小さな事故でもその場で示談にせず警察を呼んだほうがいい理由

「大丈夫」と相手に言われた小さな事故でも警察は呼ぶ?

交通事故の当事者となったとき、ドライバーはただちに警察に通報する義務を負います。

とはいえ実際のところ、軽い接触で車に小さな傷ができた程度であれば、その場で相手方と連絡先を交換し、示談で済ませようとするケースも多いようです。

しかし、警察や保険会社を挟まない当事者間の示談は「トラブルの温床」です。その場ではうまく解決できたと思っていても、あとから支払いや過失割合などをめぐって話がこじれるケースは珍しくありません。

結果として、「こんなはずでは」という思いをすることも考えられるのです。

小さな事故でも警察への通報が必要な理由

警察への通報を怠ると、事故が起きた事実を客観的に示す「交通事故証明書」が発行されません。

交通事故証明書には事故の日時や場所、当事者の氏名や住所、車両データや事故類型が記載され、自動車保険を利用する際などに重要な意味をもちます。

警察署関係者によれば、「その場で通報することができなかった場合などは、あとから警察署へ事故の届け出を行うことも可能ではあります。

しかし、事故から時間が経ってしまうと因果関係の立証が難しくなることもあるため、その場での通報が原則です」とのことです。

つまり当事者間で示談を図り、その場で通報しなかった場合、あとから「事故があった事実」や「事故状況」を証明する必要が生じても、十分な材料が得られない可能性があるということです。

その場で当事者のみが行う示談交渉においては、被害状況を冷静に把握できていないケースも多く、「その場しのぎ」の内容に陥りがちです。

以下に見るように、事故のあとから想定外の被害が発覚する場合も十分に考えられるため、「この程度なら」で済ませることなく必ず通報することが大切です。

あとから負傷が発覚するケースも

事故が起きた直後は体に異変がなく、その場では「大丈夫」と思えていても、あとになってから体が痛みはじめることもあります。

とくに交通事故に多く見られる「むち打ち」は、時間が経過してから症状が出てくることも。首都圏の整骨院経営者によれば、「首には多くの神経が集中しています。

大した衝撃ではないと思っていても、日常とは異なる力がかかりますので、神経や筋肉などを痛めてしまう可能性があり、2、3日経過してから痛みが出てくることもあります」と話しています。

あとから体が痛みはじめ、通院が必要になった場合、通常であれば診断書を警察署や保険会社に提出し、人身事故扱いとしたうえで補償を受けることになります。

しかし、事故の際に警察に通報していないと、事故と症状との因果関係を示すことが難しくなるでしょう。

つまり、その場で通報しておけばスムーズに保険金が受け取れるケースでも、当事者間での示談とすることで、想定外の被害に対する補償を受けられなくなる可能性があるのです。

加害者として通報を怠れば「ひき逃げ」になる?

自分が事故を起こしてしまった場合には、被害者側に怪我があるという前提のもと、救護措置や通報を行うことがドライバーとしての責務です。

たとえ被害者側が「修理費だけもらえればいい」といって済ませていても、あとから体の痛みを訴え、治療費や通院費などが必要となるケースも考えられます。

通報を怠り、その後に被害者の負傷が発覚した場合、必要になるのは金銭的な補償だけではありません。

状況によっては「ひき逃げ」と見なされる可能性があるのです。

先の警察署関係者は、「道路交通法においては事故を起こしたドライバーの『報告義務』『危険防止義務』『救護義務』が定められ、人身事故においてこれらを怠った場合には『ひき逃げ』として厳しい処分が科されます」と話します。

ひき逃げに対する法定刑は「10年以上の懲役または100万円以下の罰金」であり、行政処分として違反点数「35点」が科されます。

さらに事故の原因となった違反に対する罰則もあり、社会的・経済的に非常に大きなダメージを受けることになります。

被害者から「大丈夫」と聞いても通報を

自転車や歩行者と接触した際、その場で被害者の状況を確認し、「大丈夫」という言葉を聞いてその場をあとにした場合にも「ひき逃げ」になるのでしょうか。

警察署関係者は、「実際にどのような違反が適用されるかは状況による」としたうえで、「たとえば自転車にぶつかり、相手が混乱した状態のまま『大丈夫』といわれて立ち去ったような場合には、救護義務違反にあたる可能性は十分にあります」と話します。

被害者は衝突のパニックから、反射的に「大丈夫」という言葉を発することが珍しくありません。

これは当然「負傷がない」ことを意味するものではありませんので、被害者の言葉にかかわらず警察に通報する必要があります。

なお警察署関係者によれば、たとえば自転車側が飛び出してきて自車に接触し、相手が逃げるようにその場をあとにした場合であっても、通報を怠ればこちら側が「ひき逃げ」として扱われる可能性もあるとのことです。

物損事故も通報を怠るとトラブルの原因に

人身事故とはならない物損事故であっても、当事者間での示談交渉が後々のトラブルにつながることもあります。

たとえば事故を起こした側が「修理費は全額支払うので通報はしないでほしい」などと申し出て、これを承諾したケースです。

あとから修理費の見積もりを送った際、一転して支払いを拒否される可能性も否定できません。

支払いを拒否され、結局警察や保険会社に連絡することになれば、その場で通報した場合よりもはるかに多くの手間をとられることになるでしょう。

事故の有無や傷との因果関係を示せず、補償が受けられないことも考えられます。

交通事故の当事者になり、パニックに陥ってしまうと、「この状況から早く解放されたい」という心理から適切に対処できないことがあります。

どんなに軽微な接触で、被害がないと思える事故でも、警察への通報は絶対に怠らないようにしましょう。



おすすめの記事