落花 澤田瞳子(著) 中央公論新社 (2021/12/22) 968円

平安時代中期。天皇の従兄である仁和寺僧・寛朝は、己の楽音を究めるため、幻の師を追って京から東国へ下った。

そこで荒ぶる地の化身のようなもののふに助けられる。のちの謀反人・平将門だった――。

豪放磊落でまっすぐな将門は、次第に叛乱の将に祭り上げられていく。

戦場に響く喊声、弓矢のうなり……武士の世の胎動を描く傑作長篇。

著者について
澤田瞳子
一九七七年京都市生まれ。同志社大学文学部文化史学専攻卒業、同大学院博士課程前期修了。二〇一〇年『孤鷹の天』で小説家デビュー。同作品で第十七回中山義秀文学賞を最年少で受賞。一三年『満つる月の如し』で第二回本屋が選ぶ時代小説大賞ならびに第三十二回新田次郎文学賞を受賞。著書に『若冲』『火定』『落花』などがある。

「本の帯のキャッチフレーズ風に言えば、「目くるめく澤田ワールド。時は平安中期、所は坂東。野に海に繰り広げられる戦闘の中で見つけた『至誠の声』とは・・・。」でしょうか。
お経に節をつけて唱える梵唄(ぼんばい)、漢詩の朗詠、琵琶の音、香取の海(霞ヶ浦)に浮かぶ傀儡女船(遊女船)、野を駆ける盗賊、そして平将門の乱。歴史の通説とは違う物語ですが、古語を駆使した簡潔な文で、黒沢明のアクション映画さながらの迫力あるシーンが描かれます。
物語の展開で数か所、納得性にちょっと疑問を感じるところがありますが、梵唄(声明)の名手の僧侶・寛朝が坂東の野で探し、聴き、見つけた妙なる音、「至誠の声」の提示は素晴らしいものでした。」

「僧侶から見た平将門。史料か古典にそんなものがあったような気もしますが、話は皇孫の僧・寛朝が色々良くない噂のある坂東で出会った正直な男・平将門と出会う事で始まります。
武勇に優れ下々の者から慕われる将門に寛朝も惹かれて行くのですが、一方でお人よしすぎるくらいの性格を利用され大乱の首謀者として祀り上げられていく姿を歯ぎしりするような思いで見つめるしかありませんでした。」

「英雄史観的かつ英雄叙事詩的な海音寺潮五郎『平将門』に比べて、乱に翻弄される官人や僧侶、傀儡女たちの視点から描かれる生々しい戦禍としての将門の乱。かなり最新の研究成果も取り入れていると思う。
三里離れた山上から俯瞰する将門と秀郷の戦いが斬新。
最初、会話文のヘタクソさで乗りにくかったんだが(海音寺将門の台詞の妙! いや、彼が上手すぎるのだ)、最後は珍しく泣きながら読んだ。
海音寺潮五郎『平将門』という比類なき巨壁がありながら怯まず挑んだ快作。
素晴らしいと思います。」


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