ちあきなおみ 沈黙の理由 古賀慎一郎(著) 新潮社 (2020/8/26)

突然の活動停止から28年――

彼女が表舞台から消えた理由は何だったのか?

「ちあきさんは、本当にもう歌わないのですか」

私はこの時初めて、復帰のことを口にしてみた。

「私はもう、十分働いた……」

「それは仕事ということですよね。でもちあきさんが歌うということは、それ以上の何かがあると思うんです。だからこんなにも復帰待望の声が」

私は食い下がった。(本文より)

最愛の夫であり、プロデューサーでもあった郷鍈治の死を機に、ちあきなおみは芸能界から姿を消した。

しかし、彼女の歌声を懐かしみ、永遠の歌姫の復活を願う声は絶えない。

なぜ彼女は歌を封印してしまったのか。

28年間にも及ぶ沈黙の理由と彼女の意外な素顔を、郷の死去を挟み8年間、側で支えた最後のマネージャーが初めて明かす。

「ちあきなおみという歌手の素晴らしさを身を持って感じたのは、ご本人が歌うことをやめられてから、20年以上も経ってからのことでした。
なぜもっと早くに判らなかったのかと悔やみ、全曲集を買い、インターネットで記事や動画を漁りました。「ちあきなおみがもし今復帰してくれたら」「あの曲をちあきなおみが歌ってくれたら」などと妄想したことは数えきれず、その度になぜ今ここにちあきなおみはいないのか、歌ってはくれないのかと、悔しさやもどかしさを感じました。
ですが、筆者が最後に記した、彼女が今も沈黙の歌を歌っているという文章を見たとき、悔しさやもどかしさが、自分の心から剥がれたような感覚がありました。
彼女がその歌声で人間の生を、死を、喜びを、悲しみを、怒りを、無常を、聴者に体感させてきたのであれば、彼女が沈黙し続けることもまた同様に、愛する人の喪失の悲しみを、絶望を、結果的に我々に伝えているのではないかと。
伝えている、という捉え方は、あくまでも聴者本位のもので、妄想めいているかもしれません。でも、少なくとも私は、これからはちあきなおみの「沈黙」に耳を傾け、その中に流れる「喪失」の感覚と静かに向き合っていこうと思っています。」

「①夫兼マネージャーの死が歌手ちあきなおみを変えた。
②「喝采」で音楽界の頂点に立ち、「黄昏のビギン」で静かにキャリアを終える。
③もう復帰は出来ないであろう。女優やバラエティーでも見たことはあったが、何と言っても本業は歌手だ。
なぜ歌う気力を無くしたのか?
著者は探るが、究極の回答は、本人しかわからない。著者はちあきなおみと郷氏の愛の深さを語るのみだ。
演歌とポップスの中間領域がちあきなおみの音楽世界である。
「喝采」の冒頭「いつものように幕が開き、恋の歌唄う私に届いた報せは黒い縁取がありました。あれは三年前、止めるあなた駅に残し…」
この恋の歌は愛する郷氏(喪った悲しみを)を歌ったものではないか?
ちあきなおみには酒がよく似合うが、彼女が唄う歌はド演歌ではない。
これが面白い。
お勧めの一冊だ。」

「ちあきなおみがヒット歌手になってからの話である。年齢的に私は知る由もないのだが、週刊誌に記載された内容の真意を、夫である郷鍈治の次に近い人物であったマネージャーの口から語られていた。
この本を読んで、ちあきなおみという偉大な歌手のことよりも、公私を交えてはいけない、微妙なラインで仕事をしないといけないマネージャーの難しさを感じた。
ちあきなおみを好きな方は、サブ的な意味で読んでみるのもいいかもしれない。」

 

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