マッドサイエンティストは実在したか?
この話は、東京都内の編プロに勤務する著者が、網走刑務所に5年3か月間収監され、出所したばかりの、地下組織、イリーガル探偵会社の元首領に出会うところから始まる。
男の示す「事件簿」には、巨額詐欺事件、恐喝、暴行、誘拐、レイプ、毒物混入、バイオ犯罪など、おぞましい極悪非道の数々が記されていた。
犯罪の依頼者として、会社員、ソープ嬢、ホスト、会社社長、自称元政治家秘書、宗教団体などから、大手航空会社の社員、医師、マスコミの支局長などまでの名や職業がずらりと並ぶ。
復讐代行業というのは本当にあるのか?
日本航空の客室乗務員やフジテレビのロサンゼルス支局長などが、こんな怪しい組織に非合法な復讐を依頼したのか?
通信教育の大手「Z会」から7億5千万円を騙し取った事件で、捜査当局は「主犯」を取り逃したというのは本当か?
アサクラというマッドサイエンティストは実在したのか?
アフラトキシンなどのカビ毒を製造し使用したというのは事実なのか?
過去の事件における「時間の壁」と「隠された証拠」に苦悩しながら、著者が、事件の中心人物に会い、イリーガル探偵社の事件簿の輪郭を描く問題作。
「本書は竹中という、詐欺で逮捕され出所してきた男の話を一つ一つ調べ上げる形式で展開される。
ファミリーレストランの店内で誇らしげに自身の悪事について語るこの竹中という男に筆者はある種の嫌悪感を覚えつつも、彼が意気揚々と話すアサクラという男について聞くうちに、完全な作り話とは思えず、アサクラ探しを始めるようになる。
調査を進めるなかで、竹中の携わってきた犯罪も同時に明らかになる。一方で、アサクラに関しては肝心なところで情報が入手できない。そもそもアサクラは実在する人物なのだろうか。
こうした形で描かれる本書は、実際のインタビューや資料など事実に基づいて書かれた一種のドキュメンタリーであり、同時にアサクラを追って物語が進行する様子はスリラーでもある。また、このようなマッドサイエンティストは果たして実在するのか、実在するとしたなら、彼はどのような手口を使っているのかを解き明かしていく様は、ミステリーそのものでもある。
こうした三層性を持つ本書は、典型的なミステリーや犯罪ドキュメンタリーでは物足りない読者に、十分な知的充足感を提供できるのではないだろうか。」
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