最終飛行 佐藤賢一(著) 文藝春秋 (2021/5/27)

世界中的ベストセラー『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリ。

彼は作家であると同時に、飛行機乗りでもあった。

純粋で、かつ行動的なサン=テグジュペリは、ナチスドイツ占領下でドゥ・ゴール派とヴィシー派の政治抗争に巻き込まれる。

苦渋の選択の末に渡ったアメリカで書き上げたのが、自身唯一の子ども向け作品『星の王子さま』だった。

そして、念願の戦線復帰が叶い、ナチスドイツとの戦闘に復帰。危険な偵察飛行を繰り返し――。

破天荒な愛に、かけがいのない友情。困難な時代に理想を求めて葛藤する姿。

第二次世界大戦期を通して、サン=テグジュペリを精彩豊かに描く長編小説。

「バクシーシをいただいているわけではありませんが(笑)、私にとって箱根で好きな場所と言えば「星の王子さまミュージアム」がピカ一です。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの生涯を辿りながら「星の王子さま」の持つ霊的な世界に触れているとさざ波のような感動が押し寄せてきます。何度訪ねても。

「最終飛行」(佐藤賢一 文藝春秋)を読み終えました。デュテルトルの名前が出てくるだけで既に「戦う操縦士」の作品世界を想起して心が躍ります。この物語は、パリが無防備都市となるべくナチスに占領された時期、サン=テグジュペリが、偵察隊に配属されていた頃から始まり、正しく「最終飛行」に至るまでの彼の半生が綴られています。
ヴィシー政権が樹立され(ナチス・ドイツ占領下のフランス、鉤十字だらけのパリ)、それを認めないドゥ・ゴール派が英国を拠点に活動している中、どちらにも与しないサン=テグジュペリは米国へと赴くことになります。
リヨンの伯爵の子として生まれ、兵役志願し、操縦士となり、空への渇望から民間航空会社へ。その後、端折ってしまいますが(笑)、パイロット経験を生かして書いたいくつかの名作(「夜間飛行」、「人間の土地」)を持つ著名な小説家であるにも関わらず第二次大戦に招集され「飛行機乗り」としてその生涯を全うした男の半生。そのことに正面から向き合って書いた佐藤賢一の静かな熱気が伝わってきます。
当時のフランスの状況下、その「サン=テグジュペリ」という名前を自ら利用し、或いは利用されながら、ヴィシー派にも、ドゥ・ゴール派にも与することなく、単に祖国フランスへの滾る思いに翻弄されながら、「戦うことの崇高さ、戦う者の潔い達観」を見せつけるその姿は、時に未成熟な少年に思えるほどに我が儘でありながら、しかし多くの男たち、女たちがその純粋無垢な姿に魅せられていくことになったのでしょう。
登場する二人の女性がよく描かれています。一人は、妻・コンスエロ(星の王子さまにとってのバラ?)。もう一人は、生涯のパトロンのようなネリー。「父性」を与えたくとも与えられなかったサン=テグジュペリから妻への愛(度重なるルールドの奇蹟(笑))と大いなる「母性」を象徴させるネリーとの愛の中にあってはじめて彼の強大なエゴが形成され、そのことが多くの名作を生み出す源だったのではないかと考えさせられることにもなりました。
サン=テグジュペリの著作を愛して止まない私にとって、その「最終飛行」を再現してみせながら、読書の喜びを与えてくれた本書もまた愛読書になるような気がします。」


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