ロシア一気に劣勢へ?
「早期警戒管制機」撃墜の深刻な影響 “史上初”の大失態
ロシアによるウクライナ侵略戦争が長期化するなか、2024年1月14日、今後の航空戦に影響を与えるであろう重大な出来事が起きました。
ウクライナ軍が、ロシア空軍の早期警戒管制機(AEW&C)であるA-50「メインステイ」を撃墜したと公式に発表したのです。
目次
史上初のAWACS撃墜例か
A-50は機体上部に大型のレーダードームを搭載し、空飛ぶ航空戦司令部として機能します。
別名「空中警戒管制機(AWACS)」とも呼ばれ、価格は約400~500億円と高価です。
ロシア空軍には9機しかなく、そのうちの1機が失われたことになります。
早期警戒管制機は航空戦の趨勢を左右しかねない重要な機体です。
最大で400~600kmのレーダー視程を有し、敵の攻撃が及ばない戦線の後方でパトロールしながら航空戦を指揮します。
これまで早期警戒管制機が攻撃を受けた事例はなく、今回が史上初めての被撃墜となりました。
本来、困難であるはずの後方に存在する早期警戒管制機に対する攻撃を、ウクライナ軍がどのようにして成功させるに至ったのかは現在のところ不明です。
一説によると、ロシア空軍の同士討ちという可能性もあるとか。
いずれにせよ、ロシア空軍にとっては海軍の黒海艦隊旗艦「モスクワ」沈没に匹敵する開戦以来の大失態といえるでしょう。
「AWACS(空中警戒管制システム)」という語は正確にはAN/APY-1系列レーダー管制システムの固有名詞なのでE-3セントリーとE-767だけがAWACSでありその他は「AEW&C(空中早期警戒管制機)」が正解です。ただ、今はもう「バルカン砲」「セスナ機」など本来の意味を超えて広く使われるようになっています。 pic.twitter.com/3VWUmF5WAP
— ぐり@関賢太郎 航空軍事記者 (@gripen_ng) January 15, 2024
これ以上A-50を失えないロシア空軍
今回のA-50被撃墜が、この戦争にすぐさま影響を与えるとは考えにくいですが、ウクライナ周辺の低空域における航空優勢、いわゆる制空権の掌握においてロシア側が不利になる可能性は多分にあります。
早期警戒管制機が持つ最大の役割の1つは「地球の丸み」を克服することです。
地上に配置された防空レーダーは、水平線(地平線)より下に存在する、すなわちその向こうに位置する航空機の探知ができません。これは海面(地面)の影になってしまうからです。
この影響は意外と大きく、たとえば人間の頭と同じ高さに置かれたレーダーアンテナは、わずか5kmで水平線の下の領域、すなわち探知不能エリアができてしまいます。
早期警戒管制機は高い位置から見下ろすことによって、この問題を解決できます。
たとえば高度1万mを飛行すれば水平線の位置を378km先へ追いやることができます。
つまり、ロシア側はウクライナ本土の低空をもっぱらA-50の監視に頼っていると言えるでしょう。
ロシア空軍はこれ以上のA-50の損失を防ぐために、今後は同機をより戦線後方へと下げてパトロールさせるでしょう。
仮に現在より100km後方に下げたとすると、ロシア側は100km分の低空監視網を失うことになります。
ウクライナ空軍がロシア軍の早期警戒管制機を撃墜
・ロシアは航空機の作戦区域を再考せざるを得なくなる
・ウクライナ軍は弾薬不足に直面している
・ロシアのプーチン大統領はロシア軍の主導権を主張
・ウクライナのゼレンスキー大統領は戦う姿勢を強調 pic.twitter.com/Uae5QVY7Qz— こてつ先生|ニュース解説・英語学習 (@kotetsu_sense) January 17, 2024
間もなく実戦投入か? ウクライナのF-16
また、監視だけでなく、攻撃能力も低下します。
ロシア空軍は最大射程400kmの高性能地対空ミサイルS-400を保有しており、ウクライナの空の大半を攻撃範囲に収めています。
しかし、S-400は自前の射撃用レーダーでは、前述した地球の丸みに関する問題から低空を飛ぶ航空機を照準することができず、ミサイルの最大性能を発揮するためにはA-50のレーダー支援が必須です。
よってA-50を後方に下げたら、その分S-400がカバーできる範囲も減ると考えられます。
2024年春にはウクライナ空軍へF-16「ファイティングファルコン」戦闘機の配備が始まりますが、A-50の後退はF-16の性能を発揮する上で有利になります。
F-16は空戦能力だけでなく、対地攻撃や地対空ミサイルの破壊能力にも優れているので、もしF-16による作戦が自由に行えるようになった場合、地上戦へ影響を与えることも十分に考えられるでしょう。
また、低空を飛翔し接近する巡航ミサイルはこれまでにおいてもロシア海軍司令部や潜水艦を撃破するなど戦果を上げていますが、ロシア側はその迎撃も一層困難となる可能性も考えられます。
ロシア側はS-400とA-50の組み合わせでF-16を封殺するつもりだったようですが、A-50を前進させると再び撃墜されるリスクを負うことになります。
ちなみに、F-16は射程100km以上あるAIM-120D「アムラーム」空対空ミサイルを使用可能で、これもA-50にとって脅威となります。
いずれにせよロシア空軍はまもなく控えるF-16の実戦投入にそなえ、何らかの手段を用意しなくてはならないでしょう。
たとえばA-50の代わりにMiG-31やSu-35といった大型戦闘機にレーダー監視をさせるという方法などが考えられます。
ウクライナによる早期警戒管制機A-50の撃墜を受けロシアは別機体の運用を始めた。場所はウクライナから東に離れたロシア内クラスノダール地方。領内での作戦に赴くことからA-50の残機を気にかけている模様。重要戦力の喪失に言及しない様子はウクライナの作戦が効果的であったと浮き彫りにしている
— 興信所ごろう / OSINT分析 (@japanpitokyo) January 19, 2024
ネットの声
「ロシア軍が早期警戒管制機を失った原因が気になります。もしロシア軍のヒューマンファクターならば、今後、対策を立ててローテーションは厳しくなっても、ある程度は今までに近い形での運用をすることも可能かと思います。ウクライナ軍が撃墜した場合、記事のとおり、戦線に多大な影響があると思われます。戦時下で原因を確定することは困難ですが、今後のロシア軍の動きによってある程度、予測がつくのではないでしょうか。後者の場合、ロシア軍だけでなく早期警戒管制機を運用する世界の軍隊に戦訓として影響を与えそう。」
「早期警戒機の滞空時間、他の監視すべき空域の有無、故障などによる稼働率、新しく早期警戒機を製造するための期間などが分かれば、ロシアにとっての深刻さが分かるでしょうね。
重要な機密事項でしょうから、欧米側が情報を掴んでいても公開されないとは思いますが。
ただこれまでのロシアの戦い方をみると、自国の兵士の損耗はあまり考慮していない。
早期警戒機の損失により防空能力は低下しても、地上戦での攻勢や迎撃は損失を無視して継続するような気がしますね。」「NATOからすれば厄介な早期警戒機を削ることができてよくやったと思っているだろう。
ロシアはウクライナに固執し過ぎて西側に向ける兵力までも削ったので既に手遅れな状況に陥っており、損害は日々増すばかり。
練度の高い兵は既に土となり今のロシア軍はただかき集めて数でゴリ押しするだけの集団、ウクライナからすれば数と兵站が脅威となっているが戦力を上げることができればウクライナ軍の練度からすれば押し返すことは可能。
やはり資源と高性能な兵器開発能力や生産能力が低いことが大きな問題なだけに、西側も援助し続けることも難しく自立化に向け工業力に対する支援や投資にシフトしていかなければならないかと。」