大阪の心斎橋からほど近いエリアにある「空堀商店街」。
そこには、兄妹二人が営むガラス工房があった。
兄の道は幼い頃から落ち着きがなく、コミュニケーションが苦手で、「みんな」に協調したり、他人の気持ちに共感したりすることができない。
妹の羽衣子は、道とは対照的に、コミュニケーションが得意で何事もそつなくこなせるが、突出した「何か」がなく、自分の個性を見つけられずにいる。
正反対の性格である二人は互いに苦手意識を抱いていて、祖父の遺言で共に工房を引き継ぐことになってからも、衝突が絶えなかった。
そんなガラス工房に、ある客からの変わった依頼が舞い込む。それは、「ガラスの骨壺が欲しい」というもので――。
『水を縫う』『大人は泣かないと思っていた』の寺地はるなが放つ、新たな感動作!
相容れない兄妹ふたりが過ごした、愛おしい10年間を描く傑作長編。
ガラスの海を渡る舟/寺地はるな #読了
まとも。ふつう。常識。世間。それは兄を世界から弾く言葉。
生きにくい要素を抱えた兄と、それに不満を持つ妹が共に営む硝子工房を通した様々な人間模様。
死、愛憎、妬み、承認欲求など人のあらゆる感情に向き合う言葉は、指標のように心の奥に響いてくる。 pic.twitter.com/uzmHttGfOP
— なな (@uminoshirabe) October 12, 2021
「道と羽衣子の兄妹が祖父から引き継いだガラス工房で、傷つき、気付き、成長する姿を描いた10年間の物語だが、二人だけでなく『生』と『死』に関わる問題を抱えた他の登場人物も身近に存在しそうな人々ばかりで、読者は「誰か」にあるいは「出来事」に感情移入してしまうはずだ。
登場人物たちの相手を思いやる言葉や行動にハッとさせられることが多く、著者の人間としての温かさや優しさを感じた。私は、『特別』あるいは『才能』に憧れ、思い悩む羽衣子に自分自身を投影しながら、辿り着く先を気にしながら読み進め、読了後に静かな安堵感を覚えている。」
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