暗色コメディ 連城三紀彦(著) 双葉社 (2021/4/15)

もう一人の自分を目撃したという人妻。”消失狂”の画家。

「あんたは一週間前に事故で死んだ」と妻に言われる葬儀屋。

妻が別人にすり替わっていると訴える外科医。

四人を襲う四つの狂気の迷宮の先には、ある精神病院の存在があった……。

緻密な構成と儚く美しい風景描写。

これぞ連城小説の美学、これぞ本格ミステリの最高峰!

「連城三紀彦さんの処女作『暗色コメディ』は、だまし絵のようなミステリである。
夫と逢引をする自分自身を目撃した主婦、トラックへの投身自殺を試みるもトラックそのものが消失し生還してしまった画家、妻に幽霊と思われている葬儀屋、妻が別人にすり替わっていることに気付いた外科医。本作品は、不可思議な体験をした彼ら群像劇の体裁で物語はすすむ。
登場人物が交互に、惑乱した心情を吐露していくわけだが、足元を揺るがすようななんとも幻想的な雰囲気が漂っている。語られれば語られるほどに現実から大きく離れていく感覚を覚える。
登場人物は、ある精神科で結びつき、さらに複雑に絡みあった関係が明らかになる。そこで発生した失踪事件と、紐解かれていく登場人物の暗い過去、いくつかの殺人事件。誰がこの謎への解答を提示するのかさえ不明なまま、迷路の中を彷徨ってしまうのだ。
本作品は、狂気でかたずけられてしまう危うさをはらんでいる。心理的なトリックへ、余計な解釈をせず、すんなり入っていけないと楽しめないかもしれない。特に葬儀屋の顛末は、はなはだ曖昧のように思う。本作品の読み方としては、語り口の巧みさに酔いしれ、だまし絵の世界で遊ぶのが正解なんだろう。
幾人かの登場人物が繰り広げるミステリ風群像劇は、一つに収斂したときの快感が魅力であるが、本作品にどこかぼんやりしている。ここは、ちょっと残念。予想外の犯人ではあるが、それさえも覚束ないように思えてしまう。心理的なトリックに傾注してしまっているからかもしれないな。」


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