脳科学で解く心の病 エリック・R・カンデル (著), 大岩(須田)ゆり (翻訳), 須田年生 (監修) 築地書館 (2024/4/1) 3,520円

うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで

私たちの脳内には860億個のニューロンがあり、

ニューロン同士が正確に繋がることで、コミュニケーションを取っている。

ニューロンとニューロンの繋がりは、ケガや病気によって変化してしまう。

また、成長の過程で繋がりが正常に発達しなかったり、全く形成されなかったりすることもある。

そうした事態に陥ると、脳機能に混乱が生じて、

自閉スペクトラム症、うつ病、統合失調症、パーキンソン病、

依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など

精神疾患の原因となる。

こうした脳の混乱がどのように生じるかを研究し、その治療法の可能性を探ることは、

私たちの思考、感情、行動、記憶、創造性がどのようにして脳で生み出されているのか、

その解明にも繋がっていく。

神経科学者たちの研究成果、精神疾患の当事者や家族の声、治療法の歴史を踏まえながら、

ノーベル賞受賞の脳科学の第一人者が心の病と脳を読み解く。

著者について
エリック・R・カンデル
1929年、ウィーン生まれ。前コロンビア大学フレッド・カブリ冠教授、ハワード・ヒューズ医学研究所上級研究員。学習と記憶の研究で2000年ノーベル生理学医学賞を受賞。脳神経科学の標準的な教科書である『Principles of Neural Science』(『カンデル神経科学 第2 版』メディカル・サイエンス・インターナショナル、2022年)の主要な著者でもある。

大岩(須田)ゆり
科学医療ジャーナリスト。翻訳家。
朝日新聞社科学医療部専門記者(医療担当)などとして医療と生命科学を中心に取材・執筆し、2020 年4 月からフリーランスに。
同社在籍中に執筆した連載「清原和博、薬物依存と向き合う」は2022 年、「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」のグッド・プレス賞受賞。

須田年生
シンガポール国立大学医学部教授、熊本大学国際先端医学研究拠点卓越教授。
臨床医として勤務した後、幹細胞・発生学の基礎研究に専念するようになる。
現在はシンガポールと日本を行き来しながら研究を続ける。慶應義塾大学名誉教授。

「今や精神疾患は脳の障害と理解されている。認知症は以前から蛋白質の折り畳み不良による神経細胞死が原因の神経変性疾患と言われてきたが、自閉症、統合失調症、うつ病や依存症なども神経回路の障害で、解剖学的、生物学的、遺伝的な原因があるというところまで理解が進んだ。
脳イメージング研究により、精神疾患で異常の生じる脳組織部位も特定がされてきているとのことで、関連する神経伝達物質の作用と合わせた解説で、より具体的に精神疾患について理解ができた。
本書ではさらに、脳に由来する創造性やジェンダーの自己認識まで話が及び、幅が広いが、全体的、統一的な理解ができるのも良い。
残念なのは、米国では2018年出版の本なので、邦訳出版の2024年現在からすると6年前の知識の内容であること。それでも、脳神経科学の始まりからの100年近い歴史を振り返って解説しているため、読み応えは十分である。翻訳ラグが1年程度であればもっと良かったが、脳科学に関する良い知識基盤ができたので、今後の新刊や別の書籍で補いたい。」

「本書は、「心の病」とされる病気が、最近の脳科学の観点からどのように理解されているのか、を平易に解説した本である。かつては「心の病」は心の問題だとされていたが、近年の3つのブレイクスルー、原因遺伝子特定、脳スキャン技術、疾患を持つモデル動物の成功により、心の病は脳障害として完全に理解可能なステージに来ているという。本書はその理解を教えてくれる。
著者は記憶と学習の研究でノーベル賞を受賞した脳科学の第一人者である。お偉い先生は必ずしも一般向けの説明がうまいわけではないことも多いが、本書はそういうことはなく、なかなかわかりやすく書かれていると感じる。」


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