「臨床犯罪学者 火村英生シリーズ」誕生から30年! 最新長編は、圧倒的にエモーショナルな本格ミステリ。
一見ありふれた殺人事件のはずだった。火村の登場で、この物語は「ファンタジー」となる。
大阪の場末のマンションの一室で、男が鈍器で殴り殺された。金銭の貸し借りや異性関係のトラブルで、容疑者が浮上するも……。
「俺が名探偵の役目を果たせるかどうか、今回は怪しい」
火村を追い詰めた、不気味なジョーカーの存在とは――。
コロナ禍を生きる火村と推理作家アリスが、ある場所で直面した夕景は、佳き日の終わりか、明日への希望か――。
有栖川有栖さん『捜査線上の夕映え』を頂戴、読了。冒頭に置かれた残照の光景に魅了される。ミステリとしての構造と文章にも魅了される。細やかな人物描写、論理の火花が、後半の仲島を舞台にした郷愁あふれる場面の情感に、ゆっくりと溶け流されてゆく。読み心地よく読みごたえ十分な大人のミステリ。
— 辻 真先 (@mtsujiji) January 12, 2022
「殺害方法、遺留品などに、トリッキーな部分がほとんどなく、事件全体は凡庸と言われてもおかしくない。それもあってか、大阪府警から火村らへの助力の要請は、死体が発見されてから一週間が経過してから。長編ということもあって、火村と有栖川の聞き込み、大阪府警の森下、茅野、高柳、繁岡らの行動や心情が丁寧に綴られている。これまでの作品の多くが、一気に事件の核心に迫る部分があったような感じだったのに比べると、ゆったりと事件に迫っているような感覚になる。
事件が大きく動くのは、茅野の粘り強い聞き込みがきっかけだが、さらに、火村がある一人の行動を目にしてから、彼の推理が大きく動き出す。」
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