売り手市場の今、企業が本当に求める人材とは

来春に卒業を予定する就活生のうち、2月1日時点で4割超が内定を得ていたといいます。

それが3月1日時点では5割超にまで増加しており、就職活動の早期化が一段と加速していることが見てとれます。

リクルート就職みらい研究所の調査によれば、2025年卒の3月1日時点の内定率は40.3%と、前年から10.0ポイント増加しました。

学生が圧倒的に有利な「売り手市場」の中で、企業はどんな人材を確保すべきなのでしょうか。

学生側も、内定を「ゴール」と捉えるのではなく、自分なりの選択基準を持っているかどうかが問われます。

採用の現場では、企業と学生の双方が変化への対応力を試されている時代と言えるでしょう。

売り手市場が加速する新卒採用の現場

内定率の急上昇が示すもの

リクルート就職みらい研究所の「就職プロセス調査」によると、2025年卒の3月1日時点での就職内定率は40.3%でした。

現行の就活スケジュール(3月に採用広報解禁・6月に選考解禁)が始まった2017年卒の時点では、3月1日時点の内定率はわずか4.6%だったといいます。

約10年で約9倍にまで跳ね上がったこの数字は、就活の実態がルール上のスケジュールとかけ離れていることを如実に示しています。

企業側の動きも早く、ダイヤモンド・ヒューマンリソースの調査では、2026年卒採用において2月までに選考を開始した企業が62.6%に達し、内定出しを始めた企業も約半数に迫りました。

「3月広報解禁・6月選考解禁」という政府の要請は、現場ではほぼ形骸化しているのが現状です。

学生優位でも「楽」ではない現実

売り手市場と聞けば、学生にとって楽な就活をイメージしがちかもしれません。

しかし現実は、必ずしもそうとは言い切れません。

株式会社ディスコの調査では、「希望する企業から内定をもらえるか」という不安を抱える学生が76.0%に上っており、量より質の不安が就活生を苦しめています。

また、内定を複数持つ学生に内定が集中する傾向も顕著で、2025年卒の3月時点で内定取得企業数が2社以上と答えた学生は48.2%と、前年の35.8%から大きく増えました。

内定が特定の学生に偏る一方、なかなか内定が取れない学生も一定数存在するという「部分売り手市場」の構造が、就活の実態をより複雑にしています。

「課題を考え出す社員」を求める時代

城山三郎が40年前に見抜いていたこと

売り手市場の中で、企業が本当に確保すべき人材とは何でしょうか。

その答えを示す一節が、作家・城山三郎の小説『勇者は語らず』に残されています。

「企業の課題を一〇〇パーセント遂行する社員よりも、課題そのものを考え出してくれる社員を十人中七人持たないと、会社は危なくなる」という言葉です。

40年以上前に書かれた言葉ですが、今の時代にこそ鋭く刺さります。

AIの台頭、グローバル競争の激化、産業構造の急速な変化という激動期において、与えられた課題を忠実にこなすだけの人材では企業の生き残りは難しいでしょう。

変化の兆しに気づき、まだ誰も言語化していない課題を見通す力こそが、今もっとも求められる資質と言えます。

「変化への対応力」が問われる理由

現在の日本企業が直面する課題は、かつてないほど多様で複雑です。

少子高齢化による労働力不足、DXへの対応、カーボンニュートラルへの移行、そして地政学リスクの高まりなど、経営環境の変化は止まりません。

こうした環境下では、マニュアル通りに動くだけでは新たな問題が見えてきません。

変化に先んじて課題を発見し、自ら解決策を提案できる人材こそが、組織の競争力を左右します。

採用の現場でも、その意識は確実に変わりつつあります。

従来の「既存業務を遂行できるか」という視点から、「変化の中で自ら考え動けるか」という視点へと、採用基準のシフトが各企業で起きています。

「自分を動物に例えると?」面接質問に見る採用の変遷

40年前の「珍問」が持っていた意図

40年余り前の採用面接で、「自分を動物に例えると何か」と問われた学生がいました。

翌日、仲間と質問の意図を考えあった末にたどり着いた答えは、「予期せぬ事態にも臨機応変に対応できる能力を試しているのだろう」というものでした。

当時その質問は、学生にとって完全な想定外だったからこそ、その場の対応力や思考のしなやかさを測るものとして機能していました。

ところが今は、この質問と回答例が就活生向けの面接指南本に掲載されて久しいです。

「ライオンです。リーダーシップがあるからです」「チーターです。行動が速いからです」といった「正解例」が出回り、多くの就活生がそれを暗記して面接に臨みます。

かくして、予期せぬ事態を演出するはずの質問は、その効力を完全に失ってしまいました。

「使い古しの質問」が生むミスマッチ

問題は、その事実に気づかないまま同じ質問を使い続ける面接官が一定数存在することです。

対策本の答えをそのまま返してくる学生を見て、「この学生は想定外の質問にもしっかり答えられる」と誤解してしまえば、採用の判断を誤ることになります。

就活生の側からすれば、「なぜ今さらこの質問を?」とあきれる場面も少なくないでしょう。

変化への対応力を問うはずの面接が、変化に対応できていない企業の姿を露わにする——皮肉な状況です。

採用面接のあり方そのものが、企業の「変化対応力」を測る物差しになりつつあります。

学生が企業を選ぶ基準として「変化に柔軟に対応しているか」を重視する傾向が強まる中、時代遅れの面接手法はむしろ企業の評価を下げるリスクをはらんでいます。

企業も学生も「変化への対応力」が問われている

売り手市場が続く中、採用の主導権は確かに学生側に移りつつあります。

しかし、それは企業が「人材の質」への追求をやめる理由にはなりません。

城山三郎が描いた「課題を考え出す人材」の重要性は、時代が激しく動く今こそ増しています。

一方、学生もまた「内定を取ること」を目的化してしまうと、入社後のミスマッチにつながりかねません。

変化への対応力は、採用する企業が学生に求めるものであると同時に、学生が企業を選ぶ際の判断基準にもなっています。

採用面接の場は、互いの「変化への対応力」を試し合う双方向の場として、改めてその意義が問われているのです。

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