
1980年代から90年代にかけて、日本のバイク市場は空前のスペック競争の中にありました。
その熱狂の中で、ホンダが原付二種クラスに投入した異色の「本格派」が、今回ご紹介するCBX125カスタムです。
1984年に産声を上げたこのモデルは、当時の125ccクラスとしては極めて異例な「DOHC 4バルブ単気筒エンジン」を搭載していました。
さらに、その心臓部にはホンダ独自の燃焼技術である「RFVC(放射状4バルブ燃焼室)」が採用されており、クラスを超えた技術の結晶と言える一台でした。
当時のアメリカンバイク(現在のクルーザー)ブームに合わせて設計された車体は、小排気量ながらも威風堂々とした佇まいを持っていました。
フロントには細身の18インチホイール、リアには小径の16インチホイールを配し、典型的なアメリカンスタイルを演出しています。
発売当初から、その豪華な装備と高性能なエンジンは、単なる通勤・通学用のバイクとは一線を画す存在として注目を集めました。
特に、ツインカム(DOHC)ヘッドが主張するエンジン造形は、所有する喜びを最大限に高めてくれる要素となっていました。
1990年代に入ってもマイナーチェンジを繰り返しながら生産が続けられ、最終的には1990年代後半にその歴史に幕を閉じました。
しかし、生産終了から30年近くが経過した現在でも、その独特のキャラクターと希少性から、多くの熱狂的なファンに支えられています。
昨今の原付二種(125cc)ブームや、レトロバイク・旧車ブームも相まって、中古車市場での価値もじわじわと再評価されつつあります。
最新のバイクにはない、機械としての緻密さや、手間のかかった設計を125ccというサイズで楽しめるのが最大の魅力です。
かつてこのバイクに憧れた世代だけでなく、現代の若者にとっても「人とは違う125cc」として非常に魅力的な選択肢となっています。
本記事では、この伝説的なスモール・アメリカン、CBX125カスタムの歴史からメカニズム、そして現代における維持のポイントまでを深掘りしていきます。
スペック表やカタログデータだけでは伝わらない、実際に跨がった瞬間に感じる鼓動や、走行中に感じる風のニュアンスまで網羅しました。
これからCBX125カスタムを手に入れたいと考えている方はもちろん、現在所有しているオーナー様にとっても有益な情報をお届けします。
ホンダがかつて、125ccという小さな枠組みの中でどれほどの情熱を注いでバイクを作っていたのか、その証人とも言える本機の魅力を余すことなくお伝えしましょう。
まずは、その美しいフォルムを1200×648の解像度で再現したイメージからご覧ください。
この一台が、あなたのバイクライフにどのような彩りを与えてくれるのか、想像を膨らませながら読み進めていただければ幸いです。
歴史的な背景を補足すると、CBX125カスタムは当時の「CBXシリーズ」の末弟として位置づけられていました。
兄貴分には伝説的な6気筒のCBX1000や、4気筒のCBX400Fが存在し、その名に恥じない高性能がこの125ccにも宿っています。
特に原付二種クラスでDOHCを採用したことは、ホンダの意地と技術力の誇示でもありました。
ライバル車たちがSOHCや2ストロークエンジンで勝負する中、あえて複雑なDOHCを選んだ理由は何だったのでしょうか。
それは、低速域での粘り強さと、高回転域での伸びやかな加速を両立させるためでした。
実用性重視の125ccに、趣味性の高い「メカニズムの妙」を融合させたホンダの英断が、このバイクを今なお語り継がれる名車にしたのです。
現在、中古車市場で程度の良い個体を探すのは容易ではありませんが、メンテナンス次第で現代の交通状況でも十分に通用する性能を持っています。
維持管理には旧車特有の知識が必要となりますが、それを上回る満足感がこのバイクには詰まっています。
それでは、具体的なメカニズムや設計思想について詳しく見ていきましょう。
このバイクの心臓部が持つ驚異的な仕組みを知れば、なぜ多くのライダーがこのバイクに魅了されるのかが理解できるはずです。
Table of Contents
どんなバイク?
CBX125カスタムを語る上で欠かせないのが、その特異なエンジンレイアウトです。
搭載される「JC11E型」エンジンは、空冷4ストロークDOHC 4バルブ単気筒という、125ccとしては究極とも言える贅沢な構成です。
特に注目すべきは、ホンダが特許を持っていた「RFVC(Radial Four Valve Combustion chamber)」構造です。
これは4つのバルブを放射状に配置することで、燃焼室を理想的な半球形に近づける技術です。
これにより、吸排気効率が飛躍的に高まり、単気筒でありながら高回転までストレスなく回る特性を手に入れました。
さらに驚くべきは、キャブレターの構成です。
単気筒エンジンでありながら、低速用と高速用の2つのキャブレターを使い分ける「デュアル・ピストン・キャブレター」を採用しています。
このシステムにより、アイドリング付近の安定性と、フルスロットル時の爆発的なパワーを両立させています。
設計思想としては、単なるミニ・アメリカンを作るのではなく、「125ccの排気量で最大限の質感と性能を追求する」ことに主眼が置かれていました。
そのため、車体構成も非常に本格的です。
フレームは鋼管セミダブルクレードルを採用し、エンジンをしっかりと支える剛性を確保しています。
外観デザインに目を向けると、ティアドロップ型の燃料タンクや、厚みのあるキング&クイーンシートが目を引きます。
各所に配されたクロームメッキパーツは、当時のホンダの塗装技術の高さを物語っており、磨き込むほどに深い輝きを放ちます。
フロントフォークにはエアアシスト機構が備わっているモデルもあり、乗り手の好みに合わせたサスペンション調整が可能でした。
リアサスペンションは伝統的な2本ショックですが、これもまたアメリカンスタイルを強調する重要な要素となっています。
また、この時代のバイクらしく、インストルメントパネルにはタコメーターもしっかりと装備されています。
12,000回転からレッドゾーンが始まる高回転型のタコメーターは、このバイクが単なる「ゆったり走るアメリカン」ではないことを示唆しています。
ブレーキシステムについても、フロントには油圧式ディスクブレーキを採用し、当時の基準では十分な制動力を誇りました。
ホイールはブーメラン型のコムスターホイールではなく、よりクラシックなスポークタイプ、あるいはキャストホイールが設定されていました。
このように、CBX125カスタムは「小さな大物」と呼ぶにふさわしい、細部まで手の込んだ作り込みがなされています。
現代のコストダウンが優先されるバイク作りとは対照的な、エンジニアのこだわりが随所に感じられる一台です。
それでは、実際のエンジン音や走行シーンをYouTube動画で確認してみましょう。
動画からも伝わる通り、単気筒でありながら非常に密度の高い排気音が特徴です。
アクセルを開けた瞬間のツインカム特有のメカニカルノイズは、乗り手の心を高揚させてくれます。
次に、実際の乗り味や操作感について詳しく解説していきましょう。
CBX125カスタムのインプレッション
CBX125カスタムに跨がってまず感じるのは、その驚異的な「足つきの良さ」です。
シート高が低く抑えられているため、小柄なライダーや女性でも両足がベタ付きになる安心感があります。
ステップ位置はフォワードコントロールまではいきませんが、適度に前方に配置されており、リラックスしたライディングポジションを提供します。
ハンドル位置はプルバックタイプで、腕を自然に伸ばした位置にグリップがくるよう設計されています。
走り出しの印象は、125ccとは思えないほどトルクフルです。
デュアルキャブレターの恩恵で、クラッチを繋いだ瞬間からスルスルと滑らかに加速していきます。
特筆すべきは中回転域からの伸びです。
6,000回転を過ぎたあたりから、DOHCエンジンが本領を発揮し始め、排気音が一段と力強くなります。
単気筒アメリカンにありがちな「振動で手が痺れる」といった不快な感覚も、エンジンのバランスが良いせいか最小限に抑えられています。
コーナリングに関しては、フロント18インチタイヤ特有の穏やかなハンドリングが楽しめます。
最新のスポーツバイクのようなクイックさはありませんが、狙ったラインを優雅にトレースしていく感覚は非常に心地よいものです。
ブレーキのタッチも、現代の基準から見ればマイルドですが、車重が軽いため必要十分なパフォーマンスを発揮します。
街中での使い勝手も抜群です。
スリムな車体はすり抜けもしやすく、信号待ちからのスタートダッシュでも交通の流れを十分にリードできます。
ツーリングに出かければ、その快適なシートのおかげで長距離走行でもお尻が痛くなりにくいのが嬉しいポイントです。
燃費についても良好で、丁寧なライディングを心がければリッター40kmを超えることも珍しくありません。
125ccなので任意保険もファミリーバイク特約が利用でき、維持費を抑えながら本格的なバイクライフが楽しめます。
ただし、高速道路に乗ることはできませんが、下道をトコトコと走る旅の相棒としてはこれ以上の存在はありません。
夜の街灯の下で、メッキパーツを輝かせながら走る姿は、まさに自分だけの優雅な時間を感じさせてくれます。
では、実際に走行している様子を収めたインプレッション動画をチェックしてみましょう。
走行中の安定感や、ライダーのライディングポジションの余裕が動画からも見て取れるはずです。
続いては、詳細なスペックデータを確認していきましょう。
CBX125カスタムのスペック

CBX125カスタムの主要諸元を以下の表にまとめました。
1984年当時のカタログデータに基づき、詳細な項目を網羅しています。
| 項目 | 詳細スペック |
|---|---|
| 型式 | JC12 |
| 全長 | 2,110 mm |
| 全幅 | 830 mm |
| 全高 | 1,125 mm |
| 軸距(ホイールベース) | 1,350 mm |
| 最低地上高 | 150 mm |
| シート高 | 730 mm |
| 車両重量 | 126 kg |
| 乗車定員 | 2名 |
| 燃料消費率(定地走行) | 58.0 km/L (50km/h走行時) |
| 最小回転半径 | 2.3 m |
| エンジン型式 | JC11E / 空冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 |
| 総排気量 | 124 cc |
| 内径×行程 | 58.0 × 47.0 mm |
| 圧縮比 | 11.0:1 |
| 最高出力 | 15 ps / 10,500 rpm |
| 最大トルク | 1.1 kg-m / 9,000 rpm |
| 燃料タンク容量 | 11 L |
| キャブレター型式 | PB52 (デュアルキャブ) |
| タイヤサイズ(前) | 3.00-18 47P |
| タイヤサイズ(後) | 110/90-16 59P |
| ブレーキ(前/後) | 油圧式ディスク / 機械式リーディングトレーリング |
| 変速機形式 | 常時噛合式5段リターン |
スペック表を見ると、124ccの排気量から15馬力を絞り出している点に驚かされます。
これは現代の125ccクラスの主流であるSOHCエンジン(約10〜12馬力)を大きく上回る数値です。
当時のホンダが、どれほど出力性能にこだわっていたかが分かりますね。
また、車両重量も126kgと非常に軽量で、これが軽快な走りを支える大きな要因となっています。
スペックの細部を映像で解説しているこちらの動画も非常に参考になります。
次は、実際にCBX125カスタムと共に暮らすオーナーたちの生の声を集約しました。
みんなのインプレッション
長年このバイクを愛しているオーナーから、最近手に入れたビギナーまで、8つのリアルな口コミをまとめました。
『125ccとは思えない存在感に一目惚れして購入しました。特にエンジンの造形が素晴らしくて、洗車のたびに惚れ直します。走りの方もDOHCらしく高回転まで一気に吹け上がるのが快感で、幹線道路の流れに乗るのも余裕です。ただ、純正パーツの欠品が増えてきているので、維持にはそれなりの覚悟と知識が必要ですが、それを含めても最高の相棒です。』
『足つきが抜群に良いので、身長155cmの私でも安心して乗ることができます。アメリカンスタイルですが車体が軽いので、取り回しで苦労したことは一度もありません。燃費も街乗りでリッター35kmから40kmくらい走ってくれるので、お財布にも優しいバイクです。トコトコ走っている時の排気音がとても可愛くて、どこまでも走っていきたくなります。』
『30年前のバイクとは思えないほどエンジンの完成度が高いです。特にRFVCエンジンの恩恵か、単気筒なのに高回転まで非常にスムーズに回ります。デュアルキャブの調整は少しシビアですが、バッチリ決まった時の加速感は現行の125ccでは絶対に味わえないものがあります。メッキパーツが多いので、磨きがいがあるのも所有欲を満たしてくれますね。』
『通勤用として中古で購入しましたが、今ではすっかりツーリング専用機になっています。シートがふかふかで座り心地が良く、1日300kmくらいのツーリングなら全く苦になりません。125ccなので高速は乗れませんが、のんびり景色を眺めながら走るにはこれ以上のバイクはないと思っています。故障しても構造がシンプルなので、自分でいじる楽しさもあります。』
『かつて乗っていたバイクを忘れられず、リターンライダーとしてこのCBXを選びました。昔のホンダ車らしい「精密機械感」がたまりません。今のバイクにはない、タコメーターの針が跳ね上がる感覚や、空冷エンジンの熱気を感じるのが楽しいです。カスタムパーツは少ないですが、純正のスタイルを維持して大事に乗っていこうと思わせてくれる名車です。』
『CBXという名前だけで買いましたが、期待以上の走りでした。アメリカンなのに峠道でも意外と粘ってくれる足回りには驚きました。タイヤサイズが独特なので選択肢は限られますが、それもまたこのバイクの個性だと思って楽しんでいます。冬場の始動性は少しコツがいりますが、チョークを引いてエンジンがかかった瞬間の音は格別ですよ。』
『原付二種クラスで唯一無二のDOHCアメリカンという肩書きに惹かれました。実際に乗ってみると、低回転ではマイルドで扱いやすく、回せば豹変する性格が面白いです。キャンプツーリングにも行きましたが、荷物を積んでも安定感があり、頼りがいのあるバイクです。他人と被ることがまずないので、道の駅などで声をかけられることも多いですね。』
『古いバイクなので電装系やゴム類の劣化は避けられませんが、それを一つずつ直していくのも楽しみの一つです。このバイクを通してバイクの仕組みをたくさん学びました。125ccという制限された排気量の中で、これほどまでに豪華な装備を詰め込んだ当時のホンダの技術者に敬意を評したいです。ずっと手放さずに持ち続けたい一台です。』

