暁の宇品 堀川惠子(著) 講談社 (2021/7/7) 2,090円

陸軍船舶司令官たちのヒロシマ

広島の軍港・宇品に置かれた、陸軍船舶司令部。

船員や工員、軍属を含め30万人に及ぶ巨大な部隊で、1000隻以上の大型輸送船を有し、兵隊を戦地へ運ぶだけでなく、補給と兵站を一手に担い、「暁部隊」の名前で親しまれた。

宇品港を多数の船舶が埋め尽くしただけでなく、司令部の周辺には兵器を生産する工場や倉庫が林立し、鉄道の線路が引かれて日々物資が行きかった。

いわば、日本軍の心臓部だったのである。

日清戦争時、陸軍運輸通信部として小所帯で発足した組織は、戦線の拡大に伴い膨張に膨張を重ね、「船舶の神」と言われた名司令官によってさらに強化された。

とくに昭和7年の第一次上海事変では鮮やかな上陸作戦を成功させ、「近代上陸戦の嚆矢」として世界的に注目された。

しかし太平洋戦争開戦の1年半前、宇品を率いた「船舶の神」は志なかばで退役を余儀なくされる。

昭和16年、日本軍の真珠湾攻撃によって始まった太平洋戦争は、広大な太平洋から南アジアまでを戦域とする「補給の戦争」となった。

膨大な量の船舶を建造し、大量の兵士や物資を続々と戦線に送り込んだアメリカ軍に対し、日本の参謀本部では輸送や兵站を一段下に見る風潮があった。

その象徴となったのが、ソロモン諸島・ガダルカナルの戦いである。

アメリカ軍は大量の兵員、物資を島に送り込む一方、ガダルカナルに向かう日本の輸送船に狙いを定め、的確に沈めた。

対する日本軍は、兵器はおろか満足に糧秣さえ届けることができず、取り残された兵士は極端な餓えに苦しみ、ガダルカナルは餓える島=「餓島」となった。

そして、昭和20年8月6日。

悲劇に見舞われた広島の街で、いちはやく罹災者救助に奔走したのは、補給を任務とする宇品の暁部隊だった――。

軍都・広島の軍港・宇品の50年を、3人の司令官の生きざまを軸に描き出す、圧巻のスケールと人間ドラマ。
多数の名作ノンフィクションを発表してきた著者渾身の新たなる傑作。

著者について
堀川 惠子
1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。

「開戦前から戦争は無理だと考えていたのはやはり実務に直面していた方々であったのですね。今の世の中と何ら変わりません。島国日本が戦争をするのに船舶が旧式かつ全然不足していることを目の前に見ている実務責任者達の悲哀を感ざるを得ません。二言目には「全力あげる」とか「万全の対策をする」とか言っている現代のリーダーや官僚達に是非読んでほしい一冊であると思います。」

「『暁の宇品』(堀川惠子 講談社 2021年9月)は、戦時下広島にあった陸軍海上輸送基地の様子を描いたものである。ここは船舶の神様と言われた田尻昌次中将が作り上げ、この基地から東アジアへ向けて大量の物資や兵員を輸送した。日頃、兵站整備や食料補給などを重要視してこなかった大本営のせいで、太平洋戦争で実に多くの兵士たちが餓死したり病気でなくなっている。そうした現実下で奮闘した田尻であったが、彼の真骨頂は、広島に原爆が投下され、酸鼻を極めた8月6日、田尻司令官は全兵力を投入して、被災地広島の救援と支援に当たったことである。このノンフィクションは、今でも読まれるべきものだ。ちなみに、ビルマのインパール作戦では補給がほとんどなされず、8万6千人兵士が1万2千人にまで激減した。その殆どが餓死である。太平洋上の島、ルソン島でも多くの兵士が餓死している。」

「広島の宇品に戦時中に存在した船舶司令部、通称『暁部隊』について、ここまで詳しく書かれている本はありません。輸送という観点から太平洋戦争勃発から終焉までを描いた内容にはたいへん驚かされました。原子爆弾投下後の船舶部隊の活躍の様子についても大変感銘を受けました。暁部隊については謎の部分が多い中、とても深く調査されていながら、読みやすく書かれた本書はおすすめです。」


(↑クリックするとAmazonのサイトへジャンプします)

 

おすすめの記事