陰謀の日本近現代史 保阪正康 (著) 朝日新聞出版 (2021/1/13)

いつの世も、知恵と知恵の戦いが歴史をつくる。

時にそれを「陰謀」という。

よく知られた史実も、本来は何者かの陰謀の産物かもしれない――。

必敗の対米開戦を決定づけた「空白の一日」、ルーズベルトが日本に仕掛けた「罠」、西郷隆盛が見誤った「会津の恨み」、「天皇がいて、いなかった」大正の特異な5年間、大杉栄虐殺の真犯人、特攻攻撃の本当の責任者、瀬島龍三が握りつぶした極秘電報の中身……。

歴史は陰謀に満ち満ちている。そして真相は、常に闇に閉ざされる。

近現代史研究の第一人者が、その闇に光を当てる。

あの戦争を中心に、明治以降の重大事件の裏面と人物の命運を史料と肉声で検証。

「真実」を明らかにする!

「日本近現代史上の戦争を含む大事件を立体的に内外、表裏から立体的に浮かび上がらせている。延べ4,000人から聴き取ったデータに基づいた明解な分析は事件の全貌、事件がもたらしたものをリアルにドキュメントしているのは驚きだ。保阪さんの筆力に脱帽。独善に陥った組織を「昔、陸軍、今○○」と揶揄したが、その陸軍、軍人の狂いようは物凄い。そうして浮かび上がった日本人の特質を現在のコロナ禍に引きずっていると思う。」

「読み始めた日、「日本のいちばん長い日」を書いた半藤一利さんの訃報が伝えられた。太平洋戦争終戦時の玉音放送前1日の動きを当事者の聞き取りでまとめた苦心作であった。
その点では同じ聞き取り手法で、昭和16年12月6日の真珠湾奇襲までをやはり関係者の聞き取りで浮かび上がらせた本書は、その前史というべき必読のドキュメントとなっている。中でも、特に印象に残った言葉は、特攻作戦に反対した航空部隊の指揮官であった美濃部少佐の「たとえ戦時下といっても、死しかない命令を下す権利はいかなる人物にもない、というのが私の人生観でしたから…」という思いのもと、海軍の各部隊の責任者を集めた会議で、「あなたたちは命令する側にいて、実際に体当たりするわけではない」という発言だ。このような軍人がもし多数派ならば、戦争に自縛したように突入することもなかったであろう。
読了して、「戦争という悪魔の足の素早さ」という言葉が浮かんだ。令和の命名で有名な中西進さんの言葉である。令和になって、その悪魔の足音が大きくなっているように思える。」

「いま現在、この本を読むことは、日本の現在と未来を見とおすことでもある。著者の日本の近現代史の実証的研究の成果を読むことにとどまらない。
この本を、最近の歴史修正主義に疑問を感じながらも、明確な反証の自信を持たない人すべてに贈りたい。こころ揺さぶられる本だ。感動的の意味はいくつかある。
一つは、著者が生存する関係者にインタビューをし、資料を広範囲に博捜し事実を浮かび上がらせた著者の汗が随所に光る。大杉栄事件の首謀者とされる甘粕正彦。特攻隊をつくったとされる大西瀧治郎。幻に終わった日本人による「東京裁判」。これらがそうだ。「常識」という多数の見識を事実をもって覆すことに魅力を感じた。一つの立場に偏しない実証的な研究が光っている。これらのことを読むだけでも充分に時間を割く価値がある。
二つ目は、新書の性格によるのか。わかりやすくて、読みやすい。高度な学術書でなく、かといってお手軽を謳った入門書でなく。近現代史を知りたい一般人に最適の書だ。自分の考えの基ととなる本である。
森友、加計、さくらを見る会、官僚の忖度…日本の戦後の最も醜悪な政治は、戦前戦中の権力者の黒い遺伝子を確実に受け継いでいると思った。とくに東条英機は最悪の事態に最悪の指導者だった。そこに共通するのは国民の存在がないのである。軍のメンツ、個人的な関係者の優遇だけが優先される世界だった。権力者をのさばらせてはいけないと明言しているわけではない。この著作全体が、そう叫んでいるようにわたしには思えるのだ。」


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