フィンランド虚像の森 ペッカ・ユンッティ (著), アンナ・ルオホネン (著), イェンニ・ライナ (著), 田中淳夫 (監修), & 2 その他 新泉社 (2022/8/24) 3,520円

森と湖の国・フィンランドは世界有数の林業国家。日本からもフィンランド林業に憧れて留学する人が後を絶たない。

フィンランドで林業を語る際、林業関係者、行政担当者、一般市民までもがよく口にするフレーズがある。

それは、「フィンランドでは、1年間に樹木が成長する量を計算し、その成長量を超える伐採はしないよう厳格に規定されているので、森林資源が枯渇することはない」。

だから持続可能な林業を推進していると言われるのだが、その実態は、無謀な排水事業による植林とその後の皆伐、そして一斉造林を繰り返す大規模な林業である。

実は、この森林施業が機能しているのは南フィンランドだけで、北部のラップランドでは、皆伐後、一斉造林をして四半世紀が経つにもかかわらず、木が全く生えてこない荒れ地がひろがる。

本書はそんなフィンランドの森と林業の実態について告発した本である。確かに本書に掲載された写真からは、森と湖の美しいフィンランドは実感できない。

荒れ地に数本だけ立つ細いアカマツや湖に流れ込んだ泥炭、100ヘクタールを超える皆伐地など、絶望的な森の姿ばかりである。

また本書では、皆伐と一斉造林を繰り返すフィンランド林業の形が生まれたのは、ロシア(ソ連)との冬戦争に負けたためだと説明されている。

つまり賠償金を支払うために、森の木を伐ってお金にしたというのだ。

ところが近年、こうした大規模なフィンランド林業の在り方に疑問を持つ人々が出てきた。

本書を執筆したジャーナリストも疑問を持つ者たちである。

彼らは、森林学の研究家、林業家、森林所有者、環境問題の活動家、ハンター、ラップランドの原住民であるサーミの人びとなど、森に関わる多くの人たちにインタビューして、フィンランドの森の現状を世に知らしめようと試みたのである。

2019年5月の発売後、ノンフィクションとしてはフィンランドでは異例の売れ行きで重版となった本書は、2019年のフィンランディア文学賞ノンフィクション部門を受賞した。

まさに、フィンランドの不都合な森と林業の真実について告発した一冊である。

「恥ずかしながら先住民サーミの存在を本書で初めて知りました。世界で最も最年少の女性首相がどのようなかじ取りをするか気になるところです。」

「森林所有や林業関係者たちの「経済」的な部分も配慮しながら、持続的な森林維持へのアイデアが提出されているし、研究や実践も構築されつつある。もちろん、まだ先は険しいようだが、光明も見えてきている。」

「フィンランドといえば、サンタクロースにサウナ、北欧デザインなど、ポジティブで楽しいイメージが先行する。しかし、本書籍はフィンランドの「森」を舞台に同国の林業をとりまく現代社会が抱える課題にスポットを当て、フィンランドを違った切り口で読み解く。フィンランド語を原語に、まるでドキュメンタリー動画を見ているかの流れるような邦訳にも注目してほしい。」


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