
リアドアはなぜ全部スライドドアにならないのか? スライドドアの功罪
昨今人気があるクルマ、といえば、軽のスーパーハイトワゴン、そして、SUVやミニバンでしょう。
軽スーパーハイトワゴンとミニバンの魅力は、広々とした車室内もありますが、何といっても後席のスライドドアの利便性です。
全てのクルマのリアをスライドドアにすればいいじゃない
一方、いま大人気のSUVは、最低地上高が高いことによる悪路走破性の高さが魅力のひとつではあるのですが、おそらく多くの人が「SUVの見た目のかっこよさ」で、選んでいると思われます。
そのため、「ほんとうはSUVがほしいけど、スライドドアの利便性は捨てがたい…」と、泣く泣くミニバンを選んでいるケースも多いのではないでしょうか。
それならば、SUVやセダン、コンパクトカーなど、全てのクルマの後席ドアをスライドドアにすれば万事解決、大ヒット間違いなしで、多くの人が選んでくれるはず…。
しかし、現時点ではそうなっていません。
すべてのクルマの後席ドアを、スライドドアにすることはできないのでしょうか。
日産・プレーリー 初代
1982年登場。フロントエンジン、低床設計、5ナンバーサイズに最大3-3-2の8人乗り、両側スライドドア、回転シート、両側センターピラーレスという、当時からするとあまりにも画期的、早すぎた異色のセダン。10年後だったらミニバンとして…pic.twitter.com/S2LmEiRFOd— 個性的な車を偏見で紹介するbot (@koseiHENTAIbot) June 3, 2022
レールを設置しようとすると、ボディ形状が変わる
スライドドアは開口部が広いので、荷物を持ったままでも、乗り降りがしやすい。
また、ドアがボディに沿って開くので、駐車場などで隣のクルマとの隙間が少なくてもラクに乗り降りができます。
ドアを開けたままでもジャマにならないので、乳幼児や子供の世話なども容易にできます。
これらは、スライドドア車のみが持つメリットであり、SUVをはじめとしてセダンやハッチバックなどのヒンジドア車では出来ないことなのです。
ただ、「SUV+スライドドア」の組み合わせたクルマは無いわけではありません。
その筆頭がデリカD:5ですが、上屋のかたちは7人乗りのミニバンに近いので、いま我々が考えているような、「スライドドアのSUV」像とは違なります。
もうちょっと、スライドドアを付ける方法を、具体的に考えていきましょう。
スライドドアを設置するには、ボディと平行にドアが移動するよう、上側と下側にレールを設置しないといけません。
一方で、リアガラスが緩く傾斜しているSUVやセダン、クーペ、全長が短いハッチバックには、上側のレール自体を設置する場所がないのです(下側はサイドシル下側に仕込むことは可能)。
設置のためには、レールを延長する分だけルーフを伸ばす必要があり、伸ばしてしまうと当然、それぞれのボディ形状は変わってきます。
SUVもセダンもクーペもハッチバックも、ステーションワゴンや大型SUVに近い形状となってしまうのです。
ホンダ ステップワゴン(2代目)
ヒットした初代の正常進化。両側スライドドアへの転換期に片側のみの設定だったため販売面で苦戦。しかし剛性や重量面では有利で、ある意味ホンダらしいミニバン。リアサスはまさかのダブルウィッシュボーン。 pic.twitter.com/2B8rxotR6z— 好き勝手に車を語るアカウント (@talking_car) June 4, 2022
利便性が高いスライドドアだが、デメリットも多い
すべてのクルマがスライドドアにならない理由は他にもあります。
例えば、上記で触れたレールの設置という課題が解決され、「スライドドアのSUV」が実現できるとなったとします。
このスライドドアのSUVが、ヒンジドアでつくられた場合よりも悪化(低下)することは、価格が高くなること以外に2つあります。
ひとつは重量増加による燃費悪化です。
スライドドアはスライド機構を持つために重量がかさむうえ、自らの重さでドアが撓まないよう、内部に補強が必要となります。
また両側パワースライドともなれば、さらに重量が増し、車体側にも補強が必要となるのです。
重量増加は燃費悪化につながり、商品力としては大きなデメリットとなります。
高い次元の環境性能が求められる現代において、このデメリットのインパクトは大きいといっていいでしょう。
もうひとつが、運動性能の低下。
スライドドアは、従来のヒンジドア車と比べて、車両重心が上がるため、これまでのようなハンドリングや高速直進性は望めなくなります。
SUVやセダン、ハッチバックの持つ「走りの良さ」は台無しとなってしまうのです。
さらには開口部が大きくなったことで、こもり音のようなノイズが発生しやしくなります。
その分、余計に音振対策が必要となり、コスト、重量に跳ね返るという堂々巡りとなるのです。
もちろん、「それよりもスライドドアによる利便性がほしい」と考える人もいるでしょう。
しかし、ボディサイズが大型化して燃費も悪化し、走りのよさもスポイルされてまでもスライドドア車がほしいと考える人は、既存のスライドドア車を選んでいると思います。
もちろん開発するメーカーの努力次第ではあるのですが、SUVであればSUVのいいところを伸ばす方が、失敗する可能性も少なくなります。
物理的に不可能ということと併せて、現時点はそういう方向で、スライドドア車が限られているものだと思われます。
ミニバンでもスライドドアのギミック減ったよね pic.twitter.com/bLQJAciqwJ
— ryuto (@ryutotomica) June 2, 2022
ブレークスルーに期待!!
昨今は、4ドアクーペやクーペSUVなど、新しいジャンルのクルマが多く登場しています。
凝り固まった車型をブレークスルーしてくれたこうしたクルマの存在には、ワクワクさせられますが、ドア形状に関しては、現時点、ミニバン以外はヒンジドアが大多数です。
スライドドアは不可能だったとしても、ドア形状にはまだ、ブレークスルーの余地があるような気もします。
観音開きで登場したマツダMX-30のほか、過去には助手席側がスライドドア一枚のトヨタポルテなどもありました。
これらの後を追うようなクルマが登場してくれることを期待したいところです。
この時期は既に車の中で何の対策も無しに快適に過ごすのは無理やな??
曇ってる状態で今、フロント・バックドアの網戸とスライドドア・リアの遮光パッドとサーキュレーターと小型扇風機2台完備してても暑い??
今月末?から始まるマイナポイントで、スライドドアの網戸買おうかな??#車中泊#車中飯 pic.twitter.com/HTPNOvIYRj
— 長嶋ジャパンユニ07@あ?り? (@07revolution11) June 8, 2022
ネットの声
「スライドドアの車を選ぶ人は幼い子供がいる人達でしょうし、スピードは求めていないと思います。
私も、スライドドアの車を所有していますが、子供を抱っこしながらの乗り降りが楽ですし、何より、雨の日に濡れずにチャイルドシートに子供を乗せる事が出来るのが嬉しいです。独身の頃、後部座席がヒンジドアの車に子供を乗せる為、雨の中、ずぶ濡れになりながら、子供をチャイルドシートに乗せている母親の姿を見かけて以来、子供が産まれたら絶対にスライドドアと決意していたので、結婚して、妊娠したのをきっかけに、独身時代から長年乗って来た愛車を手放し、スライドドアの車に買い替えました。子供が成長しチャイルドシートがいらないようになったら、スライドドアでもヒンジドアでも、何でも良いんじゃないかな?なんて思ってます。」「車の用途や家族構成などにより、いろんな意見があるのは認めます。私個人はハイブリッドのミニバンですが、スライドドア以外の車に乗り換えることはもう考えらなくなりました。それくらい便利です。唯一欠点があるとすれば、ドアの開閉に少し時間がかかる、という点ですね。賛否両方があって当然ですが、昨今、日本ではセダンやスポーツカーが急減し、電動スライドドアが急増しているのは時代の流れです。欧米では知りませんが、日本のファミリー層に受けるのは必然のことです」
「スライドドアは、ヒンジドアより車体の開口部を大きく取らなくてはいけない上に、閉じている状態でも車体剛性に寄与しないから、車体がやわになりやすい。さらにここにフラットフロアも合わせるとなるとますます剛性不足になる。機構は複雑で重量、コスト増に繋がるし、スライドレールに固定している構造上耐久性もヒンジドアに劣る。
だから伝統的にはラダーフレームの商用車専用の機構だったし、乗用車のスライドドアが一般化したのも日本と北米だけ。そして後者はすでに衰退して絶滅寸前。
低速域中心、駐車スペースが狭く、かつ自動車の長期保有の少ない日本ではメリットがデメリットを上回ることが多いのだろうけれど、完全にガラパゴス需要。むしろここまでスライドドア車が広まったことの方がびっくりじゃないかな。」