
2000年代、日本のストリートバイクシーンを席巻した「トラッカーブーム」。
その熱気の中で生まれたHONDA APE(エイプ)シリーズは、若者たちの自由な翼として爆発的な人気を博しました。
中でも2002年に登場した「APE100」は、50ccのコンパクトな車体に余裕のあるエンジンを搭載し、二人乗りも可能な「原付二種」として、遊びのフィールドを大きく広げたモデルです。
そのAPE100シリーズにおいて、ワンランク上の質感と特別なカラーリングを与えられたモデルが存在します。
それが今回ご紹介する「HONDA APE100 Deluxe(デラックス)」です。
APE100 Deluxeは、スタンダードモデルをベースにしつつ、所有感を満たす専用装備が施された上級グレードとしてラインナップされました。
発売当初から、シンプルさが売りだったAPEに対し、「もう少し大人の質感が欲しい」「最初からカッコいいカラーに乗りたい」というユーザーのニーズに応える形で登場。
スタンダードモデルとの最大の違いは、車体各部に施された美しい仕上げにあります。
燃料タンクやサイドカバーには、Deluxe専用のグラフィックやピンストライプが採用され、クラシカルかつスポーティな雰囲気を演出。
さらに、ハンドルバーやトップブリッジ、クランクケースカバーなどにバフ掛けや特殊な塗装処理が施されるなど、細部のディテールアップが図られています。
心臓部には、信頼と実績の空冷4ストロークOHC単気筒エンジン、通称「縦型エンジン」を搭載。
50cc版とは異なり、この100ccエンジンは驚くほど粘り強く、街中の交通の流れをリードするのに十分なパワーを発揮します。
2008年頃には排出ガス規制への対応と同時に、前後ディスクブレーキを採用した「Type D」も登場しましたが、ドラムブレーキ仕様のクラシカルなDeluxeも根強い人気を誇りました。
2016年の生産終了から時間が経過した現在、APE100 Deluxeの中古車相場は上昇の一途をたどっています。
「遊べる、直せる、どこへでも行ける」という4miniの魅力に加え、絶版車としての希少価値も加わり、まさに今が手に入れるラストチャンスと言えるかもしれません。
今回は、そんなAPE100 Deluxeの魅力を、スペックやインプレッションを交えて徹底的に解説していきます。
Table of Contents
所有欲を満たす特別仕様!APE100 Deluxeはどんなバイク?
APE100 Deluxeは、基本構造こそスタンダードのAPE100と同じですが、その佇まいは明らかに「別物」のオーラを放っています。
まず目を引くのは、そのカラーリングの妙です。
歴代のモデルを通じて、ブラックやホワイト、レッドといった定番色に、ゴールドのストライプや専用のウイングマークがあしらわれ、往年の名車CBシリーズを彷彿とさせるデザインが多く採用されました。
特に、クロームメッキ仕上げのヘッドライトケースや、バフ仕上げのトップブリッジなどは、ライダーが乗車中に常に視界に入る部分であるため、所有する喜びを直に感じさせてくれます。
車体構成は、極めてシンプルかつ合理的です。
フレームには、エンジンそのものを強度メンバーとして利用するダイヤモンドフレームを採用。
これにより、軽量化と剛性確保を両立させ、ひらひらと舞うような軽快なハンドリングを実現しています。
足回りには、前後12インチのブロックパターンタイヤ(年式や仕様によりロードタイヤ)を装着。
この太いタイヤがAPEのアイデンティティであり、可愛らしさと頼もしさを同居させています。
サスペンションは、フロントにテレスコピックフォーク、リアにはスイングアーム式のモノショックを装備。
特にリアのモノサスは、路面追従性が高く、スポーツライディングの基礎を学ぶのにも最適なセッティングとなっています。
そして最大の特徴であるエンジン。
CB50やXE50といった名車から受け継がれる空冷4ストロークOHC2バルブ単気筒エンジン(HC07E型)は、耐久性の塊のようなエンジンです。
最高出力は6.3PS(一部年式により異なる)と、数値だけ見れば控えめです。
しかし、低回転から湧き上がるトルクと、フラットな出力特性により、数値以上の力強さを体感できます。
また、このエンジンはカスタムの素材としても超一級品です。
吸排気系の交換はもちろん、ボアアップキットやハイカムシャフトなど、アフターパーツメーカーから無数のパーツがリリースされています。
「ノーマルでトコトコ走るもよし、カリカリにチューンしてサーキットを目指すもよし」。
APE100 Deluxeは、オーナーの好みに合わせて変幻自在に姿を変えることができる、真っ白なキャンバスのようなバイクなのです。
また、100ccモデルならではの特徴として、ダブルシートとタンデムステップが標準装備されています。
大切な人を後ろに乗せて、近所のカフェまでプチツーリング。
そんな使い方ができるのも、原付一種(50cc)にはない大きなアドバンテージと言えるでしょう。
APE100 Deluxeのインプレッション~余裕の走りと儀式の楽しさ~
APE100 Deluxeに跨り、まず行うのがエンジンの始動です。
このバイクにはセルモーターが付いていません。
キックペダルを踏み下ろしてエンジンを目覚めさせる、この一連の動作こそが、APEに乗るための「儀式」であり、楽しみの一つです。
100ccとはいえ、単気筒エンジンの圧縮はそこそこありますが、コツさえ掴めば軽い力で始動可能です。
「トトトトッ」という乾いた排気音と共に、車体が小気味よく振動し始めます。
走り出しのクラッチミートは非常にイージーです。
50ccのAPEに比べて低速トルクが太いため、エンストの心配はほとんどありません。
アクセルを少し開ければ、グイッと車体が前に押し出され、力強い加速を見せます。
一般道での法定速度60km/hまでの到達時間は、交通の流れをリードするのに十分な速さを持っています。
5速ミッションを駆使して、パワーバンドをキープしながら走る感覚は、まさに「操る歓び」そのもの。
特に3速、4速あたりでの伸びやかな加速感は、縦型エンジンならではの気持ちよさがあります。
ハンドリングは、12インチタイヤ特有のクイックさと安定感が同居しています。
交差点やタイトなコーナーでは、視線を向けただけでスッと曲がっていく素直さがあり、初心者でも恐怖感なくバンクさせることができます。
一方で、ホイールベースが短いため、路面のギャップなどは拾いやすい傾向にありますが、厚めのシートが衝撃を吸収してくれるため、不快な突き上げはそれほど感じません。
ツーリング性能に関しては、「意外といける」というのが正直な感想です。
もちろん、大型バイクのような快適なクルージングは望めませんが、自分のペースで景色を楽しみながら走る分には、最高の相棒となります。
特にDeluxeモデルの場合、休憩中に愛車を眺める時間が至福のひとときとなります。
光の当たり方で輝きを変えるタンクや、メッキパーツの煌めきは、所有者だけが味わえる特権です。
欠点を挙げるとすれば、積載性の無さと、長時間の走行でお尻が痛くなることでしょう。
シート下の収納スペースは皆無に等しく、荷物を運ぶにはリュックを背負うか、カスタムでリアキャリアを装着する必要があります。
しかし、そんな不便さも含めて「バイクらしいバイク」として愛せるのが、APEというバイクの不思議な魔力なのです。
ここでは、HONDA APE100 Deluxe(型式:HC07)の主要スペックを詳しくご紹介します。
コンパクトな車体に詰め込まれた、ホンダ4miniの技術の結晶をご覧ください。

| 車名・型式 | ホンダ・EBJ-HC07 (後期型) |
|---|---|
| 全長 × 全幅 × 全高 | 1,715mm × 770mm × 970mm |
| ホイールベース | 1,190mm |
| 最低地上高 | 165mm |
| シート高 | 715mm |
| 車両重量 | 90kg |
| エンジン種類 | 空冷4ストローク OHC 単気筒 |
| 総排気量 | 99cc |
| 内径 × 行程 | 53.0mm × 45.0mm |
| 圧縮比 | 9.4 |
| 最高出力 | 6.3PS / 8,000rpm |
| 最大トルク | 6.6N・m (0.67kgf・m) / 6,000rpm |
| 燃料供給装置 | キャブレター (PB5QA) |
| 燃料タンク容量 | 5.5L |
| 点火方式 | CDI式バッテリー点火 |
| 始動方式 | キック式 |
| クラッチ形式 | 湿式多板コイルスプリング式 |
| 変速機形式 | 常時噛合式5段リターン |
| 変速比 (1速〜5速) | 3.083 / 1.882 / 1.400 / 1.130 / 0.960 |
| キャスター角 / トレール量 | 28度30分 / 86mm |
| タイヤサイズ (前) | 120/80-12 65J |
| タイヤサイズ (後) | 120/80-12 65J |
| ブレーキ形式 (前) | 機械式リーディング・トレーリング (ドラム) |
| ブレーキ形式 (後) | 機械式リーディング・トレーリング (ドラム) |
| フレーム形式 | ダイヤモンド |
| 懸架方式 (前) | テレスコピック式 |
| 懸架方式 (後) | スイングアーム式 (モノショック) |
| 乗車定員 | 2名 |
| 燃料消費率 (60km/h定地) | 53.2km/L |
スペック表で注目すべきは、その燃費性能です。
60km/h定地走行テスト値で53.2km/Lという数値は、実用燃費でもリッター40km以上を叩き出すことが珍しくありません。
タンク容量は5.5Lと小さめですが、この低燃費のおかげで航続距離は200kmを超えることも可能です。
また、APE100は最後までキャブレター仕様(モデルによる)が多かったため、吸気系のチューニングが容易である点も、マニアにはたまらないポイントです。
みんなのインプレッション
実際にAPE100 Deluxeを所有しているオーナーたちの、愛のこもった口コミを集めました。
良い点も悪い点も、すべてがこのバイクの個性として受け入れられているようです。
『デラックスのカラーリングに一目惚れして購入。ガレージに置いてあるだけで絵になる。メッキパーツを磨いている時間が一番の幸せかも。』
『50ccからの乗り換えだけど、世界が変わった。坂道で失速しないし、車の流れに乗れるから怖くない。二段階右折とおさらばできたのが一番デカイ。』
『燃費が良すぎて、いつガソリンを入れたか忘れるレベル。通勤に使っているけど、電車賃より圧倒的に安い。維持費がかからないのは正義。』
『シートがとにかく硬い(笑)。1時間も乗ってるとお尻が悲鳴を上げる。でも、ゲルザブを入れたり、シートをカスタムしたりするのもまた楽しい悩み。』
『収納ゼロはやっぱり不便。雨具すら入らない。でも、カッコ悪いボックスは付けたくないから、リュック一つでどこへでも行くスタイルが定着した。』
『キック始動は最初不安だったけど、慣れれば一発。コンビニで颯爽とキックでエンジン掛けて走り去るのが、なんだかライダーっぽくて自己満足度が高い。』
『カスタムパーツが多すぎて、給料が全部バイクに消える(笑)。マフラー変えるだけで音が激変するし、キャブセッティングが決まった時の加速感は病みつきになる。』
『古い設計のバイクだけど、構造が単純だから自分で整備できるのがいい。オイル交換もチェーン調整も全部自分で覚えた。バイクの先生みたいな存在。』
ユーザーの声を聞くと、「不便さも楽しむ余裕」を持っている人が多いことがわかります。
現代の至れり尽くせりなバイクとは違い、ライダーが主体となって操作し、整備し、カスタムする。
APE100 Deluxeは、そんな「バイクライフの原点」を教えてくれる、かけがえのない存在と言えるでしょう。

