帝国日本のプロパガンダ 貴志俊彦 (著) 中央公論新社 (2022/6/21) 924円

日清戦争に始まり、アジア太平洋戦争の敗北で終わった帝国日本。

日中開戦以降、戦いは泥沼化し、国力を総動員するため、政府・軍部・報道界は帝国の全面勝利をうたい、プロパガンダ(政治宣伝)を繰り広げた。

宣伝戦はどのように先鋭化したか。

なぜ国民は報道に熱狂し、戦争を支持し続けたのか。

錦絵、風刺画、絵葉書、戦況写真、軍事映画など、戦争熱を喚起したビジュアル・メディアから、帝国日本のプロパガンダ史を描きだす。

著者について
貴志俊彦
1959年兵庫県生まれ.広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学.島根県立大学教授,神奈川大学教授,京都大学地域研究統合情報センター教授などを経て,現在,京都大学東南アジア地域研究研究所教授.東京大学大学院情報学環客員教授, 日本学術会議連携会員,日本学術振興会学術システム研究センター主任研究員などを兼業.専門は東アジア近現代史.著書『満洲国のビジュアル・メディア』(吉川弘文館,2010年),『東アジア流行歌アワー』(岩波書店,2013年),『アジア太平洋戦争と収容所』(国際書院,2021年)など.編著『増補改訂 戦争・ラジオ・記憶』(勉誠出版,2015年),『京都大学人文科学研究所所蔵 華北交通写真資料集成』(国書刊行会、2016年),『古写真・絵葉書で旅する150年』(勉誠出版,2018年),『よみがえる 沖縄 米国施政権下のテレビ映像』(不二出版,2020年),『視覚台湾:日本朝日新聞社報導影像選輯』(中央研究院台湾史研究所,2020年)など多数.

「新書形態で、戦前日本のプロパガンダ(政治宣伝)を扱う本。これは試みとしては面白い。
日清戦争から日露戦争、第一次世界大戦期までは錦絵、風刺画の紹介、分析と内容が充実している

しかし満州事変、日中戦争以降は戦争映画のタイトルや言論弾圧の紹介にとどまりあまりにも駆け足すぎる。後半の内容をもっと厚めにしてもいいような気がする。前半までが良かったのでもったいない。

あと気が付いたのは太平洋戦争に従軍した洋画家(鶴田吾郎、藤田嗣治、小磯良平、宮本三郎)による戦争画の扱いが無いこと。新書の制限も理解出来るが、これは入れるべきテーマだと思う。」

「日清戦争期から敗戦後の占領統治期に至る50年ほどを対象期間として、主に日本におけるプロパガンダを論じるというテーマ設定は極めて興味深い。

ただ、新書で本文200ページほどの中に内容を詰め込み過ぎてしまい、各時代の時代背景に関する記述にそれなりの分量を割いていることもあって、プロパガンダそのものについては断片的に一部の事象に言及するに留まっている。結果として、50年ほどの通史の記述の中で、時折プロパガンダに関する話題が出てくるというふうになってしまっている。プロパガンダ単体で見ても、それだけでは理解出来ないことは当然としても、時代背景の記述については分量を少し抑えつつ、もう少しプロパガンダそのものについて詳しく論じても良かったのではないかと思う。
この点、著者はプロパガンダ研究を行っており、詳しく知りたければ本書中でも言及されている著者の研究論文などに別途あたってみるということなのだろうが、一冊の本の完成度ということで言うと、本書はもう一息といった感じになってしまっており、残念。

特に気になったのは、本書の性質上、図表の活用が重要となるが、特に必要性が高いと思われるプロパガンダにかかわる図表が掲載されていないことである。文章で説明しても実物のプロパガンダについて図表があるのとないのとでは、やはり内容の理解には差が出る。資料利用の制約上、どうしても掲載できないというものもあったのかもしれないが、より多くの図表を掲載し、さらにプロパガンダの受容の側面にも、さらに踏み込んだ考察があると、なお良い一冊となっていたのではないかと思う。」


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