しました。

3年連続で夏に顕著な高温が記録されており、40度超えはもはや「異常値」ではなく「常態」になりつつあると言えます。

こうした状況を受け、気象庁はついに40度以上の日に新たな名称を設けることを決定しました。


気温区分の上限が次々と更新されています。

「猛暑日」では伝えきれない危険

「猛暑日」という言葉は、制定当初こそ強いインパクトを持っていました。

しかし40度という、命に直接危険を及ぼしかねない気温に対して、同じ「猛暑日」という言葉では十分な注意喚起ができないとの声が専門家の間でも高まっていました。

実際、総務省消防庁の統計では、熱中症による救急搬送数は年々増加傾向にあり、40度超えの日が集中する時期に件数が急増する傾向があります。

新たな区分と名称を設けることで、国民が「今日は猛暑日よりも危険な日だ」と直感的に理解できるよう促すことが、今回の取り組みの核心にあります。

気象庁の担当者は、「国民の実感に即した用語を選びたい。新名称を導入することによって危険な暑さへの注意を促し、地球温暖化についても意識してもらいたい」と述べています。

13の候補名称とアンケートの仕組み

気象庁は2026年2月27日、40度以上の日の名称を一般市民から公募するためのアンケートを開始しました。

アンケートの実施期間は3月29日までで、結果と有識者・日本語専門家へのヒアリングを踏まえ、5月末までに名称を決定する予定です。

決定した名称は2026年の夏から予報用語として運用が始まります。

13候補の全リスト

候補として挙げられた13の名称は以下の通りです。

  • 炎暑日(えんしょび)
  • 劇暑日(げきしょび)
  • 激暑日(げきしょび)
  • 厳暑日(げんしょび)
  • 酷暑日(こくしょび)
  • 極暑日(ごくしょび)
  • 甚暑日(じんしょび)
  • 盛暑日(せいしょび)
  • 大暑日(たいしょび)
  • 熱暑日(ねっしょび)
  • 繁暑日(はんしょび)
  • 烈暑日(れっしょび)
  • 超猛暑日(ちょうもうしょび)

これらの候補は、各種国語辞典を参考に、気象や日本語の専門家の意見を踏まえて選出されました。

また、アンケートでは13候補以外の名称を自由記述で提案することも可能です。

注目候補「酷暑日」の先行事例

候補の中でも特に注目されているのが「酷暑日」です。

実は「酷暑日」は気象庁が初めて使う言葉ではありません。

一般財団法人日本気象協会は2022年、近年の極端な暑さに対応するため、最高気温40度以上の日を独自に「酷暑日」と命名していました。

日本気象協会が所属気象予報士130名を対象に行ったアンケートでも、「酷暑日」が最多得票を獲得しています。

「猛暑日との語呂のつながりが良い」「なじみやすい」という理由が主な支持理由でした。

民間気象機関がすでに使用してきた実績があることから、「酷暑日」は今回の気象庁の公式アンケートでも有力候補と見られています。

SNSや街頭でも関心の高まり

今回の名称公募は、SNS上でも広く話題になっています。

「『猛暑』よりも怖い感じがする言葉にしてほしい」「13の候補より、もっと危機感が伝わる言葉がいい」といった声も多く、候補にない「灼熱日」「絶暑日」「危暑日」などを推す意見も寄せられています。

また、単なる名称変更にとどまらず、40度を超える日には屋外活動の原則禁止など、より踏み込んだ行動指針の新設を期待する声も少なくありません。

名称が持つ言葉の力は、単に気温を示すだけでなく、人々の行動変容を促す「社会的なシグナル」としての役割を果たすことが期待されています。

気候変動と日本語の変容――言葉が現実に追いつかない時代

今回の「40度以上の日の新名称」問題は、気象用語にとどまらず、私たちの日常言語や季節感にまで影響を及ぼし始めています。

俳句の世界を例に挙げると、歳時記に記されている「残暑」は、立秋(8月7日頃)を過ぎた後の暑さを指します。

しかし近年、体感的な「残暑」は10月頃まで続くこともあります。

歌人や俳人たちは、日本語の伝統的な季節表現と、現実の気候との乖離に苦慮し始めています。

「気候変動」という言葉も揺らいでいる

さらに根本的な問いとして、「気候変動(Climate Change)」という用語自体も、その意味合いが問われるようになってきました。

「変動」という言葉には、揺れ動いている、つまり元に戻る可能性があるというニュアンスが含まれています。

しかし現在の状況は、単なる「変動」ではなく「恒常的な変容」に近い段階に入りつつあるとの見方も強まっています。

欧米の研究機関や国際機関の中には、「気候危機(Climate Crisis)」あるいは「気候緊急事態(Climate Emergency)」という表現への移行を推奨する動きもあります。

言葉が現実を正確に反映できなくなるとき、社会はその言葉を変えるか、あるいは現実をあらためて見つめ直す必要があります。

俳句・文学の世界と気候変動

俳句の世界では、「摂氏四十度」を詠み込んだ句が近年散見されるようになっています。

「生きねばならず摂氏四十度の残暑」(谷ゆう子句集『呵呵』ふらんす堂)という句は、40度超えの残暑を「生存への意志」と結びつけた作品として注目を集めました。

伝統的な季語や気候表現が現実から乖離してゆく中で、文学者たちは新たな表現を模索しています。

「炎残暑」「劇残暑」といった造語が生まれる日も、そう遠くないかもしれません。

2026年夏も記録的猛暑の予兆

新名称が導入される予定の2026年夏についても、気象庁の暖候期予報はすでに厳しい内容となっています。

地球温暖化の進行に加え、太平洋高気圧の張り出しが強まる影響で、全国的に気温が平年より高くなる見通しです。

新名称がお披露目される最初の夏が、その言葉の「必要性」を改めて突きつける夏になるかもしれません。

名前をつけることの意味

気象庁による「40度以上の日の新名称」制定は、単なる気象用語の追加にとどまりません。

それは、日本の気候が新たなフェーズに入ったことを、行政として公式に認めるという宣言でもあります。

「炎暑日」「酷暑日」「超猛暑日」――どの名称が選ばれるにせよ、その言葉を聞いたとき、私たちは今より一段高い警戒心を持って行動することが求められます。

熱中症は「知識」と「行動」があれば防げる部分が多い。

新しい言葉が生まれることで、その「知識」と「行動」の起点となることを願います。

13候補の名称から、あなたはどれが最もふさわしいと思いますか。

気象庁のアンケートは2026年3月29日まで受け付けています。

ぜひ声を届けてみてください。

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