嘘と隣人 芦沢央 (著) 文藝春秋 (2025/4/23) 1,760円

ミステリ・ランキング常連の注目作家による、新境地連作ミステリ。

地獄は始まる。あなたの隣の小さな悪意から……。

ストーカー化した元パートナー、マタハラと痴漢冤罪、技能実習制度と人種差別、SNSでの誹謗中傷・脅し……。

リタイアした元刑事の平穏な日常に降りかかる事件の数々。

身近な人間の悪意が白日の下に晒された時、捜査権限を失った男・平良正太郎は、事件の向こうに何を見るのか?

近年のミステリランキングの常連で、イヤミス短篇の名手として知られる芦沢央さんの最新作です。

主人公は、定年を迎え、刑事の仕事を引退した平良正太郎。リアルタイムで事件が進行し、解決されていくのが刑事モノの読みどころですが、現役を離れてしまうと、そもそも事件からも遠ざかってしまいます。

それでもあえて“退職後”という設定にした理由を芦沢さんは「過去と現在で事件に対する向き合い方が明確に異なる人物を書いてみたかった」からだと語っています。

例えば「アイランド・キッチン」という一編では、ふとしたことから現役時代に担当した事件を思い出した正太郎が、別の真相を見出します。それは正太郎個人の変化に留まらず、近年の急速な社会情勢、価値観、倫理観の変化にもよるもの。

時が経てば、悲劇も喜劇に変わる――とはよく聞く箴言ですが、本作を読んだ後では、そう一筋縄ばかりとはいかないぞ、と思わされます。悲劇が喜劇に、ではなく、悲劇がその色合いを変えることもあるのだ、と。

もちろんそれ以外にも、芦沢作品らしい、どんでん返しの切れ味は本作も健在です。どうぞお楽しみください!


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