後列のひと 無名人の戦後史 清武英利(著) 文藝春秋 (2021/7/28)

最前列ではなく後ろの列の目立たぬところで人や組織を支えてきた人々の物語。

良く生きた人生の底にはその人だけの非凡な歴史がある。

「著書をほぼ読ませてもらっている清武英利さんの新著『後列の人』(文藝春秋)が届いた。「最前列ではなく、後ろの列の目立たぬところで、人や組織を支える人々がいる。役所の講堂や会社の大会議室に集められたとき、たいてい後列に位置を占める人たちである。」“はじめに”で清武さんは記している。月刊文藝春秋に連載されていた頃から読んでいたのだが、ここに登場する「幾人もの後列の人」に注目する清武さんの目線、これが素敵だなと思っていた。後方から支え、最前線で活躍する者を補佐する。いや、補佐などという生易しいものではないケースもある。しかし、脚光を浴び光の中に立つのは最前線の者であり、後列の人にスポットライトは当たらない。そして、それで後列の人は充分満足している。最前列の者は後列の人を大切にする。有名な映画賞を受賞したとき、主役俳優がよく言うセリフ「ここに私が立てたのも、監督をはじめ多くのスタッフに支えられたおかげだ」は、後列=裏方への思いである。時には、後列の人を顧みない、自分の手柄にしてしまう最前列の者もいるが、そうした者はいつまでも最前列にいる確率が低いのかもしれない。

清武英利さんは元読売新聞の編集委員であり、読売巨人軍球団代表であった。だが、渡邉恒雄氏の頭越しの球団経営介入に反発し、組織を飛び出した。いわゆる「清武の乱」という事件である。その後、ノンフィクションライターとなった清武さんは、優れた著作を次々と発表していく。バブル経済による日本経済の瑕疵を描いた『しんがり 山一證券最後の12人』(講談社)をはじめ『トッカイ 不良債権特別回収部』(講談社)など、組織と人間が時代の中で引き起こした現実の物語を、新聞記者出身の冷静な筆致と、弱い者に対する優しい目線で描く。このバランスが清武本特有の世界像を作っているように僕には思える。そして今回の『後列の人』は、清武さんの優しい眼差しが十二分に詰まった読み物だと思う。「君死給う」「新しき明日の来るを信ず」「ススメ ススメ コクミン ススメ」「おごりの春の片隅で」「さよなら〈日本株式会社〉」「身捨つるほどの祖国はありや」と全6章に編まれたなかに3話、合計18話が盛り込まれている。いずれも、さまざまな局面で後列に位置する人たちが取り上げられている。そして、これは戦後日本を作り上げてきた人々の記録であり、すぐれた現代史の脇往還である。」


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