
後漢の時代、張楷という学者が五里にもわたる霧を起こす道術を使ったという言い伝えがあります。
その故事に由来する四字熟語「五里霧中」は、まったく先の見通しがたたない状況を意味します。
2026年3月現在、まさにその「五里霧中」という言葉がぴったり当てはまるのが、ホルムズ海峡をめぐる国際情勢です。
米国のトランプ大統領は、イランが船舶を攻撃しているホルムズ海峡に向けて、日本を含む「約7か国」に護衛艦船の派遣を要請していると明らかにしました。
この要請を受けた日本外交は今、極めて難しい局面に立たされています。
目次
ホルムズ海峡をめぐる緊張の背景
ホルムズ海峡は、中東の原油を世界へ運ぶ最重要航路の一つです。
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶこの海峡は、世界の原油取引量のおよそ2割が通過すると言われており、エネルギー安全保障上の要衝として国際社会から常に注目されています。
この海峡において、イランによる船舶攻撃が繰り返されているとされ、航行の安全が脅かされる事態が続いています。
トランプ大統領は2026年に入り、対イラン強硬姿勢をさらに鮮明にしており、経済制裁の強化と軍事的プレッシャーを組み合わせた外交戦略を展開しています。
しかし皮肉なことに、その強硬策が原油市場に混乱をもたらし、米国内でもガソリン価格の急騰という形で国民生活に影響を及ぼしています。
トランプ政権にとって、ガソリン価格の上昇は支持率に直結する問題であり、当初の想定とは異なる展開に追い込まれている格好です。
そのような状況の中で打ち出された「約7か国への護衛艦船派遣要請」は、自らが引き起こした緊張を同盟国に肩代わりさせようとするものとも受け取れます。
国際社会からは「身勝手」との声も上がっており、要請を受けた各国は対応に苦慮しています。
原油価格と米国内政治の関係
トランプ大統領が対イラン強硬策を推し進めた背景には、イランの核開発阻止や中東における米国の影響力回復という戦略的意図がありました。
しかし原油価格への影響は明らかな「誤算」だったとされています。
ガソリン価格の急騰は米国民の日常生活に直接影響を与えるため、大統領の支持率にも敏感に反映されます。
トランプ大統領がホルムズ海峡の安定化に向けて同盟国の協力を求める背景には、こうした国内政治的な事情もあると見られています。
日本への護衛艦船派遣要請と外交的難局
トランプ大統領から護衛艦船の派遣を求められた日本は、極めて複雑な立場に置かれています。
日本は原油輸入の多くを中東に依存しており、ホルムズ海峡の航行安全は日本のエネルギー安全保障に直結する問題です。
その意味では、海峡の安定化に関心を持つことは自然なことと言えます。
一方で、イランとの関係においても、日本は独自の外交チャンネルを持つ数少ない国の一つです。
日本はイランとの間で長年にわたり友好的な関係を維持しており、制裁強化路線をひた走る米国とは異なるアプローチを取ってきました。
護衛艦船を派遣すれば、こうしたイランとの関係を損ねるリスクがあります。
また憲法上の制約や国内の政治的合意という問題もあり、自衛隊の海外派遣は常に慎重な判断を要します。
日米同盟という枠組みの中で米国の要請を無下に断ることも難しく、日本外交は四方を霧に囲まれた状況に立たされています。
日米首脳会談という舞台
さらに事態を複雑にしているのが、以前から2026年3月19日にワシントンでの日米首脳会談が予定されていたことです。
この会談の場で護衛艦船派遣についての問答が交わされることは避けられない状況です。
毀誉褒貶の激しいトランプ大統領を相手に、丁寧に断る術を見つけることは容易ではありません。
強く断れば同盟関係に亀裂が入るリスクがあり、安易に受け入れれば国内外から批判を受けかねない構図です。
日本政府がどのような言葉を選び、どのように立場を説明するのか、首脳会談の行方に国際社会の注目が集まっています。
「五里霧中」の国際情勢をどう読むか
ホルムズ海峡をめぐる情勢が「五里霧中」と形容されるのは、単に先が見えないというだけではありません。
霧を起こしたのがトランプ大統領自身であるという点が、事態をさらに複雑にしています。
対イラン強硬策という「霧」の中で、各国は自国の国益をどう守るかという難しい判断を迫られています。
日本にとってのホルムズ海峡問題は、エネルギー安全保障、日米同盟、対イラン外交という三つの重要課題が交差する地点に位置しています。
どの一つを優先しても、他の二つに影響が及ぶという、まさに三すくみの状況です。
専門家の間では、日本が取り得る選択肢として、派遣を条件付きで受け入れる案、独自の外交努力によるイランとの対話継続を前面に出す案、多国間の枠組みを通じた関与を模索する案などが議論されています。
いずれの選択にもリスクが伴い、正解のない問いに向き合っていると言えます。
エネルギー安全保障という視点
日本のエネルギー自給率は依然として低く、原油の安定供給は経済活動の根幹を支える問題です。
ホルムズ海峡が封鎖あるいは著しく不安定化した場合、日本経済が受ける打撃は甚大なものになります。
その意味では、海峡の安全確保に向けた国際的な取り組みへの参加は、日本自身の利益にもつながります。
ただしその参加の形をどうするか、どの程度のコミットメントを示すかは、慎重な見極めが必要です。
再生可能エネルギーの普及や電力システムの多様化が進む中でも、当面の間は中東依存からの完全な脱却は難しい状況が続くとみられています。
霧の中で日本外交が問われるもの
ホルムズ海峡をめぐる情勢は、まさに「五里霧中」という言葉がぴったり当てはまる状況です。
トランプ大統領自らが起こした霧の中で、日本は同盟国としての立場とエネルギー安全保障、そして独自外交のバランスをどう保つかという難問に直面しています。
3月19日の日米首脳会談は、その答えを出す最初の場となります。
日本外交がこの難局をどう乗り越えるか、今後の動向を注視する必要があります。

