日本の近代建築ベスト50 小川格 (著) 新潮社 (2022/1/15) 880円

この建築が、スゴい。

「すぐ見に行ける」傑作選!

建築は、時代と人々を映す鏡である――

日本で近代建築が始まって約100年。

現存するモダニズム建築の傑作50を選び、豊富な写真とエピソードとともに徹底解説。


概要
「近代建築」とは、本書では、1920年頃から始まった鉄とコンクリート、ガラスを主材料とした幾何学的な建築を指し、それ以前の煉瓦造の建築(東京駅等)は含まない。近代建築の別名が「モダニズム建築」で、本書はモダニズム建築の本でもある。
近代建築=モダニズム建築の原則は経済性と合理性の追及である。しかし、50選として、第2章の1960年代で、モダニズムに背を向けた今井兼次、吉阪隆正、村野藤吾の作品、モダニズムでない吉田五十八の作品、第3章でポストモダンの多様な作品も選ばれていて、一筋縄ではいかない。
目次と建築家
○第一章 近代建築の核心ー戦前と1950年代の建築。
16作品。内訳は大正1作品、昭和戦前4作品、1950年代が11作品。ただし、ヒアシンスハウスは昭和戦前の立原道造の設計に基づいて、2004年に建てられた。
○第二章 近代建築の開花と成熟ー1960年代の建築。
15作品。
○第三章 近代建築を超えてー1970年代以降の建築。
19作品。内訳は1970年代6作品、1980年代6作品、1990年代2作品、2000年代5作品。
○建築家別には、多いほうから、前川國男5作品、丹下健三4作品、村野藤吾と磯崎新が3作品である。
私的感想
○本文の全頁に写真と、短く的確な説明が入っており、ビジュアル的に豊かな本である。カラーでないので残念というのは無理難題と思う。
○全体として、たいへんよくできた、優れた新書本である。
○4頁ほどのよくまとまった魅力的なまえがきで、一気に近代建築の世界(著者の世界?)へ引き込まれる。
○初めから感動的な話が続く。うるうるして、泣いてしまった。
☆1ライトの大正12年の自由学園明日館が今も残って使われていること。
☆2昭和5年に美しい白鳥のような小菅刑務所をつくり上げ、昭和7年に34歳で病死した蒲原重雄の話。
☆3は44年間日本で活躍したレーモンドが軽井沢に作った可愛い教会。
☆4は立原道造の悲願の別荘設計が没後65年にして実現する話。
☆5は10年間ぎゅうぎゅう詰めの設計事務所として使われ、その後20年間夫婦の専用住宅となった前川國男自邸。
☆6はバリバリのモダニズム建築なのに、西洋古典要素や日本建築要素が魅力的な坂倉準三の鶴岡ミュージアム。
☆7はレーモンドの自宅をコピーした家が現在に残る旧井上房一郎邸。
☆8はル・コルビュジエがパリの喧騒に疲れた妻イヴォンヌのために保養地カップ・マルタンに建てた休暇小屋。ただし、本物はフランスにあり、日本にあるのはものつくり大学の委員会の作ったレプリカ。
☆9は吉田五十八が吉屋信子の注文で作った新興数寄屋を戦後山口蓬春が買い取り、吉田の設計で増築した画室。
☆10は審査経過に不透明な点があったが、60年以上を経ても美しい姿を保ち続けている村野藤吾の世界平和記念聖堂。
☆11は前川國男の1954年の神奈川県音楽堂と図書館の複合建築。絶妙のオチで終わる。
☆12は丹下健三の広島平和記念資料館。
☆13は彫刻家荻原碌山のモダン奥様(中村屋の創始者)相馬黒光への悲恋と急死のエピソード。建物は長野県民等の寄付金をもとに、今井兼次が1958年に安曇野に建てた碌山美術館。鉄筋コンクリートの壁面の外側に焼き過ぎ煉瓦を積んでいる。
興味深い、勉強になる、よくまとまった、時に感動的な話が続いていく。最後の数行がよく効いているものが多い。」

「日本の近代建築なのに、何故か、ル・コルビュジエの「(休暇)小屋」が入っているので、?と思ったが、よく読むと、ものつくり大学にある「レプリカ」だ。まぁ、取り上げ方がとても面白い。虚を衝いている。45頁の奥さんのイヴォンヌ云々も、面白い記事だ。173頁の白井晟一の話も秀逸。小川さん、さすがに筆が立つ。この新潮新書、養老氏のそれのように、爆発的に売れてくれれば、一般にも「建築」が広がるであろう。大いに期待したい。」


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