アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉 香月孝史 上岡磨奈 中村香住 (著, 編集) 青弓社 (2022/7/25) 1,760円

今日、アイドルは広く普遍的な人気を獲得し、多様なスタイルや可能性をもつジャンルとしても注目されている。

しかし、同時に多くの難点を抱え込んでいることも見過ごせない。

暗黙の「恋愛禁止」ルールとその背景にある異性愛主義、「年齢いじり」や一定の年齢での「卒業」という慣習に表れるエイジズム、あからさまに可視化されるルッキズム、SNSを通じて四六時中切り売りされるパーソナリティ……。

アイドルというジャンルは、現実にアイドルとして生きる人に抑圧を強いる構造的な問題を抱え続けている。

スキャンダルやトラブルが発生して、旧態依然ともいえるアイドル界の「常識」のあり方が浮き彫りになるたび、ファンの間では答えが出ない議論が繰り返されている。

その一方で、自らの表現を模索しながら主体的にステージに立ち、ときに演者同士で連帯して目標を達成しようとするアイドルたちの実践は、人々をエンパワーメントするものでもある。

そして、ファンのなかでも、アイドル本人に身勝手な欲望や規範を押し付けることと裏表でもある「推す」(≒消費する)ことに対して、後ろめたさを抱く人が増えている。

本書では、「推している」がゆえにジャンルが抱える問題から目をそらすのではなく、かといって、現に日々活動を続ける一人ひとりのアイドルの存在を無視して「アイドル」そのものを「悪しき文化」として非難するのでもなく、「アイドルを好きでいること」と問題点の批判的な検討との両立を目指す。

乃木坂46やAKB48、ハロー! プロジェクト、二丁目の魁カミングアウトなどの具体的なアイドルの実践を取り上げる批評から、「推す」という行為のもつ功罪を問い直す論考、近年K-POPアイドルシーンで盛んな「女性が憧れる女性像」である「ガールクラッシュ」コンセプトの内実を検討するレビューまで、様々な視点から「葛藤しながらアイドルを語る」ことの可能性を浮き彫りにする。

目次

はじめに 香月孝史

序 章 きっかけとしてのフェミニズム 中村香住

第1章 絶えざるまなざしのなかで――アイドルをめぐるメディア環境と日常的営為の意味  香月孝史

第2章 「推す」ことの倫理を考えるために 筒井晴香

第3章 「ハロプロが女の人生を救う」なんてことがある? いなだ易

第4章 コンセプト化した「ガールクラッシュ」はガールクラッシュたりえるか?――「ガールクラッシュ」というコンセプトの再検討 DJ泡沫

第5章 男性アイドルを見つめる視線から考える性的視線と性的消費 金巻ともこ

第6章 クィアとアイドル試論――二丁目の魁カミングアウトから紡ぎ出される両義性 上岡磨奈

第7章 「アイドル」を解釈するフレームの「ゆらぎ」をめぐって 田島悠来

第8章 観客は演者の「キラめき」を生み出す存在たりうるのか――『少女☆歌劇レヴュースタァライト』を通して「推す」ことの葛藤を考える 中村香住

第9章 もしもアイドルを観ることが賭博のようなものだとしたら――「よさ」と「よくなさ」の表裏一体 松本友也

おわりに 上岡磨奈

著者について
香月 孝史(カツキ タカシ)
1980年、東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。ポピュラー文化を中心にライティング・批評を手がける。著書に『乃木坂46のドラマトゥルギー』『「アイドル」の読み方』(ともに青弓社)、共著に『社会学用語図鑑』(プレジデント社)など。

上岡 磨奈(カミオカ マナ)
1982年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程。専攻は文化社会学、カルチュラルスタディーズ。共著に『「趣味に生きる」の文化論』(ナカニシヤ出版)、論文に「アイドル音楽の実践と強制的異性愛」(「ポピュラー音楽研究」第25号)、「アイドル文化における「チェキ」」(「哲学」第147号)など。

中村 香住(ナカムラ カスミ)
1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部・同大学大学院社会学研究科非常勤講師。専攻はジェンダー・セクシュアリティの社会学。共著に『ガールズ・メディア・スタディーズ』『ふれる社会学』(ともに北樹出版)、『「百合映画」完全ガイド』(星海社)、『私たちの「戦う姫、働く少女」』(堀之内出版)、論文に「クワロマンティック宣言」(「現代思想」2021年9月号)、「「女が女を推す」ことを介してつながる女ヲタコミュニティ」(「ユリイカ」2020年9月号)、「フェミニズムを生活者の手に取り戻すために」(「新社会学研究」第2号)など。


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