日本人が知らない「スーホの白い馬」の真実 ミンガド・ボラグ (著) 扶桑社 (2021/4/29)

モンゴル人が知らない“モンゴルの民話”が長年、日本人に親しまれてきたことはモンゴル人の私にとって驚きである。
楊海英(静岡大学教授)

◎スマホで再生できるモンゴルの伝統楽器“馬頭琴”の演奏データ付き!

社会主義イデオロギーのもとで量産された階級闘争的な「革命物語」はいかにして日本に浸透したのか。

2016年刊『スーホの白い馬の真実 ─モンゴル・中国・日本それぞれの姿』(風響社/第41回日本児童文学学会奨励賞を受賞)の加筆・新書化企画。

民話「スーホの白い馬」は、小学生の国語の時間(光村図書出版・小学校国語教科書「こくご」二・下1965年度版 初掲載)、あるいは、絵本『スーホの白い馬』(福音館書店1967年初版2016年10月発行)により、日本では子どもから大人まで広く知られている、モンゴルの少年と白い馬の伝説である。

少年が可愛がっていた馬が王様に殺され、その馬の骨で作ったという馬頭琴という楽器の物語を読み、遠い国に思いを馳せる子供たちはいまも多い。

ところが昨今、日本と関わる機会が増えたモンゴル人たちが気づいたところによると、「これはモンゴルの民話ではない」という。

内モンゴル出身の著者は、丹念にこの日本語訳者や出版社に取材し、物語が出来上がった経緯とともに中国のつくり話であったことを解明していく。

折しも2020年6月、中国政府が突然、秋の新学期から学校におけるモンゴル語教育を停止するという文書を自治区に届けたことで、モンゴル人による抗議活動が全世界に拡散している。

民族固有の言語や文化を封じる同化政策はこれまでチベット、ウイグルなどに対し行ってきたことと同様である。

昨今、日本にまで影響を及ぼす黄砂も、遊牧による内蒙古の著しい砂漠化が理由とされるが、実際にはすでに遊牧は禁止され、国家規模の「西部開発」による自然破壊のせいであると著者は指摘する。

「スーホの白い馬」は国際理解の題材としてもよく使われるので、「背後にある状況を正しく理解し、発信されることがモンゴル人の願いである」と著者はいう。

日本で長く親しまれてきた民話を通して、馬を愛するモンゴル人の文化、ひいては中国の民族弾圧政策、プロパガンダ工作の歴史を解説する。

「この新書版が不幸なのは、主題になっている「スーホの白い馬」が昭和43年度の産経児童出版文化賞受賞作だという点だ。腰帯にある「社会主義イデオロギーのもとで量産された階級闘争的な『革命物語』はいかにして日本に浸透したのか?」というのは、フジサンケイグループには責任がないのだろうか?「凍土の共和国」で産経の記者が訪朝団にいたと言及されていて、「帰還船」に産経の記者の訪朝記が引用されている「北朝鮮の記録」があるにも関わらず、産経や正論が「朝日新聞が北朝鮮を『地上の楽園』だと嘘を言って帰国運動の旗振りをした!」と朝日新聞に責任を押しつける「歴史戦」を書いているのを連想した。
産経や正論は昭和30年にNHKが放送した「緑なき島」が「軍艦島の実情と違う光景を捏造して、韓国で『韓国人の強制連行』を描き出すのを手助けした」と糾弾しているが、NHKに「緑なき島」の製作について公開しろ!と主張するなら、その前に昭和43年に産経児童出版文化賞を「階級闘争的な『革命物語』」に受賞した経緯を説明して、この本に収録すべきだ。無責任にもほどがあるというものだ。」


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